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再認識した投手心理 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC) にみるメンタルマネジメントの必要性

2013.03.31

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再認識した投手心理
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC) にみるメンタルマネジメントの必要性2013年03月31日

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)において、侍ジャパンは準決勝でプエルトリコに敗れ3連覇はならなかった。
 WBCを通じて、メンタルマネジメントで参考になる点はいくつかあった。中でも二次ラウンド台湾戦の田中将大投手に注目してみる。

なぜ田中選手は突然乱調になってしまったか?/1:試合展開からの影響

 2点をリードされた6回、摂津投手のリリーフで登場する。6、7回と6人の打者に対して4三振を奪う好投を見せた。8回表、日本は阿部、坂本の適時打で同点に追いつく。その直後の8回裏、突然3連打を打たれ失点してしまう。前の回までの田中投手とは別人のようなピッチングになってしまった。なぜ突然、田中投手が乱調になってしまったのか不思議に思うかもしれない。しかしながら、似たような状況が、高校・大学野球でもよく起こるのである。

 この場面での投手の心理状態を、いくつかの視点から見てみる。
まずは試合展開からの影響である。ここまで台湾戦は3回に先制され、打線も台湾のエース王建民に対してチャンスがなかなか作れない。さらに5回には追加点も取られた。この状況で6回から田中投手がマウンドに上がった。田中投手としては、『もう一点もやれない』という心境でマウンドに上がったはずである。実際に気持ちの入ったピッチングで6、7回をぴしゃりと抑える。その心理状態の中、8回の待ちに待った日本打線の反撃で一気に同点に追い付く。
 『なんとか追いついてくれ』と思っていたところで、最終回を前にしてやっと追い付いたのだ。誰もがまずはこのまま負けることは回避できたと『ホッと』してしまう。即ち、一旦高まった気持ちを試合中についつい落としてしまうのである。そうなると闘争心や集中力、勝利に対する『何がなんでも』といった執着心がどうしても薄れてしまいかねないのだ。


2:同点になった投手のマウンドの心理/3:投手の役割による特性

▲東北楽天ゴールデンイーグルス 田中将大選手

 次に、同点になった投手のマウンドでの心理に注目したい。ここまで田中投手は今回のWBCでの不調を忘れさせるような思い切った投球で、台湾打線に立ち向かってきた。心理的には自分の中でやるべきことが整理されたので、そのことにシンプルに集中しやすい状況になっていた。ところが同点になると『慎重に行かなくては』という心理が働いてしまう。そのため、きわどいところを狙いすぎてカウントを悪くしたり、コースを狙いにいって腕が振れなくなりボールに伸びやキレがなくなったりということが起きてしまいがちだ。

 最後に投手の役割による特性がある。先発投手のコメントには『試合を作る』という言葉がよく出てくる。先発型の投手は、試合を全体で考える習慣がある。一方、リリーフ投手は試合をもっと短いスパンで考えている。クローザーは『一球の重み』を感じるであろうし、中継ぎの投手は『この回』を抑えることに集中している。だから、イニングをまたぐ際に『またこの回も行くのかな』と考えてしまう。本来、先発型の田中投手にとっては、ここでもあまり経験のない状況に直面してしまったとも考えられるだろう。

 田中投手は日本を代表する素晴らしい選手である。筆者が指摘した部分が、本人に言わせると異なっている部分もあるかもしれない。しかし、投手経験者なら一度は味わったことのある心理状態だと思う。今回のWBCを見ながら、超一流レベルの選手でもメンタルマネジメントの力はやはり必要であることを、再認識させてもらった気がする。

(文・布施努

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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