試合レポート

高松商vs敦賀気比

2015.11.18

高松商足攻で逆転、古豪復活への神宮大会制覇

高松商vs敦賀気比 | 高校野球ドットコム

山﨑 颯一郎(敦賀気比)

 第1回のセンバツ大会で優勝した高松商と、今年のセンバツ大会で優勝した敦賀気比という、新旧の強豪対決は、終盤思わぬ展開になった。

 まず注目されたのは、高松商の先発投手。
前日の準決勝では、エースの浦 大輝が体調を崩し、急きょ先発した多田 宗太郎が好投した。浦は昨夜も39.2度の熱があり、朝になっても37.4度あった。そこで先発は多田となったが、「エースの目は死んでいなかった」と感じた高松商の長尾 健司監督は、浦をいつでもスタンバイできる状態にしていた。

 一方敦賀気比の先発は、当然エースの山﨑 颯一郎。188センチの長身から投げ下ろす変化球を、なかなか攻略できない。それでも、多田も好投し、序盤は息詰まる投手戦になった。

 先制したのは敦賀気比。5回裏中前安打の本間太一を1番・植村 元航が左翼手の頭を越える二塁打で還してまず1点。3番・林中 勇輝は前進ダッシュして捕球しようとする中堅手の前に落ちるポテンヒットが二塁打となり、もう1点を追加した。

 ここで高松商は、多田に代えて、エースの浦を投入する。
「多田はキチッとやってくれました。あそこはポテンヒットという、嫌な取られ方をしたので代えました。ダメなら、美濃で行こうと思っていました」と長尾監督は語る。

 それでも浦にもエースのプライドがある。「昨日は多田がいいピッチングをしたので、今日はエースの自分が、いいピッチングをしようと思いました」と浦は言う。

 そして7回裏に上中尾 真季の中前安打で1点を失ったものの、「低めに集めて、丁寧に自分の投球をしようと思っていました」と浦が言うように、球速はそれほどなくても、敦賀気比の強力打線を丁寧に打ち取っていく。それでも7回を終わって3点のリードは、好投手・山崎を擁する敦賀気比には十分な点差に思えた。

 しかし、野球はそんなに甘くない。
高松商の長尾監督は「7回くらいから、(山﨑の)ボールが抜けだした、チャンスだぞという暗示をかけました」と言う。そして8回表高松商はビッグイニングを迎える。

 8回表この回先頭の9番・山下 直樹は一ゴロ。山﨑が一塁のカバーに入るが、送球がわずかに高い。俊足の山下は頭から滑り込んで、内野安打に。1番・安西 翼は四球、代打の荒内 俊輔は三塁線への絶妙のバント。山﨑が処理できず内野安打になり満塁。打席には主将で3番の米麦 圭造が入る。山﨑はここで暴投。高松商が1点を返す。さらに米麦の中前安打で2人が還り、高松商が同点に追いつく。同点打の米麦 圭造は、「自然にバットが出ました」と語る。


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高松商業、歓喜の瞬間

 さらに5番・美濃 晃成は、一塁ベースの上を超えていく長打。米麦が還り逆転。右翼手が打球処理を誤り、打球がライトフェンス沿いに転がる間に美濃は三塁を陥れた。そして6番・植田 理久都の左前安打で美濃も還り、この回一気に5点を入れた。

 それでもまだ2点差。8回裏敦賀気比の4番・橋本 篤弥の遊ゴロを、高松商の遊撃手・米麦は一塁に暴投し、橋本は一気に二塁を狙ったが、カバーした捕手の植田 響介が、二塁に好送球し、橋本はアウト。反撃が続かない。

 9回表高松商は、この回先頭の山下 直樹が中前安打で出塁すると、1番の安西 翼、2番の荒内 俊輔が、投手の捕球エリアで三塁線の同じような場所にバント。ともに内野安打になった。

 特に荒内のバントは投手の一塁への悪送球を誘い、山下が生還。2つのバントは一見セーフティバントのようにみえるが、長尾監督は「あれは送りバントです。荒内、安西は、ピッチャーの正面でもギリギリです。きちっと転がしたら、セーフになると言っています」と語る。バッテリー以外は、みんな走れる選手が揃っているのも、高松商の強味だ。

 そして重要なのは、高松商の選手たちは、バントの時バットにしっかり当ててから走っていることだ。今までは、当たる前に走るようなこともあったという。守備でも、しっかり捕ってから投げる。スピード感があっても、一つひとつのプレーを丁寧にする。これが伝統校らしい、スキのない野球を生み出している。

 9回表はさらに、美濃の中前安打で安西と荒内も還り、この回3点。9回裏の敦賀気比の攻撃を0に抑え、8対5で高松商が勝利し、優勝を決めた。

 8回に一気に逆転された敦賀気比山﨑 颯一郎は、「ランナーが出てから慌ててしまいました。悔しいです」と語った。敦賀気比の東 哲平監督は、「(山﨑は)ピンチになってから弱い。今回で分からなかったらダメだ、と語った。8回と9回、山﨑がいくら窮地に立たされていても、東監督は代えようとしなかった。それは試練を通して、多くのことを学んでほしいと考えているからだ。

「エースとして、ただ投げるだけでは勝てない。ここでどう変われるかだ」と東監督。最後に脆さをみせてしまったが、力のあるチームであることは確かだ。この時期に、教訓の多い試合をしたことを、いかにプラスにしていくかが重要だ。

 一方、明治神宮大会で県立高校が優勝するのは、第30回の四日市工以来16年ぶり。高松商には、前回大会で優勝した仙台育英佐藤 世那平沢 大河のような際立った選手がいるわけではない。それでも一つ一つのプレーを基本に忠実に、しっかりと、そしてスピード感をもって行った動きは、見ていて気持ちよく、多くの学校の手本になるのではないか。

 ただ古豪復活との声に、長尾監督は「復活はしていないです」と語る。そして「伝統は続かないといけないです」とも語っている。完全復活とは言えないまでも、この優勝が復活への第一歩となったことは間違いない。

(文=大島 裕史

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・第46回明治神宮野球大会 特設サイト

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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