慶風vs県立和歌山
試合シーン01
新しい風
3年ぶりに流れた校歌を聞いて、慶風の指揮を執る谷所憲之監督は感慨深げな表情であふれていた。
「今まで地道にやってきたことが、間違いじゃなかったって。コイツらは、ホンマにようやってくれました」。
40校が集い、この日開幕した和歌山大会。その40校の中で最も歴史が新しく(平成17年創部)、なおかつ歴史のある古豪が多い、野球王国でもある和歌山。その地で、確かな足跡を残した瞬間だった。
勝因は、エースで4番で主将でもある大黒柱の山田の力投に尽きる。低めにスライダーを集め、内野ゴロを打たせた。コースをうまく突くピッチングも冴え、9個の三振を奪う力投も光った。
「バッターが、スライダーを振ってくれていたし、今日は腕が振れているなと思いました。四球でランナーを出してピンチを招いた場面もあったけれど、バックがよく守ってくれたお陰です。今日は自分のピッチングよりも、みんなで勝てたと思います」と、胸を張った。
部員は18人。寮も専用球場もあるが、学校は私学の通信制。全日制の高校とは条件は異なるが、甲子園を目指す気持ちは一緒だ。
「うちは全日制の学校と違って、志望校に落ちてしまった生徒など様々な理由のある生徒が集まっています。ここで野球をやりたいって集まっているわけではないのですが、一生懸命やってくれるんです」(谷所監督)。
試合シーン02
もちろん実績のある選手が集まっている訳ではない。でも、創部当初は技術指導より、まず生活態度、あいさつ、マナー等、人間指導を徹底した。
「野球がうまくなるより、まず自分のことをきちんとやれないと。特に掃除やゴミ拾いは毎日のようにやっていました」。メンタルトレーニングも取り入れ、どんな場面でも自分の気持ちを制御できる鍛錬も積んだ。
試合勘を養うために、とにかく外にでることに努めた。練習試合はもちろん、合同練習や合同遠征。練習試合では45対0で大敗した過去もある。だが、伝統校の多い和歌山では、刺激になるライバル校も多かった。そんな中、最も合同練習を共にしてきたのが、車で20分ほどの距離にある、今日対戦した県立和歌山だった。
「(県立和歌山の)辻本監督にはいつも良くしていただいていているんです。対戦が決まった時、本当に複雑でした。でも、やるからには自分たちのやれることをやっていこうと思っていました。次の試合では県和歌山の分も頑張らないと」と指揮官は兜の緒を締めた。
6年目の歴史の中でつかんだ公式戦3年ぶりの勝利は、まだ2勝目だ。戦いはまだ続く。
「新チーム結成後から大事にしてきたのはチームワーク。チーム結成当初はバラバラだったところもあるけれど、ここにきてチームワークが良くなってきた。今日のような試合が次も出来れば」と、話してくれたキャプテンの表情からは、自信が満ちあふれていた。18人が手を取り合い、次戦では県内屈指の古豪、桐蔭に立ち向かう。
(文=沢井史)