試合レポート

光星学院vs愛工大名電

2012.04.01

考えさせれれる、愛工大名電バッテリーと北條史也の対決

 
 準々決勝2日目、光星学院愛工大名電戦の前日、名電バッテリーは光星打線で警戒するのは1番天久翔斗(右翼手・右投左打・166/65)と3番田村龍弘(捕手・右投右打・173/78)の2人だとマスコミにコメントした。超高校級スラッガーと評判の4番北條史也(遊撃手・右投右打・178/73)の名前はそこにはなかった。

 2回戦の京都近江戦で5打数3安打4打点と大当たりした主砲をなぜ、と首を傾げる向きもあったが、私には理解できる。反動をつけた性急な一本足とストレート狙い以外の何ものでもないせっかちなステップを見れば、変化球を主体にした緩急の攻めで料理するのはワケがないと誰だって思う。

 1回裏、得点圏に走者を置いた場面で北條を打席に迎えた愛工大名電バッテリーに躊躇はなかった。他校なら一塁が空いているのでくさいところを突いて、カウントが悪くなったら歩かせろ、くらいの指示がベンチから飛んでくるところである。しかし、愛工大名電バッテリーは勝負した。その配球を振り返ってみよう。

 [1]内角低め114キロスライダー(ボール)、[2]内角低め116キロスライダー(見逃し)、[3]外角低め115キロスライダー(見逃し)、[4]外角低め121キロチェンジアップ(ボール)、[5]110キロスライダー⇒北條はこれを左前にライナーで運んで、田村を迎え入れる。

 濱田達郎(投手・左投左打・183/88)と中村雄太朗(捕手・右投両打・175/71)の愛工大名電バッテリーは“緩急”を忘れていた。ストレート狙いの打者には変化球を、というのは平凡な打者に対する攻め。北條に弱点はあっても、プロのスカウトが注目する超高校級スラッガーであることに間違いはない。「緩」だけで抑えられると思った愛工大名電バッテリーのほうがお粗末だったと言える。


 光星学院1点リードで迎えた4回表、愛工大名電は6番鳥居丈寛(一塁手・左投左打・172/80)の三塁打で追いつき、6回表には7番中村の投安打で逆転。そして追う立場になった光星学院は7回裏に城間竜兵(二塁手・右投右打・171/75)のタイムリーで同点と、追いつ追われつの展開になる。昨年秋の明治神宮大会決勝がこんな流れだった。

 この均衡が破れたのは8回裏だ。光星学院は先頭の2番村瀬大樹(左翼手・右投右打・168/65)が二塁打で出塁すると、続く田村が中飛で倒れて、打席に入るのは北條。

 1回のタイムリーのあと、北條は2打席連続三振に倒れている。8回の攻撃を再現する前に、3、6回に愛工大名電バッテリーがどんな攻め方をしたのか振り返ってみよう。

◇3回裏、2死走者なし……[1]外角低め121キロスライダー(見逃し)、[2]内角135キロストレート(ボール)、[3]外角117キロスライダー(ボール)、[4]外角122キロチェンジアップ(空振り)[5]真中132キロストレート(ファール)、[6]真中132キロストレート⇒空振り三振。

◇6回裏、2死走者なし……[1]内角129キロストレート(見逃し)、[2]内角119キロスライダー(見逃し)、[3]外角低め133キロストレート⇒見逃し三振

 この2打席の配球を見れば、愛工大名電バッテリーがしっかり緩急を交えて攻めているのがわかる。「急」を入れてこそ「緩」が生きる。そして「急」は甘いコースに入れないで、厳しい内角に入れてこそ、そのあとの「緩」が生きる――そういうことをしっかり頭に入れて臨んだ8回裏の対決のシーンである。


 局面は1死二塁。前の2打席で北條を連続三振に打ち取っている愛工大名電バッテリーは自信を持って内角を攻め続けた。

 [1]内角高め135キロストレート(ボール)、[2]内角高め137キロストレート(ボール)、[3]内角低め114キロスライダー(ボール)、[4]内角高め115キロスライダー(ファール)、[5]外角119キロスライダー(ファール)、[6]内角134キロストレート(ファール)。

 3ボール2ストライクとボールが先行しても、愛工大名電バッテリーには自信があった。これだけ緩急を交えて攻めておけば、北條はストレートだけ待つわけにはいかない。そして、その性急なステップでは内角のストレートにタイミングが合うわけがない。

 愛工大名電バッテリーが勝負球に選んだ7球目は内角低めのストレートだった。しかし、計算し尽くしたこのストレートが低めに逸れて死球になってしまう。打ち取る自信があった球だけに、この死球はヒットにも相当するような打撃を濱田に与えたことだろう。

 5番武田聖貴(一塁手・右投左打・170/75)は何とか三振に打ち取ったものの、余力は大して残されていなかった。6番大杉諒暢(三塁手・右投左打・175/70)に投じた4球目のストレートは見事に中前にライナーで運ばれ、これを中堅手の松原史弥がヘッドスライディングキャッチを試みるも捕りきれず、今大会初となるランニングホームランとなり、勝負は決した。

 この試合の勝負のポイントは、北條と対戦した1回と8回の場面である。愛工大名電バッテリーは理詰めで北條に対して、北條は執念と反発心で結果を残した。理詰めでチームを95パーセント構築しても、高校野球で最後にモノを言うのは根性なのかもしれない、そういうことを考えさせられた一戦だった。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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