創部43年の歴史を持つ上尾シニア。魅力は均等な出場機会から生まれる選手の自主性
埼玉県上尾市の平方スポーツ広場で練習を行う上尾シニア。1977年に発足して今年で43年目の長い歴史があるチームで、2年生25名、1年20名の計45名で活動し引退した3年生も27名が在籍していた。
リトルシニア全国選抜大会では3位の成績を2度残すなど実績もあるが、その指導方針はどういったものなのか。チームを率いる溝口勝久監督にお話を伺い、また前チームで主将を務めた3年生の北島 蒼大選手にもチームを紹介していただいた。
試合出場の機会は均等、スタッフ間で「レギュラー」の言葉は禁句
ティーバッティングを行う上尾シニアの選手たち
溝口監督はチームの指導者となり18年、監督に就任して今年で9年目になる。
就任当初から一貫して行っているのが、試合では勝ち負けにこだわらずにたくさんの選手を試合で起用することだ。多感な時期の選手たちに不公平感を持たせないことももちろんだが、どの選手もしっかりと育成して野球を好きなまま卒業して欲しいという思いが根底にある。
練習機会や試合への出場機会は可能な限り均等になるように心掛けており、指導するスタッフ間で「レギュラー」の言葉は禁句。選手には常に競争の意識を持たせており、チャンスを掴み取る意識を植え付けているのだ。
「評価するのは自分じゃないよ、評価するのは他人だから評価されるような選手になりなさいと指導しています。自分で自分を評価しても何のプラスにもならないですし、そこは親子様にも方針をお伝えしています。
私は公式戦であっても試合にはなるべく多くの選手を出します。だからいつもネット裏でスコアブックをつける方は、僕の試合を担当したくないと言うんですよ。選手交代が多いから書くのが大変なので」
また出場機会を多く与えることは、自主性を育むことに繋がっている。
普段から選手交代を頻繁に行っていると、先発メンバーでない選手でも「チャンスが回ってくるかもしれない」と自主的に準備を始めるというのだ。そうした伝統がチームに根付くと自然とチーム内競争も激しくなり、実力を一気に伸ばす選手も多くなる。自分のことを主力と思っている選手にも焦りが生まれてくるのだ。
「チャンスが回ってくるとの選手たちもわかっているので、いきなり呼んで代打や守備交代と言っても驚きません。入団した選手には、まず一番最初にそのことを言ってるんです。俺はいつ声かけるか分からないから常に準備していなさいと」
溝口監督の指導に惹かれて上尾シニアに入団した北島 蒼大選手
注目選手の北島蒼大選手(上尾シニア)
そんな溝口監督の指導に惹かれて、上尾シニアに入団したのが前チームの主将で3年生の北島 蒼大選手だ。
リトルリーグ時代の憧れの先輩が上尾シニアにいたことでチームに興味を持った北島選手だが、いざ練習に参加するとチームの雰囲気や指導者の熱意、高い競争意識に非常に刺激を受けたと振り返る。
「溝口監督は練習ではそれほど口数の多い方ではありませんが、試合になると非常に熱意を感じて僕たち選手もとても気合が入ります。キャプテンの僕がよく声が出さなくても、勝手に盛り上がっていくチームでした。
またこのチームは若い指導者も多いです。接しやすい方がたくさんいらっしゃったので、キャプテンとしてどうやってチームを引っ張っていけばいいのか教えていただきました」
現在は中学野球を引退して、高校野球に向けてトレーニングを積む北島選手。
現役中は1番打者として打線を牽引し、また守備では遊撃手と捕手をこなすユーティリティ性を発揮し、好守の要として活躍した。
「みんな体が大きく練習試合では結構打っていたのですが、公式戦になると弱気になってしまいそこが課題のチームでした。でも僕個人としては、主将としてコーチから言われたことを選手みんなに伝えていく立場だったので、そういった面では2年半で大きく成長できたと思います」
北島選手は大宮リトル時代から捕手として活躍したが、中学野球ではショートを守りたいと思い、実は上尾シニアに入団当初は捕手であることをこっそり隠していた。だがチームメイトの一言で捕手であることが発覚し、捕手と遊撃手を兼務することに。
それでも持ち前の野球センスで、見事に2つのポジションをこなしチームを支えた北島選手。来春からスタートする高校野球でも、マルチに活躍したいと意気込む。
「高校ではまずはキャッチャーを守りますが、持ち味の肩の強さを活かして色んなポジションができるようになりたいと思います。
目標とするのは、東海大菅生の福原聖矢選手です。この夏も試合も見ましたが、1年生から試合に出場して内野も捕手も守れて、本当に凄いなと思いました。福原選手を追い越せるような選手になりたいです」
北島選手以外にも、上尾シニアには最速142キロの大型右腕のハッブス大起投手などが高校での活躍が期待されており、また2年生にも左腕の唐箕大和投手といった実力のある選手がいる。競争心と自主性を掻き立て、選手を人間として大きく育てる上尾シニア。これからどんな選手が頭角を現すのかとても楽しみだ。
(取材=栗崎 祐太朗 )