都立府中工vs順天
府中工のリードオフマン中村君
1点をめぐる攻防、わずかに守りのリズムが崩れた順天
東京都の春季大会、一次のブロック予選は、ほとんどの場合が学校のグラウンドが会場となる。秋季大会でブロック予選を勝ち上がっている場合は、会場校は場所の提供だけですむのだが、秋に早く負けていると会場校としての運営と、チームの春季都大会進出へ負けたくない試合の準備と、両面の気苦労がある。この春の府中工はそんな立場である。
初戦を大島国際海洋と延長10回を戦い、1対0で辛勝した府中工。
この日も、順天と息詰まるような投手戦を展開して、わずかに相手のスキを突いた形になって接戦をものにした。
先制したのは順天で2回、4番原田君が左中間二塁打すると、投手ゴロで進み寒河江君の中前打で帰った。しかし、その裏府中工も、5番岡山君が安打で出ると2死一二塁から9番鈴木康君の三遊間をゴロで破る安打で追いついた。すぐさま同点に追いついたことで、試合は一進一退のまま、両投手の投げ合いとなった。
順天の平林君はタテとヨコの2種類のスライダーがキレていて、そう簡単には打たれないという感じだ。これに対して府中工の佐々木君も、立ち上がりストレート中心で攻めていたが、狙われていると感じて中盤からは変化球を中心に打たせていく投球に終始した。
その後は、両投手がしっかり投げて1対1のまま試合は終盤に差し掛かった。
そして迎えた7回、府中工は1死後1番中村君が四球で出塁。中村君は、前の打席も安打で出塁すると二盗、三盗を決めている。足には自信のある選手で、「行けたら行っていい」という指示を貰っている。だから、出塁すると果敢にすぐに二盗を決めた。2死にはなったが中村君の動きが微妙に野手のリズムを狂わせたのか…。神崎君の内野ゴロが送球ミスを誘い、二塁から中村君が生還した。結果的に、これが決勝点となった。
順天・平林君
順天の平林君は、体は大きくはないがタテとヨコの2種類のスライダーがあり、この使い分けが巧みだった。
昨秋に就任した、順天和田光監督は、「ストレートの制球が、いつもよりは良くなくて、その分球数が多くなってしまい、ちょっとリズムも良くなかったのでしょうかね。まあ、打てなかったということもありましたけれども…」と、攻守にいくらか悔いが残った様子だった。
しかし、グラウンド環境にも恵まれていない順天である。2度も、本塁で走者を刺すなど、しっかりとした守りも見せていた。この時期に、ここまでのまとまりのチームを作り上げられたのは、日ごろの地道な練習を積み上げた成果と言っていいだろう。
ただ、夏までは監督としてチームを見ていたベテラン指導者の杉野光永部長は、「(府中工の中村君は)警戒していたのに、やっぱりやられてしまいました。前の試合は3番に入っていたのが、この日は1番で来たから、厭な感じはしたんですよね」と、わかっていながら中村君に振り回されたことを悔やんだ。
府中工の弘松恒夫監督は、「少しでも打席がくるように1番に置いたのですが、結果的には成功しましたね」と、満足気だった。そして、何とか1点差の試合をものにしたことに安堵していた。「負けない試合が出来たと思います。前の試合も延長で1点差でしたから、このチームはこういう試合は持ち味です」と、見た目の迫力や威圧感は乏しいものの、それぞれが自分たちがやれることをきっちりとこなしていくという身の丈に合った野球が浸透してきているという印象である。
会場校としての運営とともに、まずは当面の目標であった本大会進出を果たし、ホッとした様子でもあった。
(文=手束仁)