ますます二極分化の進む令和時代の高校野球の現実
下関国際 ※写真=日刊スポーツ/アフロ
仙台育英(宮城)が、東北勢としては悲願でもあった全国制覇を果たして第104回全国高校野球は幕を閉じた。一昨年は新型コロナウイルスの影響で春夏共に中止ということになったため、令和時代になって、春夏合わせて5校目の優勝校ということになった。令和になってからの優勝校は大阪勢で履正社と大阪桐蔭の2校。あとは東海大相模(神奈川)、智辯和歌山(和歌山)、そして仙台育英ということになった。いずれも、全国的にもよく知られている、いわゆる高校野球の強豪校という呼ばれ方をする学校である。
ことに今大会は、今春のセンバツで圧倒的な強さを示して優勝を果たした大阪桐蔭の春夏連覇があるのかどうかという一点に興味は絞られた。その大阪桐蔭を準々決勝で下したのが、山口から4年ぶり3回目の出場を果たしていた下関国際だった。下関国際は2017年夏に初出場を果たして以降、翌年の春夏連続出場を含めて、ここ数年の間に春2回、夏3回目の出場となっている。
大阪桐蔭を下して勢いに乗った準決勝では、春の準優勝校の近江(滋賀)も下して決勝進出を果たした。春の決勝進出の両校を下しての決勝進出ということになった。振り返ってみれば、結果として決勝進出すべくして最後まで残ってきたとも言える。
ここ数年の間に一気に躍進してきた中国地区の新鋭校という位置づけになるのだが、2005年に就任した坂原 秀尚監督が、野球部の状態としては、ほとんどゼロに近い状態からチームを作り上げて、この位置に辿り着いたと言っていいであろう。
山口には宇部鴻城、高川学園など強豪はあるが、今回躍進した下関国際が山口県内では安定した強豪校として定着していきそうな気配も十分にある。今大会の選手の内訳を見てみると、山口県出身者は1人で、隣県の広島県、福岡県をはじめ、兵庫県、大阪府といった地域からの選手で固められていた。
仙台育英 ※写真=日刊スポーツ/アフロ
優勝した仙台育英は、1989年夏に初めて決勝進出を果たして以降、春夏合わせて3度決勝進出を果たしていたが、いずれも最後の壁を破り切れないでいた。それだけに、今回4度目の正直という形での初優勝での喜びは大きかった。選手は、系列中学の秀光中出身者を含め、宮城県出身者が多いが、東北全県や関東などからの入学者もいて、チームの格を担っている。特に今大会では、投手陣の層の厚さは圧倒的だった。全部員82人のうち、19人が投手だということで、まさにプロ野球顔負けの「投手陣」ということになるのだけれども、こうしたチームのあり方というのも、これからの高校野球のスタイルとなっていくのであろうと思わせた。
つまり、圧倒的な戦力を作り上げるためには、同世代の能力のある選手を積極的に集めていき、投手複数制は当たり前のことで、投手陣だけではなく、野手も含めて、いかに正選手と控えの選手との差を少なくしていけるかということが、戦力充実への近道ということになる。
甲子園のバックスクリーン
こうなってくると、2000年以降の高校野球界の雄とも言える大阪桐蔭に見られるように、全国の有望中学生の中でも、最も能力の高い選手たちが、集まってくるような環境作りが一番大事ということにもなる。二極分化の進んでいる現在の高校野球では、全国各地でこうした形で有望選手に声を掛けていくスカウトシステムを取っている学校が多くあり、実績も挙げている。
そうした学校の多くは、有望中学生をチェックして、中学生のスカウトをメインとする役割のコーチを置いているところもある。そして、最終的には監督がチェックして獲得するかどうかということを決めていくのである。つまり、「中学生選手に対して、いかに確実な情報収集ができているのか」ということが、それぞれのチーム作りの根幹になってきているということである。
そうして見ていくと、今の高校野球の上位レベルの学校というのは、いかに好素材を集めてくるのかというところから始まる。というよりも、もっと言えばそのことがチームの浮沈の大きな要素となっているのだ。
よく、人材育成の3要素としては「見つける」「育てる」「生かす」ということが言われる。その比重が、現在の高校野球の上位校の場合で言えば、「見つける」が6割、「育てる」と「生かす」が2割ずつというような気がしてならない。もちろん、人材発掘というのは、企業経営としても最も重要な要素でもある。だから、高校野球でも好素材を見つけてくるということは、チーム強化ということから言えば極めて当たり前で重要なことではある。
しかし、「たたき上げ」という言葉もあるように、いわゆる並の存在だった者が、努力と経験を積んでいきながら、学習していきながら成長していくというケースもある。ただ、高校野球の場合、毎年毎年選手が入れ替わる。一つの素材をじっくりと育てていくには、あまりにも時間がないというのも現実だろう。長く見ても2年4カ月でチームを作り上げていかなくてはいけないのだ。
まして、野球は経験値も大事な要素となるスポーツである。だから、有望な人材を発掘して、早くから経験を積ませていくということが最も手っ取り早くて効果的なチーム作りということになる。それができる学校と、なかなかできにくい公立校との格差は、実際の現場では、ますます差が開いていくというのは否定できない現実となってきている。
それでも、そんな格差のあることも分かっていながらも対等の条件で戦っていく。それが、高校野球の魅力の一つとなっているのかもしれない。令和時代の高校野球は、夏の大会の開催方法も含めて、改革へ向けて議論されていく課題も多くありそうだ。今後、どういう方向へ進んでいくのだろうかということは分からない。だけど、100年以上の歴史を重ねて積み上げてきた高校野球の文化をどう維持していくのかということも、常に考慮してほしいとも思う。
四字熟語で言えば「不易流行」という言葉が、今こそ高校野球にとって、最も必要な考え方なのではないかと思っている。
(記事=手束 仁)