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股関節と肩甲骨とインナーマッスル ~野球界の流行語を斬る~

2012.02.09

廣戸聡一の4スタンス理論 第5回 「軸と4スタンス理論」

第10回 股関節と肩甲骨とインナーマッスル ~野球界の流行語を斬る~2012年02月09日

単一の関節にばかり目を向けている現実

【廣戸道場 廣戸聡一先生】

 最近、野球界でよく耳にする言葉に“股関節、肩甲骨、インナーマッスル”などといったものがあります。ことさら、これらの柔軟性が重要視されており、現場に行ってもいろいろな方法で柔らかくしようとしています。

 大概はケガの予防のために行っているようなのですが、実は逆効果になってしまうこともあります。今回はこの流行語の本質を探りながら、本当に必要な体の柔軟性についてお話したいと思います。

 以前にも触れましたが、野球選手にとって柔軟性というのはとても大切な要素となります。動くべき箇所が固まって動かないと、パフォーマンスは発揮できませんし、ケガも招きます。それで皆さんは、大きな関節である肩甲骨と股関節が大切だ、ということになっているのでしょう。もちろんこれはまぎれもなく正解です。

 ただ、肩甲骨なら背中だけ、股関節なら足の付け根だけしか見ていない。そこが柔らかければいいというか、とにかく可動域を出そうとしています。これだと単一の関節だけを緩めることになるので、そこに大きな力がかかってケガをしてしまうことがあります。人間のひとつの関節というのは大きな力を発揮するときには、ある程度動きが決まっています。つまり、そこ「だけ」を柔らかくしてしまうと、逆に望まないような結果となってしまうことがあるということなのです。


【柔軟性について解説する廣戸先生】

 では、どのような柔軟性が必要なのか。ひとつ例を出してみましょう。幼い子どもと、中年のおじさんがいたとします。このふたりが「ハイ!」と手を挙げたところを想像してみてください。…おじさんは肩から先の腕だけを使って手を挙げるでしょう。対する子どもは、重心が移動して、ろっ骨が動き出して、肩甲骨も動いて…「ハイッ!」となります。

 大人は腕だけ、子どもは体全体を使って元気よく。まるで動きが違うというのは、皆さんも経験上わかるはずです。

 子どもの頃というのは誰もが柔軟な体をしています。あれこれ考えて動かさなくても、自然な動きができるようになっています。ところが、年を取るにつれて体が硬くなってきます。これは関節そのものが動かなくなっているというよりは、体をしなやかに動かせなくなっているという意味での硬さといえます。これは高校球児でも一緒。いろんなトレーニングを積んでいく過程で徐々に柔軟性を失っていきます。肩甲骨や股関節のストレッチだけを一生懸命しても根本は解決しません。大切なのは肩甲骨も股関節も含めた“体幹”の柔軟性であって、個々の関節ではないということを、もう一度認識してほしいと思います。

 高校野球は「元気よく」行うべきだと言われます。元気に見えるということは躍動感があるということ。つまりは体幹がパワフルに動いているということなのです。しかし、実際の指導では偏った筋トレなどで固める練習をしています。それなのに野球ではしっかり動けと言ってもおかしな話でしょう。インナーマッスルだって本来は無意識に使われる箇所です。軸をきちんとつくって、しかるべき体の使い方をしていれば、自然と力を発揮できるようになっています。そこを意識して使おうとするから無理がくるのです。

 ここまでいうと、個々の関節の柔軟性を否定するように聞こえるかもしれませんが、実際は関節の柔らかさも大切なことです。ガチガチに硬い関節では当然ケガをしやすくなります。ただ、大切なのは全体のバランスです。このバランスが整ってくると力の連動を止めるものが少なくなってきます。軸ができていて、体が連動すること。これが本来求めるべき柔軟性だといえるのです。

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■次回の廣戸聡一の4スタンス理論の公開は2012年02月16日予定です。お楽しみに!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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