試合レポート

済美vs三重

2013.08.15

155キロ右腕 安楽智大の7失点から考える投球の基本

 

 大会屈指の本格派・安楽智大済美2年・右投左打・187/85)が苦しみ抜いた試合だった。1回裏、先頭の濱村英作(左翼手)に投じた初球は149キロのストレート。大会前、寺原勇人日南学園)が01年夏に記録した甲子園史上最速の158キロに「並ぶ」と宣言した安楽の意欲を感じさせる快速球だった。

 しかし、4球目の151キロを激しくレフト前に弾かれて、アレ?と首をかしげた。重ねて言うが、いとも簡単に151キロのストレートが逆方向に弾き返されたのだ。思い返せば、昨年の選抜大会大阪桐蔭藤浪晋太郎(阪神)は、150キロ台のストレートを光星学院北條史也(阪神)や田村龍弘(ロッテ)にカンカン打ち返されていた。マシンの発達などによって、150キロ台のストレートは絶対的な脅威ではなくなっているということである。

 三重レベルの打線ならストレートとわかっていれば150キロでも打ち返すのに、マスコミの過剰な報道もあって、安楽は自分のストレートに絶対的な信頼感を寄せている。確かに変化球を交えた緩急の中でなら安楽のストレートは甲子園史上でも屈指の威力を誇っているが、速いストレートだけ投げていれば大丈夫だった時代はせいぜい江川卓作新学院)が伝説になった73年夏くらいまで。しかし、安楽はそれがわかっていない。5回までの6安打中4本の結果球はストレートだった。

 1回・濱村英作 151キロストレート→左前打
 2回・小川竜清 146キロストレート→左前打
 3回・濱村英作 136キロストレート→左前打
 4回・小川竜清 140キロストレート→右前打

 詳細に調べたわけではないので確信を持って言えないが、ストレートのときと変化球のときとでは投球動作の速さが違うように見えた。1回裏だけのデータで申し訳ないが、「左足が動いたときから投げた球がキャッチャーミットに届くまで」の“投球タイム”は、ストレートのときで1.5秒台、カーブのときで1.9秒台と大きな差があった。これほど大きな差があれば、ビデオなどで調べれば直曲球を投げるときのフォームは必ず目に見える形で違っていたはずだ。三重打線があらかじめストレートがくることがわかっていたのではないか、というのはこういうデータがあったからだ。


 それでも8回まで2失点に抑えたのだから騒がれるだけのことはある。2、3回は1死二塁、4、5回は2死二塁と得点圏に走者を進めながら後続を内野ゴロ、あるいは三振で斬って取り得点を許さない。その大きなポイントは緩急の攻めであり「内角球」を使った攻めである。ストレートとわかっていても、内・外角を出し入れされたら攻略は簡単ではない。そういう攻めが3回くらいからできていた。

 9対2と大量リードした9回は、もう大丈夫、と気持ちに緩みが出たのだろう。再び寺原の158キロに挑戦したがっているように私には見えた。

 宇都宮東真 146キロストレート→右前打
 島田拓弥 139キロストレート→左前打
 小川竜清 142キロストレート→中前打
 山口竜平 150キロストレート→右前打
 濱村英作 148キロストレート→左二塁打

 5安打1死球の滅多打ちを食らい、9対2のスコアはあっという間に9対7まで迫られていた。打たれたすべてのヒットはストレートである。ついでに言えば、西村広大の犠牲フライもストレートだった。コースを狙わず、緩急の基本を忘れれば安楽の快速球でも打たれるという教訓をここでも教わった。

 安楽以外の話をしよう。大きなポイントになったのは1回表の済美の攻撃で、ヒットで出塁した1番山下拓真(右翼手)が相手内野陣の送球を体に受けてベンチに下がってしまったことだ。代わりに出場したのが背番号「15」をつけた盛田翔平で、この盛田がラッキーボーイになった。

 0対2でリードされた2回は1死満塁の場面で打席に立ち押し出しの四球、3対2でリードした6回は1死三塁で犠牲フライ、7回は2死三塁で左前タイムリー、9回は四球で出塁したのち二盗に成功し、捕手の悪送球も重なり三進し、2番林幹也のタイムリーで生還するという活躍ぶり。山下が回復した3回戦でどういうスターティングメンバーを組むのか、今から楽しみである。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.22

【愛知・全三河大会】三河地区の強豪・愛知産大三河が復活の兆し!豊川を下した安城も機動力は脅威

2024.05.23

春季関東大会でデビューしたスーパー1年生一覧!名将絶賛の専大松戸の強打者、侍ジャパンU-15代表右腕など14人がベンチ入り!

2024.05.22

【秋田】明桜と横手清陵がコールド勝ちで4強入り<春季大会>

2024.05.22

【愛知・全三河大会】昨秋東海大会出場もノーシードの豊橋中央が決勝進出、147キロ右腕・内山など投手陣に手応え!名指導者率いる三好も期待の 1、2年生が出場

2024.05.23

【野球部訪問】鳥栖工は「練習の虫」のキャプテンの元で2年連続聖地を目指す

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.17

「野球部や高校部活動で、”民主主義”を実践するには?」――教育者・工藤勇一さん【『新しい高校野球のかたち』を考えるvol.5】

2024.05.20

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在31地区が決定、宮城では古川学園、仙台南、岩手では盛岡大附、秋田では秋田商などがシードを獲得

2024.05.19

【東海】中京大中京がコールド勝ちで17年ぶり、菰野は激戦を制して23年ぶりの決勝進出<春季地区大会>

2024.05.20

【春季京都府大会】センバツ出場の京都国際が春連覇!あえてベンチ外だった2年生左腕が14奪三振公式戦初完投

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.04.23

床反力を理解しよう【セルフコンディションニングお役立ち情報】

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?