試合レポート

小松vs今治西

2011.10.18

小松vs今治西 | 高校野球ドットコム

優勝旗を持ちダイヤモンドを一周する小松ナイン

小松、「積微力行」で歴史を再び動かす!

愛媛県大会決勝戦当日の早朝。まだ誰もいない愛媛小松高校の前に筆者は立っていた。江戸時代の1802年(享和2年)・「伊予聖人」と称された儒学者・近藤篤山を迎え開設された小松藩の学問所「養正館」に端を発し、日本を代表するテノール歌手・秋川雅史氏を輩出した伝統を感じさせる小高い丘の上の校舎。そしてその校門には校是「積微力行」のプレートがはめ込まれていた。

「積微力行」すなわち「小さな事の積み重ねが、やがて大きな事を成す力となる」。宇佐美秀文監督の巧みな采配だけでは躍進の理由が説明できないと考え、急遽現地を訪れてみた筆者だったが、朝の光を浴びながら誇らしげに存在を示すこの四文字を見て、ようやくそのルーツを少しだけ理解できたのである。

そして12時34分にプレーボールがかかった決勝戦。既に前日・宇和島東との激戦を制し春秋通じて初の四国大会出場は決めていたとはいえ、愛媛小松の「積微力行」はここでも健在であった。

初回に今治西4番・末廣朋也(2年)に先制打を許すも、直後の2回表には相手先発左腕の中西雄大(1年)から1番・村上大空(2年)の適時打、3番・宇都宮龍也(1年)の2点適時打で一挙3点。さらに3回には8番・髙橋佑輔(2年)、4回にも相手失策で1点。

山口県・岩国高校時代には1999年(平成11年)第71回センバツに背番号「10」で出場。愛媛大学卒業後、同行の教育支援に赴いた縁から現在、野球部を指導する上村大樹コーチが「上下関係がなく、1年生が2年生をやじり飛ばすようなチーム」と話すチームカラーと、「新チームになったときに選手たちには言ったんです。『今治西は甲子園に行って調整が遅れるから、新人戦は優勝できる。そこで秋季大会のシード権を取って、秋季大会ではベスト4に残って四国大会への出場権を勝負できるチームになろう』と。ですから、内心四国大会には行けるとは思っていました」宇佐美監督の自信をグラウンド上で表現する選手たちの吸収力、技術力。


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小松・初の愛媛制覇に歓喜の小松ナイン

さらに「引退後も関西遠征時には進んで雑用係を買って出てくれ」(上村コーチ)、各地区の新人大会でも五厘刈りからスポーツ刈りに変化しかかった頭に「愛媛小松」のバックを抱えて、スカウティング作業に勤しんでくれた3年生の存在。それぞれの「積微力行」が1つに合わさったことで小松は一気に試合を動かし始めた。

一方、「『昨日までのことは全て忘れて、初戦のつもりで戦おう』と選手たちには言ったんですが・・・。厳しいゲームを乗り越えたことによる重さもあって、勢いにのまれてしまった」(大野康哉監督)今治西。こうして現在誰もが認める愛媛高校野球の盟主の牙城を愛媛小松が突き崩した瞬間、勝利の女神は大きく彼らに微笑んだのだ。

14時52分、「今日は辛抱して投げろ」と宇佐美監督から言われ続けた中野涼介(2年)が、コンセプトを忠実に体現し最後の打者をセカンドゴロに打ち取った瞬間、愛媛戸口野球の歴史は再び動いた。1ヶ月半の時を挟み小松が再び手にした優勝旗。

東予地区新人大会より紺色が薄まった「秋季高等学校野球大会・優勝」の旗は、創部64年目にして伝統ある県大会初制覇したことを示すと同時に、来る四国大会へ箔を着ける道しるべとなったのである。

青野流誠キャプテン(2年)は試合直後のインタビューで「声と元気だけは負けないように、四国チャンピオンになって甲子園へ行きたい」と歓喜に沸く応援席へ向かって四国大会への決意を誓った。が、愛媛小松の武器は何も声と元気だけでない。彼らが無意識の内に身に付けている「積微力行」という最大の武器が最大限に発揮できれば、歴史の変動は愛媛県から四国へ、そして甲子園へと広がっていくことだろう。

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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