創志学園vs創成館
「来年の1位」創志学園・西純矢の投球を分析
昨年秋に行われた明治神宮大会準優勝校、創成館は優勝候補の一角にも挙げられる強豪校だが、2年生投手になす術もなく抑え込まれてしまった。私は1回戦が終わると日刊スポーツ紙にそれまでに目立った選手を「ドラフト候補」という視点で50人程度選出するのだが、順当なら選出される峯圭汰、松山隆一、杉原健介たちを私は選出しないと思う。創志学園の先発、西純矢(2年)が彼らの実力を封じてしまったからだ。
私が座る第二記者席の後ろを通り過ぎた苑田聡彦・広島スカウト統括部長がスポーツ紙の記者に西の評価を尋ねられ、「来年の1位」と答えていたのが印象深い。私もまったく同じ評価で、さらに細かく評価すれば、「大船渡の右腕、佐々木朗希と並んで」と付け加えたいところだ。
まず創成館戦の西の投球内容を紹介する。9回投げて被安打4、与四死球0、奪三振16。奪三振も凄いが、与四死球0のほうを私は評価したい。本格派はコントロールが不安定、という通説が西には当てはまらないことがわかる。
奪三振16の内訳はスライダー11、ストレート5。前日の8日に1失点完投した吉田輝星(金足農)がストレートで三振を多く奪っていたのとは対照的である。この内訳通り、西はスライダーを多投した。3回以降でいうとストレート56球、変化球(ほとんどスライダー)46球である。1、2回はもっとスライダーが多かった。4奪三振のすべてがスライダーだったことでスライダーの多さを実感してほしい。
スライダーと簡単に言ってしまったが、大雑把に分類すると115キロ、125キロ、130キロの3種類がある。115、125キロは縦、斜め変化で、130キロは真横の変化。すべて一級品のキレ味があり用途があるが、私が最も魅了されたのが130キロの真横変化。何が凄いといって、球道とスピード感がストレートとまったく変わらないのだ。ちなみに、この日のストレートのMAXは149キロ。その快速球と130キロ台のスライダーがスピード感で同一というのは例えば、2012年に春夏連覇した藤浪晋太郎(大阪桐蔭→阪神)に匹敵する。
スライダーはボールゾーンに逃げていくから手を出さないと打者が思えば外角いっぱいにストレートを配する、というシーンは5回裏にあった。5番松浪を2-2に追い込み、5球目は何の変哲もない137キロのストレートが外角に収まると、好打者の松浪はぴくりともせず見送り、三振に倒れてしまった。
試合が動いたのは0対0で迎えた4回表だ。1死後、7番森田貫佑(1年)が四球で歩き、8番がバントで送って2死二塁としたあと9番藤原駿也(3年)から4番金山昌平(3年)まで5本の長短打が続き4点を奪った。西の安定感を見ればこの4点で勝負は決まったようなものだが、7回にも2本の長短打と相手守備陣の乱れがあり3点を加え、勝負は決した。
創志学園で目立ったのは西だけではない。打者走者の各塁到達でも創成館を上回った。私が俊足の基準にする「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」をクリアしたのは5人6回。これは今のところナンバーワンである。大会前には優勝候補の一角にも挙げられていなかった創志学園が攻守のバランスのよさで俄然、注目される存在にのし上がった。
(記事=小関 順二)