第87回選抜高校野球大会の選考を振り返る【中国、四国、九州 編】
中国、四国、九州地区 出場校一覧
選抜大会 | (参考)選手権大会 | ||||||
地区 | 区分 | 高校名 | 都道府県 | 出場回数 | 過去の戦績 | 出場回数 | 過去の戦績 |
中国/四国 (5枠) |
私立 | 宇部鴻城 | 山口 | 12年ぶり2回目 | 0勝1敗 | 1 | 2勝1敗 |
私立 | 岡山理大附 | 岡山 | 17年ぶり5回目 | 1勝4敗 | 5 | 6勝5敗(準優勝1) | |
私立 | 英明 | 香川 | 初出場 | – | 2 | 1勝2敗 | |
県立 | 今治西 | 愛媛 | 2年連続14回目 | 13勝13敗 | 12 | 20勝11敗 | |
私立 | 米子北 | 鳥取 | 初出場 | – | – | – | |
九州 (4枠) |
私立 | 九州学院 | 熊本 | 3年ぶり6回目 | 5勝5敗 | 7 | 7勝7敗 |
県立 | 糸満 | 沖縄 | 初出場 | – | 1 | 0勝1敗 | |
私立 | 神村学園 | 鹿児島 | 2年連続5回目 | 6勝4敗(準優勝1) | 3 | 2勝3敗 | |
私立 | 九産大九州 | 福岡 | 16年ぶり2回目 | 0勝1敗 | 1 | 1勝1敗 |
中国・四国地区 枠5・候補校27
中国・四国地区小委員会の出席選考委員9名(山下智茂委員長)
上西 嵐満 (宇部鴻城)
例年通りまずは基本枠である中国2、四国2を選出。両地区ともベスト4敗退組に、決勝進出校を上回るだけの材料がなく、優勝校と準優勝校が順当に選ばれた。
中国大会優勝の宇部鴻城は、右本格派の上西嵐満が全4試合に先発し3完投。球のキレと低めへの制球力が抜群で、精神力も強く粘りのピッチングで防御率0.27(33イニング)と安定感があった。攻撃では機動力を使ってバントとエンドランの成功率が高いのが特徴で、4番・岡田克樹の長打力も光った。また「高校生らしいマナーの良いチーム」と山下委員長は感想を語った。
準優勝は岡山理大附。右スリークオーターのエース・西山雅貴は4試合全てで完投した。スライダーを低めに集めて制球力も良く、秋の公式戦全体での防御率が1.30(69イニング)と安定していた。攻撃ではクリーンアップに力があり、3番・立花海都の勝負強さも光った。打線につながりが出れば得点力が上がると春へ向けての課題も挙げられた。
田中寛大(英明)
四国大会を制したのは英明。チーム力は四国NO1との評価で、エース左腕の田中寛大は最速141キロの直球を武器に3試合(16イニング)で防御率0.56と安定した数字を残した。ただ、左足を高く上げる投球フォームが「二段モーションでは」と審判団からクレームが来ていたこともあり、春までにどれくらいフォームを修正できるかがポイントと課題も挙げられた。同じ左腕の中西幸汰も2試合(8イニング)で防御率1.13と安定感を発揮した。打線は四国大会の打率が3割5分6厘。特に3番・森山海暉の打撃が注目との声もあった。
準優勝の今治西は伝統校ならではの勝負強さが特徴。エースの杉内洸貴は、微妙に動く直球で打者を打ち取り、県大会から四国大会までほとんど一人で投げ切った。テンポが良く制球力も抜群だった。打線はバントをうまく使った繋ぐ攻撃が光る。ただ四国大会3試合のチーム打率2割3分9厘と不振で、「課題はパワーアップ」という印象だった。
<コラムに登場した学校の野球部訪問を紹介!>
第32回 英明高等学校(香川)
第130回 県立今治西高等学校(愛媛)
[page_break:ラスト1校は??/異なる地区同士でラスト1枠を決めなければいけない選考の難しさを読み解く]
ラスト1校は???
両地区3校目を比較するラスト1枠の選考には時間がかけられた。対象となったのは、ともに準決勝で1点差の惜敗だった米子北と明徳義塾。
米子北はタイプの異なる3投手の継投でベスト4に進出し、優勝した宇部鴻城と0対1の大接戦を演じた。エースの髙橋晟一郎は故障を抱えていたが、140キロの直球を武器に闘志を前面に出して投げる楽しみな投手と評価された。中国3試合のチーム打率は2割2分2厘と低かったが、クリーンアップに力があり、最後まで諦めない粘り強いチームという印象を残した。明徳義塾は昨年の岸潤一郎投手(拓殖大学に進学)のような絶対的エースがおらず、中野恭聖、國光瑛人、平石好伸の1年生投手陣に将来性は感じるが、安定感がない印象を残した。守りにもやや不安な部分が見えた。
そのため、中国大会で中々勝ち上がれていない山陰地区という地域性も考慮され、米子北が最後の1校に選出された。さらに地域性に関して、松山東が21世紀枠で選出されたのは関係なく、あくまで山陰地区という意味という見解も示された。
※異なる地区同士でラスト1枠を決めなければいけない選考の難しさを読み解く
まず選抜高校野球大会要項に記載されている出場校選考基準から抜粋したい。
・選抜高校野球大会には、校風、品位、技能ともに高校野球にふさわしい学校、野球部を選考する。
・選考は各都道府県高校野球連盟より推薦されたものの中から地域性をも考慮して行う。
・本大会には予選をもつことなく、新チーム結成から11月30日までの試合成績およびその関連資料を参考とする。
米子北の選出に【地域性】という表現が使われたのは、この選考基準を運用したものである。因みに昨年の明徳義塾が選出された時の【練習試合での直接対決の結果も参考にした】という表現は、11月30日までの試合成績という記述が当てはまる。
関東・東京地区と同様に、ラスト1枠を同じ大会ではない2つの地区で比較するという中国・四国地区の選考はいつも難しい。記者会見でも毎回のようにこのことに対しての質問が出るが、歴代の委員長は苦渋の決断を下さざる得ない胸の内を明かしてきた。さらに選考を悩ましくするのが両地区の日程である。今回も両地区の準々決勝(10月26日)、準決勝(11月1日)、決勝(11月2日)が完全に重なり、中国は鳥取県と島根県、四国は香川県での開催ということで、距離も離れていた。出席した選考委員9名を二班または三班に分けるが、どの試合を見たかでどうしても印象に差が出てしまう。
会見で山下委員長は「力は明徳義塾」と語ったが、これは全員が同じ試合を生で見ての意見ではない。実際に、「選考委員からは米子北のような山陰地区にも夢を与えてあげたいという声が挙がった」と山下委員長は明かした。
色んな感想や意見を戦わせて、出席者全員で意思統一をはかって決めるのが選考委員会だ。野球の試合や大会全体での流れがあるのと同じように、会議の進行にも流れがある。どんな流れで、どんな議論が繰り広げられたのかは推測しかできないが、これが予選を持たずに選考委員会で出場校を決める選抜大会の趣旨なのだと、あらためて感じさせられた。
もう一つ、選考委員会では全国10地区を4つの小委員会に分け、同時進行で別々の部屋で行われる。そのため、それぞれの地区で選出の経緯やポイントとなった部分に差が出てしまうのは致し方ないということにも理解が必要である。
九州地区 枠4・候補校17
東海・北信越・九州地区小委員会の出席選考委員14名(片岡成夫委員長)
1年生4番・松下 且興 (九州学院)
片岡委員長はまず、「今大会は全体的に飛び抜けた選手は存在せず、こじんまり、まとまったチームが多かった。延長戦を含めてサヨナラゲームが4試合、9回に同点に追いついたりひっくり返したりしたゲームが4試合とチーム力が拮抗していた」と九州大会を総評した。
1校目は優勝した九州学院。初戦で長崎海星に苦戦したが、投打にバランスが取れていた。エースの伊勢大夢は140キロ台の直球とスライダー駆使してテンポが良く、全4試合を完投した。チーム打率3割1分1厘の打線は、2本塁打を放った4番・松下且興を軸にして破壊力と思い切りの良さを印象づけた。
準優勝の糸満は、粘り強い野球で延長戦2試合を勝ち抜いた。ただ決勝では3点をリードしながら9回に逆転サヨナラ負けとこが悔やまれる。4試合で犠打飛19の手堅さと積極的な走塁を絡め、沖縄のチームらしく隙のない野球を随所に発揮したと評価された。エースの金城乃亜は打たせて取るピッチングが持ち味だが、ゲーム後半に打ちこまれる場面が見られたため、スタミナ面での不安を克服することとリリーフ陣の強化が課題として挙げられた。
3校目は神村学園。準決勝で延長10回サヨナラ負けを喫したが、試合を諦めない粘り強い攻撃が光った。さらに準々決勝では9回裏に同点に追いついて、ここぞという場面での集中打で延長11回にサヨナラ勝ちしたのは見事だったとの評価を得た。エースの北庄司恭兵はサイドスローからスライダーを有効に使い、3試合全て完投するなどスタミナも十分。三遊間で6失策を喫してしまった守備力の強化が課題として挙げられた。
4枠目の九産大九州は、明豊と東福岡の3校で比較検討された上での選出だった。準決勝で九州学院にコールド負けしたことが響くかと思われたが、片岡委員長は「一方的な展開ではなかった」と話した。記者会見ではこの点についてもう少し詳しい説明を求められたが、「九産大九州が先制して、(エースの岩田将貴は)2回までで4三振を奪った。エラーが重なって3回に逆転されたが、点数ほどの差は感じられなかった。トーナメントの怖さ」と試合の流れを重視したことを強調した。さらに全試合を一人で投げ切った岩田の安定度は、軸となる投手がいなかった他の2校よりも評価されており、ベスト4という実績面も大きい。ベスト8組にはそれを覆すだけの材料がなかったとの判断が下された。