夏を赦す 長谷川晶一著 廣済堂出版
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書評
「まいど!」という明るいキャラクターで、プロ野球日本ハムの投手として長らく活躍した岩本勉さん。岩本さんも皆さんと同じく甲子園を目指して、黙々と練習に取り組む野球少年でした。「負けたら終わり」の夏の大会にかける思いというのは、野球を続けている皆さんならよくわかると思います。負けても泣き、勝っても泣き。しかし岩本さんの最後の夏は負ける前に泣くことになってしまったのです…。
これは岩本さんたちの高校野球生活を、20数年経った今、その当時のチームメイトの取材を通して振り返るノンフィクションです。1989年夏に出場辞退を余儀なくされた阪南大高野球部。岩本投手はプロ野球のスカウトからも注目されるほどの選手でした。しかし甲子園への道は断たれ、一緒にプレーした仲間たちもそれぞれの進路が大きく変わってしまうことになります。実績のないままドラフト会議を迎えた岩本さんですが、日本ハムから2位指名を受けることに。「自分だけが野球を続けること」に申し訳なさを感じながらも、岩本さんは精一杯プロの世界で野球に取り組みます…。
皆さんには大きな目標があると思います。それが甲子園に出場することなのか、はたまた甲子園で優勝することなのかはわかりませんが、その大きな目標の指標としてどこかに「甲子園」という存在があるでしょう。そんな大きな目標を失ってしまった彼らの落胆、そしてそこから立ち上がり、前を向いて歩んできた彼らの人生を読むにつれ、今こうして甲子園を目指せる環境にある皆さんは、とても幸せなステージにいるのだと感じずにはいられません。そしてこうした大きな出来事を乗り越えて、それぞれの舞台で活躍する元チームメイトの皆さん。みんなの心の中にあるのは「一緒にプレーした仲間」への思いであり、野球があったからこそ乗り越えられた試練だったのだろうと思わずにはいられません。深く考えさせられる一冊です。
(書評:西村典子)