試合レポート

横浜vs聖光学院

2012.03.29

岡野(聖光学院)、柳(横浜) 両チームのエースを読み解く

 聖光学院の右腕、岡野祐一郎(右投右打・178/77)は1回戦、鳥羽を2安打、無失点に抑えている。投げ始めからフィニッシュまでに要するタイムは1.6秒程度。横浜の右腕、柳裕也(右投右打・179/73)が1.8秒程度なのでだいぶ短い。

 タイミングが取りづらいせっかちなフォームと小さい腕の振りから投ぜられる130キロ台後半のストレートを二言、三言で説明すると、腕を振ったと同時にボールがピュッと目の前にくる、そんな感じである。

 タイプは大学野球に詳しい人なら、ああ、と頷いてくれるだろう。今季、プロ2年目を迎える南昌輝(立正大→ロッテ)に投げ方が似ている。体を開いて投げるフォームに特徴があり、開きながら右打者の内角に腕を振ってシュートを投げてくる。鋭く横に大きく変化するスライダーがあるが、最高の武器がこのシュートである。

 鳥羽打線が苦労したこのシュートを横浜打線は攻略した。シュートを生かすにはスライダーの使いどころが重要になるが、横浜打線は右打者の外角に大きく逃げるスライダーを、見逃せばボールになると判断し、徹底的に見逃した。そして甘く入ってくるスライダーを攻略した。1回表に先制点のきっかけとなる連続安打を放った田原啓吾(右翼手・左投左打・181/84)、山内達也(一塁手・左投左打・181/85)は、ともにそのスライダーを打っている。


 対する横浜の先発・柳はこの日も充実していた。9回を投げ11安打されているが、私は点を取られる気がまったくしなかった。今日の最速は139キロ。高校生レベルで見ても速くはない。まず注目するのは打者手元での伸びとボールの縦の角度である。45°くらいの角度から投げ下ろされているのではないかと錯覚するほど、ボールは上から伸びてくる。

 打者手元での伸びは、リリースに秘密がある。よくボールを“潰す”と例えられるが、柳はリリースのとき、明らかにボールを潰している。別の表現をすれば押さえ込んでいる、あるいは真下に叩きつけている。この投げ方は左肩を開いて投げる投手には真似ができない。右腕なら左側面から打者に向かっていく投手だけがこのリリースをものにできる。

 左肩の開きが遅いのでボールの出どころが見えづらく、さらにリリースでボールを潰しているので、打者にとってはあっという間にボールが目の前にきている感じだろう。

 同じ表現を聖光学院の先発・岡野にもしたが、岡野の場合は悪い表現をすれば、フォーム的なまやかしでこの境地を実現した。しかし、柳の場合は合理的なフォームを追求した結果、この境地を自分のものにしている。

 何が違うかと言えば、岡野の“あっという間にボールが目の前にきている感じ”はせっかちなフォームと小さい腕の振りに惑わされなければ攻略ができるが、柳の“あっという間にボールが目の前にきている感じ”は、ボールをよく見れば見るほど、ボールはさらに“あっという間に目の前に”くるので、攻略が非常に難しい。ボールを捕手寄りで捉えられるスイングスピードの速さの持ち主だけが、柳を攻略できると言ってもいいだろう。


 準々決勝の相手は関東一関東一の2年生エース、中村祐太(右投右打・181/75)は実は柳と同型と言ってもよく、ボールの出どころの見えづらさはひょっとしたら柳より上かもしれない。しかし、過去2戦、別府青山戦1対0、智弁学園戦2対1と、関東一打線は合計3点しか取っていない。打線の安定感では横浜が上である。

 横浜打線が中村を攻略する姿は想像できても、関東一打線が柳を攻略する姿は想像しづらい。そういうふうに見ていくと、現時点では横浜のほうが少しだけ関東一をリードしているのかな、と思う。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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