東海大菅生が誇る3拍子揃うスラッガー・千田光一郎を支える根拠ある打撃理論
センバツの優勝候補の一角の1つとして数えられる東海大菅生。今年は出場全32校の中でも高い走力を土台とした総合力で相手を圧倒するスタイルで全国の舞台まで駆け上がってきた。そんな東海大菅生の練習を見ていると、一際快音を響かせる1人のスラッガーに目が留まった。
今もなお浸透する逆方向への意識
千田光一郎(東海大菅生)
身長175センチ70キロ。すらりとした体型がバッティングゲージに入ると、スイングスピード149キロを計測する鋭いスイングでボールを捉えてフェンスオーバーする打球も連発する。ポテンシャルが高いことがすぐにわかったが、実際に昼休憩に取材を聞くと、「テニスやサッカー。あとは水泳もやっていて、どれもそれなりにできていた」とやはり幼いころから運動神経は良かったようだった。
終始爽やかな顔と、真剣な眼差しで話してくれたのが印象的だった千田 光一郎。旧チームからの経験者で、昨秋までで高校通算12本塁打。大会では1番打者として切り込み隊長として打率.484、5打点と言う成績をマーク。さらに大会終盤ではクローザーとしてマウンドに上がり140キロを計測する真っすぐを投じる。今年の東海大菅生には欠かせない存在である。
そんな千田は小学2年生の時に野球に出会い、様々スポーツをやりながらも「一番楽しくて上手くいっていた」と言うことで現在も継続することになった。それから中学生になると、「高校野球で活躍するにはボールに慣れる必要がある」と考えると、白山シニアへ入団することを決意する。
親からの勧めもあって県内屈指の強豪チームに飛び込むが、ボールは硬式に変わる。「ボールの大きさや重さ、バットに当たった感触など軟式とは違うところがあって苦労しました」とスムーズに硬式野球へ順応できなかった。
特に大きな変化があったのはバッティングだったという。
「軟式はゴムで出来ているので、ぶつけるといいますか衝突する感じでミートさせれば、体のパワーで打球は飛ばせました。でも硬式になって、特にレベルの高い速球派投手と対戦すると小学校の時のような打ち方だとダメですので、どうやってボールの軌道にバットを入れられるか考えるようになりました」
小学生までは突っ込み気味だった打ち方で体重を活かすような形だったが、インパクト時に身体を後ろに残すようにフォームを意識。当時はイチロー選手を見て自身のフォームの参考にするなど、創意工夫を凝らし続けてきた。
指導者からも様々なアドバスをもらい、1つ1つ自身の頭の中で理解して実行する。鵜吞みにせずに納得しながら取り組む中で最も心に響いたのが「逆方向の方が飛ぶよ」という言葉だったと振り返る。
「小学生の時から親やコーチの人にも『逆方向に打てばフォームは良くなる』とは言われ続けてきたことなんですが、流し打ちで飛ばせるとは思っていなかったんです。けどやっていくうちに本当に飛ばせるようになってきたので、今も大事にさせてもらっていて。本当に大きかったと思います」
成功と失敗を繰り返して選抜で飛躍を
千田 光一郎(東海大菅生)
現在も右中間方向を意識してバッティングに取り組んでいるという千田。「理想は右中間にホームランを打つことなんです」と言うほどだが、それを実現するためにどこをポイントにして取り組んでいるのか。
「まずはこねないようにしっかりボールの軌道に入れて、右手で押し込む感じです。ただ押し込みと一緒にヘッドを上手く使って打球の角度を上げようと思っているので、グリップをいったん下げたら、ヘッドを操作して軌道に入れてあげてからミートしてから押し込む感じです」
ボールに逆らわないようにして、タイミングが早かったら引っ張ってしまうイメージで、捉えるようにしている千田。レベルスイングに近い形だが、若林監督も「バットを叩き過ぎていたけど、今のフォームになって大分打球が伸びるようになってきました」と千田の成長ぶりを語る。
そんな若林監督が指揮を執る東海大菅生に入学した千田は、高校野球のレベルに飛び込び、こんな壁にぶつかったという。
「切れ味が全然違うので、そこへの対応力が求められるようになりました。だから、どう上手くバットを出すかが大事になりましたし、より逆方向に強く意識を持つようになりました」
また体力づくりの必要性も感じていた千田は食事をはじめ、高校野球のレベルに対応する土台を作ってきた。すると1年生秋から試合への出場機会を掴み始めるが、「試合に出ても打って活躍する感じではなかったので、出させてもらっている感じでした」と振り返る。
そのなかでも森下晴貴との交流は千田には大きかった。
「同じ外野でアドバイスをもらっていましたし、バッティングも勉強させてもらって。特に打球を飛ばすためにも右手の押し込みは凄く勉強になりましたし、今のバッティングにも繋がっているところですね」
こうして千田は森下はじめ先輩方と練習を重ね、昨夏の独自大会でもスタメン出場。先輩たちとの最後の大会でも活躍し続け、優勝に貢献。「1番として出塁やチャンスでの1本ができなかった」と反省を口にするが、西東京大会決勝・佼成学園戦での同点打から「千田は変わった」と指導者からの声も上がるなど、技術以上の精神的にも強くなった。
そして最高学年となると、「練習試合から1番としてプレッシャーをかけられるか」といったことを意識しながら夏休みを過ごし、秋の大会は切り込み隊長として打線を牽引。ブロック予選の都立小川戦では「成長の手ごたえを感じました」という右中間へのホームランを放つなど、大会序盤から好調ぶりを見せてきた。
都大会に入ってもコンスタントにヒットを打ち続けてプレッシャーをかけて来た千田。そして準決勝・関東一戦、決勝・日大三戦ではリリーフ登板もするなど、チームの柱として活躍し続けた。
一冬超えてパワーがついてことで、「長打力は上がってきたと思います」と成長を実感。あとはピッチャーへの対応力を高めながらスイングを磨いていければというところだ。
「長打力、出塁率、打率のすべてをあげていきたい」と最後に意気込んだ千田だが、取材を通じて、非常にクレバーな印象が強くなった。その疑問も正直にぶつけると、千田はこう語った。
「試合では考えすぎないようにしていますが、練習はどれだけ失敗してもいいと思うんです。だから、考えをもって次に繋がるように練習をしています。最初は大げさにやっても、そこからどんどん修正をしながら取り組むようにしています」
成功と失敗を繰り返して、経験として蓄積する。これが千田の最大の強みでもあり、揺るがない自信となっているのではないだろうか。選抜ではここまで培った技術を最大限発揮されるのを楽しみにしたい。
(記事=編集部)