ボールの見極めをチームで徹底し、悔しい敗戦を糧に頂点までのぼりつめた 井上広大【後編】
今夏の甲子園で悲願の初優勝を成し遂げた履正社。強力打線を誇ったチームの中で3本塁打を放ち、全国制覇に大きく貢献したのが4番に座る井上広大だ。身長187㎝、体重97㎏と恵まれた体格の持ち主だが、ホームランを打てる秘訣はそれだけではない。高校3年間での成長やセンバツの負けから磨いてきた対応力について話を聞いた。
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大阪桐蔭、星稜、初の全国制覇まで何度も高い壁に跳ね返され、自分の無力さを知った【前編】
春の敗戦から打撃の対応力をチーム全体で高める練習を徹底
甲子園で本塁打を放った井上広大 ※写真=共同通信社
しかし、春の大阪大会では準々決勝で好投手・上田大河を擁する大阪商業大高に2対3で敗戦。府内のチームに敗れたことで、「このままじゃだめだという気持ちになりました」とより気が引き締まった。
春から夏にかけて履正社が課題として取り組んできたのは打撃の対応力だ。後にこれが夏の甲子園で発揮されることになるのだが、井上に対応力を上げるために個人、チームで取り組んできたことを教えてもらった。
「自分が取り組んだことは、どんなボールでも前で捉えようとしていたのを、体の中で捉えることによって、ボールを見る時間が長くなりました。チームでは追い込まれてからの時間を長くするために、低めの変化球もワンバウンドを振らないことを徹底してきました」
ボールをよく見て、相手が振らせたい球をキッチリと見逃す。こうして打撃の対応力を磨き、夏の大阪大会を優勝。「大阪大会では苦しい試合も何試合かあったんですけど、その試合に関しても狙い球を決めて振れていたので、大会を通して悪い流れは感じなかったです」と大会を通して納得の試合運びをすることができ、春夏連続の甲子園出場を決めた。
甲子園の1回戦ではドラフト候補の鈴木寛人を擁する霞ヶ浦と対戦した。この試合で桃谷惟吹が先頭打者本塁打を放ったが、「桃谷の先頭打者ホームランから始まったと思っています」とあの1本が大会のターニングポイントだと感じていたようだ。これでチームが勢いに乗り、井上も第1打席で本塁打を放っている。
「ストレートで押してくる投手とは聞いていて、打席に入ったときは思った以上のキレはありました。詰まっていたので、入るかわからなかったんですけど、夏場にいつもはしないウエイトを今年はするようになって、パワーがついていたので、入ったと思います」
昨年までは夏場にウエイトトレーニングをしなくなり、筋力が落ちることがあったが、今年は継続していたことで筋力がキープされていたという。この試合ではチーム全体では5本塁打を放ったが、その成果が表れたということなのだろう。
[page_break:センバツの凡退の経験を生かし、奥川から本塁打]センバツの凡退の経験を生かし、奥川から本塁打
笑顔を見せる井上広大
3回戦では高岡商の荒井大地から本塁打を放っている。横手投げの技巧派に対して、第1打席、第2打席と三振した後に死球を挟んで、第4打席で低めの変化球を左中間スタンドに叩き込んだ。この打席でも高めてきた対応力が発揮された。
「緩いボールに対して1、2打席目と強振していたので、3打席目からはしっかりとミートを意識して振るようにしていました。1、2打席目で打ち取られたボールを4打席目で捉える対応力を見せられたと思います」
そして、決勝の星稜戦では奥川と対決。第1打席ではスライダーで見逃し三振に倒れたが、その後の第2打席で初球のスライダーをバックスクリーンに放り込む逆転3ランを打っている。この本塁打も相手を冷静に分析していたことで生まれた結果だった。
「センバツの時に抑えたボールで次の打席に入ってくると感じたので、それを信じてみて打席に入った感じです。先制点を取られて1回も2回もランナーを出して点が取れない状況だったので、そこで何とか援護点を与えられたのは良かったと思います」
センバツで敗れた経験が見事に活かされた。井上の発言を聞いてみても、力だけでなく、相手の配球を読んで対応した結果が本塁打になったことが伺える。春に奥川から完全に抑え込まれてから対応力を磨いてきたことが、甲子園での3本塁打、チームの全国制覇に繋がった。
プロ志望届を提出し、17日のドラフト会議での指名を待つ。甲子園で優勝した後も特に浮ついた様子はなく、野球に集中して取り組めているようだ。そんな井上にプロで目指す選手像について聞いてみた。
「盗塁ができれば山田哲人選手(ヤクルト)のようにトリプルスリーを目指したいというのがあるんですけど、自分はどちらかというと長打で点を取るタイプなので、岡本和真選手(巨人)みたいな選手になりたいです。ホームランは1年間で最低でも40本は打ちたいです」
甲子園で大観衆を魅了する打撃を披露した井上。プロの世界でも野球の華であるホームランで輝く選手になることを期待したい。
(取材=馬場 遼)