野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
プロ野球をはじめ、高校野球など多くの年代層から人気のミズノプロ。2019年に30周年を迎え、1つの節目となったことを記念し、特別企画でミズノプロに携わったグラブ企画の担当者にインタビューし、当時の話やその時の思いについて語っていただいた。
最終回は、現在のグラブ企画の担当をしている須藤竜史さんにお話を伺った。
~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳館宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート
声を形に変える
須藤竜史さん
須藤さんがグラブ企画の担当者となったのは入社してから5年目。入社してから2年間は千代田区神田小川町にあるエスポートミズノに配属され、小売りからスタート。最初の2年間はウォーキングシューズをメインに担当していたが、3年目より野球用品へ移り変わる。その後、グラブ企画へ異動となり、現在に至っている。
元々、野球関係の仕事に携わりたかった須藤さん。念願ともいえる野球用品の小売りからグラブ企画への配置転換を、当時の須藤さんはプラスに捉えていた。
「商品に対するお客様からの声を多くお伺いしていたので、企画の立場として、その意見を参考に、『商品をよりよくできるのではないか』という漠然とした考えはありました」
よりよいグラブを届けられるように、須藤さんのグラブ企画担当者としての道のりが始まった。
企画担当者になった当初はミズノプロで、スピードドライブテクノロジーが搭載されたモノがすでに完成。須藤さんが0から企画を始めたのは2017年より販売が開始したフィンガーコアテクノロジーだ。
グラブを見つめる須藤竜史さん
「お客様の声を集めながらグラブ企画をする中でも、ミズノプロはトップレベルの選手に多く使用いただいていますので、それに関してはプロ野球選手の声を参考にしました。
あとはトレンドやプレースタイルの変化に対応したグラブを作りたいと思っていたので、2月のキャンプのタイミングで多くのプロ野球選手に、『過去に比べて今の野球が変わったところは何か』と聞くと、『打球が変わった』と言うんです」
打者のパワーが上がったことで打球の跳ね方、伸び具合。さらにはグラブに収まってから回転が止まるまでの時間が長くなった。この変化をプロ野球選手が語るのであれば、それは日本野球界が変わってきたのだろうと須藤さんは認識。そして、力強い打球をしっかり掴むことが出来るグラブこそ次の未来に必要なグラブだと須藤さんは考え、どうやって実現させるか。
打球がグラブに収まる瞬間をハイスピードカメラで撮影し、ポケットで掴むまでの動き。そういったところから見直したことで、人差し指から薬指にかけての3本指がボールをポケットに収めるために重要なポイントであることが分かった。
ミズノプロがミズノプロである所以は伝統とプライドだった
須藤竜史さん
そこで須藤さんは指袋(グラブに手を入れる部分)に従来のモノに加えて、人差し指から薬指のみ別のパーツを組み込んだ。そうすることでそのパーツが軸の役割を果たし、強くて動く打球を抑え込むに大きな力を発揮した。
「コンセプトを達成するために、型から見直して作り出していきました。ただ、歴代で継承しているモノとの融合。さらには支持されてきたミズノプロのイメージを崩さないようにしました」
しかし試行錯誤の末に須藤さんが企画してきたフィンガーコアテクノロジーのミズノプロは店頭で販売された。店頭に並んだ時の気持ちを聞いてみると、「自分の高校最後のグラブがミズノプロでオーダーするくらい、ミズノのグラブは好きでした。なので、グラブが店頭に販売されたときは感じるものはありました。
また、中高生が目を輝かせながらグラブを手に取ってくれた時は『凄いことをしたなぁ」と思いましたね』と自分で成し遂げた仕事に喜びをかみしめていた。
そして須藤さんはもう1つ、2019年より発売される5DNAテクノロジーを搭載したグラブを企画した。
「企画に入って5、6年が経ち、経験値が増えてきたので企画業務にも慣れてきた段階でのスタートでした。今まではプロ野球選手に声を聞いてからグラブを作る発想を沸かせていましたが、その時は企画担当者をやると様々な選手のグラブをはめた時に、『すげえなぁ』って感動したんです。
じゃあその感動を表現したい、と思って色んなグラブの分析から始めました」
その取り組みの中で見つかった共通点を新品のグラブに落とし込むことで、使い込んだ末にいい型のグラブになる。つまり、使い込んだグラブから逆算して新たなグラブを生み出したのが5DNAのグラブだった。
こうして2つのミズノプロを企画した須藤さん。現在は後任の方への引き継ぎをしており、グラブ企画担当者としての責務を終えようとしている。歴代の方々と同様に、須藤さんもグラブ企画担当者の責任の重さを感じながら、日々業務に励んでいた。
担当されたグラブをもってポーズをとる須藤竜史さん
「企画になったときは余裕なかったです。築き上げてきたモノがありましたし、憧れもあったので、不安やプレッシャーがありました。『ミズノプロが作れる』とかはなく、『守れるのか』という思いしかありませんでした。
ミズノプロを守るのはミズノのグラブを守ることにもなるので、出来た時は嬉しいんですが、評価の方が気になりましたね。ただお客様の声が積み重なってやっと『良かったかな』って思えましたね」
グラブ企画担当の苦労を知る須藤さんだからこそ、ミズノプロ30周年に対して、「時代に合わせてグラブも変わるべきです。なので、ミズノプロも変えてなければいけない時が来るかもしれないです。
ただ今まで大事にしてきた部分を知っているとそうでないとでは違うはずなので、過去と今を知ったうえでトレンドに合わせたグラブを生み出してほしいです」と最後にメッセージを残した。
計5回にわたってグラブ企画担当者へのインタビューを紹介してきた。ミズノプロの30周年は企画担当者だけではなく、様々な部署が関わっていることが見えてきた。そしてミズノが時代に誇る最高のグラブこそがミズノプロだと見えてきたのではないだろうか。
またトップを走るからこそ背負う責務があり、多くの思いが込められている。今後も野球界の歴史とともにミズノプロが寄り添い続けていくことを切実に願っている。
(記事=田中 裕毅)
~ミズノプロ30周年・グローバルエリート10周年記念特集~
第1弾…3Dテクノロジーの先駆けとなったミズノプロ グラブが誕生するまで 久保田憲史執行役員
第2弾…3Dから4Dテクノロジーへ。進化を遂げたミズノプロ 寺下正記次長
第3弾…「自分の手のようにグラブを動かしたい」イチローのニーズは全プレイヤーのニーズ 柳館宗春さん
第4弾…進化のカギは「旧シリーズを超えろ」。スピードドライブテクノロジー開発秘話 石塚裕昭さん
第5弾…野球界の進化に比例してミズノプロも進化を続ける 須藤竜史さん
第6弾…ミズノプロに並ぶ、2大ブランドとなる宿命を背負うグローバルエリート