Interview

小野 泰己投手(折尾愛真-富士大)「『一歩ずつ』を大事に、聖地・甲子園で花開かせる」【後編】

2017.01.10

 一歩ずつ積み上げた成長の軌跡を追った前編に続き、後編では富士大学4年時の話を中心に、聖地・[stadium]甲子園[/stadium]マウンドでの躍動へ向けての意気込みを語ってもらった。

奮闘の末つかんだ「バースデー勝利」

小野 泰己投手(折尾愛真-富士大)「『一歩ずつ』を大事に、聖地・甲子園で花開かせる」【後編】 | 高校野球ドットコム

小野 泰己選手(富士大学)

 富士大学4年生、いよいよ勝負の年。
「多和田(真三郎)さん(2015年・埼玉西武ライオンズ1位指名)が抜けて投手力が落ちたと言われないように、今まで以上に走り込みや投げ込みに力を入れていきました」
小野 泰己のハートは静かに、かつ熱く燃えていた。ただ、状態は今ひとつ。キャンプから試行錯誤が続き、先発登板にもなかなか語らない。それでも彼の心は折れなかった。「エースとして勝利に導きたい」責任感が自らを突き動かす。神様はそんな小野の努力をちゃんと見ていた。

 富士大青森大、八戸学院大の3チームが7勝3敗で並んだことで行われた北東北大学リーグ優勝決定プレーオフ。5月29日の青森大戦で先発した小野は7回を投げ被安打4・1失点・13奪三振で6対1の勝利に貢献。翌日、全日本大学野球選手権出場を決する八戸学院大戦。マウンドに上がったのは、この日22歳の誕生日を迎えた小野であった。

「プレーオフのときは球速も150キロが出ていましたし、状態自体は戻っていました。29日の試合後も全く疲れを感じなかったですし『なんとしても投げてやる』その気持ちが大きかった」
 

気迫を表に出して右腕を振る彼に待っていたのは12奪三振、2安打完封。これは富士大に入って初の完投でもあった。

 かくして奮闘の末「人生で一番の誕生日」をつかんだ小野。この出来事によって周囲の評価も「ドラフト候補」から「ドラフト上位指名候補」へとランクが上がった。

[page_break:「技術の三要素」をそろえ、無双のラストシーズンへ]

「技術の三要素」をそろえ、無双のラストシーズンへ

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小野 泰己選手(富士大学)

 小野にとって4度目、名実共にエースとして迎えた2016年6月・全日本大学野球選手権。しかし全国の強豪たちは彼の小さな弱点を着実に突いてきた。
 

 1回戦の京都産業大戦こそ6回途中まで2失点の好投も、2回戦の相手は東都大学野球リーグの雄・亜細亜大。結果は6回途中まで投げて3失点で負け投手。内容でも本盗を決められるなど機動力に翻弄された。
「自分の課題が出た大会だったと思います。負けは悔しかったですけど、自分のダメなところを見つめ直す良い機会になりました」と、小野は当時を振り返る。

 亜細亜大に突かれたのはクイックとフィールディングの甘さ。課題は明確。そこで早速、課題克服の鍛錬が始まる。クイック改善法としては、ブルペンでのクイック投球練習。フィールディング練習にも時間をかけた。結果、秋にはクイックは1.1秒台。フィールディング面でもミスが減った。
 

 配球面での引き出し作りにも取り組んだ。加えたのは「カーブ」。これまでは最速152キロのストレート、スライダー、フォークの3球種で勝負していたが、さらに緩急をつけるため、小野は自作のカーブを考え続けた。

「普通、カーブは『ボールの後ろで抜く』イメージで投げる投手が多いんですけど、僕の場合は『ボールの前で引っ掛ける』。狙いの目安は審判のマスク、もしくは捕手のマスク。そうするとうまくカーブが投げられるようになりました」

 クイック、フィールディング、そしてカーブ。「技術の三要素」がそろったラストシーズンに、小野 泰己を止められる者はもはや北東北大学レベルでは誰も存在しなかった。シーズン5勝0敗。防御率0.49でリーグ優勝・MVP。明治神宮大会出場東北地区代表決定戦・仙台大戦でも1失点完投勝利でMVP・最優秀投手。

 2016年10月20日「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」。東北無双の剛腕「おの・たいき」は、自信を持って夢実現の瞬間を迎えた。

[page_break:「一歩ずつ」をこれからも、聖地・甲子園で花開かせる]

「一歩ずつ」をこれからも、聖地・甲子園で花開かせる

小野 泰己投手(折尾愛真-富士大)「『一歩ずつ』を大事に、聖地・甲子園で花開かせる」【後編】 | 高校野球ドットコム

小野 泰己選手(富士大学)

「おの・たいき。投手。富士大学」
夢実現の扉を開いた球団は「ファンの熱さは日本一」と認識していた阪神タイガース。しかも2位指名。「驚きでした。これほど高評価をしてもらえることは期待してもらっている証拠ですが、その分、責任を感じました。立ち振る舞いもしっかりとしていきたいと思いました」と、小野は喜びよりもプロとしての自覚を強く持つことに。その「プロ意識」は明治神宮大会の舞台でも如実に表れる。
 

 初戦の相手は明治神宮大会代表決定戦前のオープン戦で6回4失点と打ち込まれた上武大。「足が速い選手が多く、さらに粘り強く嫌らしい打線」データを頭に入れ、クイックを多用。立ち上がりから常時150キロ前後のストレートと落差抜群のフォークで全力投球に努める。5回裏に先制点を許すも7回まで1失点と踏ん張った小野。「エースの自覚を結果で示す」。それが富士大で学んだことであった。
チームはあと1点が届かず初戦敗退。「高卒プロじゃなくてよかった」富士大学で一歩ずつ積み上げ、世代大学生のトップクラスに登りつめた小野 泰己の学生野球ラストマウンドは、こうして終わりを告げた。

 そして2017年、いよいよ縦じまのユニフォーム「28」を身にまとい、プロ1年目へ始動する小野。「藤浪 晋太郎くんは大阪桐蔭で春夏連覇を達成したエース。だけど僕は夏1回戦負けの投手。そんな藤浪君と一緒にプレーできるのは本当に不思議です」と同級生との出会いに感慨深げな表情を浮かべながらも、彼はこう決意を述べる。

「まず一軍初登板。そして一軍初勝利を目指します。そこから数字を積み上げていければ。その目標を達成するためにも、プロでは調子の上下を少なくしていきたいと思います」

 そう、大事なのはこれまでと同じく「一歩ずつ」。その尊さを知る185センチ75キロの最速152キロ右腕は、聖地・甲子園でその実力を開花させにいく。

(インタビュー/河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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