福岡ソフトバンクホークス 柳田 悠岐選手【後編】 「目指すはトリプルスリー!」
前編では、柳田選手の知られぜる高校時代の取り組みについて振り返りましたが、後編では、ウエイトトレーニングの取り組み、またプロ入り後の取り組み、最終目標を存分に語っていただきました。
走り込みで下ができていたからウエイトトレーニングが生きた
柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)
大学に入学した頃、体重は82キロになっていた。約半年間で14キロも増えたことになる。ただウエイトトレーニングを始めた当時より、体脂肪率は落ちていた。簡単に言えば約14キロ分、筋力が増えたのだ。
「これだけ大きく変わったのは、体の成長期とうまくタイミングが合ったからかもしれません」
ウエイトトレーニングがパフォーマンスに直結していると初めて感じたのは、大学での初練習の時だった。
「フリー打撃で先輩に続いて、新1年生の僕らが打たせてもらったんです。僕は初めて木製バットを手にしたのですが、木のバットで打つ練習を積んできた同級生があまり打てない中、僕は普通に打ったら、めっちゃ飛びましてね。余裕でサク越えを打てたんですよ。先輩たちよりも打てましたね。金属よりも木の方が飛ぶんだなと思いました」
高校時代にウエイトで体を作った選手の中には、金属バットでは打てたのに、木製の対応に苦しむ選手が少なくない。柳田はなぜ、いとも簡単にこのハードルを乗り越えられたのか?
「上半身の筋肉だけガンガン鍛えていたら、こうはならなかったでしょうね。それではダメなんです。腕の筋肉は飛距離に比例しないと僕は思いますね。
あの頃そういう知識はなかったんですが、すぐに木のバットで打てたのは、『足』と『背中』に重きを置きながら『胸』もと、3つをバランス良く鍛えたからだと思います。それと高校時代に、がむしゃらに走り込んだからでしょうね。実は高校野球を終えてから大学に入るまでは、ほとんど走り込みはしなかったんですよ。それでも“貯金”があるくらい走ったのがベースにあったから、下が作られていたから、ウエイトトレーニングが生きたんだと思います」
今年はホームランを打つ確実性を身に付けたい
アマチュア球界随一の「飛ばし屋」としてプロの門を叩いた柳田も、1年目はプロの厳しい洗礼を受けた。ウエスタン・リーグではいきなり本塁打王になるも、1軍での出場は6試合にとどまった。
「プロ(1軍)はスゴイです。大学の時は全部打ちにいっても打てる感じなんですが、プロは同じようにいったら絶対打てないですから。球は速いし、キレはあるし、コントロールもいい。変化球も大学とはレベルが違う。大学生の感覚のままでプレーしていたら、まるで通用しませんでした。今振り返ると(なんで打てないんやろか)程度の気持ちだったから、ダメだったんだと思いますね」
この1年目のオフにプエルトリコのウィンターリーグに派遣され、「そこで22試合に出場と、得難い経験ができたのも(飛躍の)足掛かりになった」が、大きかったのは、「2年目の途中から秋山 幸二前監督が1軍で68試合に起用してくれて、場数を踏めたこと」だという。
「1軍での試合経験を重ねるうちに、どんなボールが来るかイメージできるようになったんです。バッティングはああせえ、こうせえと言われて、その通りにやっても打てるようにはなりません。打席に立ってみないと分からない部分もありますからね。僕の場合、
経験させてもらって打てるようになった感じでしょうか」
失敗も失敗で終わらせず、次への糧とした。「まずは失敗しないとわからない。大事なのは失敗してから」と捉え、「打てなかった時も必ずその映像をチェックし、いろいろな練習をしながら、自分のイメージとのズレを修正したんです」
昨年の大ブレイクはこうした積み重ねの結果なのだろう。
[page_break:最終的な目標はトリプルスリー(3割、30本、30盗塁)]最終的な目標はトリプルスリー(3割、30本、30盗塁)
柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)
迎える15年のシーズン、ファンの柳田への期待はますます膨らむ。02年の松井 稼頭央選手(当時西武。現東北楽天。2013年インタビュー)以来となるトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)の達成も心待ちにされている。折しも今年から、チームのホームである広い[stadium]ヤフオクドーム[/stadium](の左中間と右中間部分に)にラッキーゾーンが設置される。これにより、昨年15本だったホームラン数の大幅増の可能性もより高くなろう。
こうした周囲からの期待を「ひしひと感じている」という柳田は、「僕はスクワットだと150キロくらいで、ベンチでは100キロ程度。そもそもそんなにパワーはないんですよ。それにプロはすぐにホームランが増えるほど、甘い世界ではありません」と前置きしつつ、こう話してくれた。
「ですが、今年はホームランを打つ確実性を身に付けられればと。ホームランを打つ打ち方で、どれだけ確率を上げられるかですね。昨年もホームランを狙ったことはありましたが、今のままでホームランを狙うと空振りで終わるか、打ち損じた時はポップフライになってしまうので。たとえば打球の角度をつけるためにロングティーをするなど、いろんなことを試しながら、パワーの全てを1点に集約できる打ち方を模索しているところです」
最後に「苦しかった広島商業高時代が僕の原点」と言う柳田から、オフのトレーニングに励む高校球児に熱いエールをいただいた。
「苦しいトレーニングも乗り越えられれば、必ず前に進みます。そのためにも目標を持つことが必要で、それが乗り越えるためのモチベーションになるし、大きな力になる。一緒に乗り越えた仲間との友情も大切にしてほしいですね。今も高校時代の同期の連中とは年に1度は集まるんですが、思い出話が尽きません。今は苦しいと思いますが、後々必ず、 頑張って良かったなと思うはずです」
柳田選手へのインタビューを行ったのは、プロ選手にとっては一大行事である契約更改の直前。そんな最中でも時間を気にすることなく、高校時代を振り返ってくれました。スター選手になっても自分を飾らない。そんな姿も印象的でした。柳田選手、ありがとうございました。ファン同様、今年のさらなる活躍を楽しみにしています。
(インタビュー・上原 伸一)