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元プロ野球選手・広澤克実氏が理事長務めるポニーリーグ 近年人気上昇中のリーグはどうして木製バットを使わせるのか

2023.01.11

 昨今の野球界において大きな問題といえば、野球人口の減少だ。問題解決へ、野球教室をはじめとしたあらゆる取り組みを、多くのチームが実施するようになったが、少年野球の現場で話を聞くと、選手数は明らかに減っているという。

 そうした声が現場から聞こえてくるなかで、登録選手数が年々増え続けているのが、ポニーリーグだ。元プロ野球選手である広澤克実さんが理事長として、リーグを大きくし続けている。

 「充実した4年間を過ごしてきました」と、これまでを振り返るとともに、「ポニーの理念に賛同してくれた方や、事務局の皆さんのおかげです」と、登録選手数の増加の背景を語る。

中学生に木製バットを持たせる理由とは?

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広澤克実理事長

 ポニーならではの取り組みの1つとして挙げられるのが、木製バットの使用だ。

 日本代表の選考を兼ねた広澤克実杯全日本地域対抗選手権大会兼日本代表選手選考会など、いくつかの大会に限定した取り組みだが、リーグから参加チームに木製バットを支給。出場選手全員は、木製バットを手に乾いた音をグラウンドに響かせていた。

 「投手に対して有利に働くので、ストレートで勝負する選手が増えた」と広澤理事長は投手に対しても効果が出ていることを話すと、木製バットに対しての思いを明かした。

 「野球は元々、木製バットを使う競技ですが、現在は金属バットを使うようになったので、『1回は木製バットを経験してほしい』というのがあります。ただすべての大会が木製バットではないので、1つのアイディアとしてやっています」

 自身はプロの世界まで活躍し、木製バットを使う機会があったが、プロまで続けられる球児は、ほんの一握り。大学以上のカテゴリーで見れば増えるだろうが、それでも多くは高校野球、甲子園がゴールとなる選手が多い。となると、木製バットを試合で使う機会はないに等しい。

 広澤理事長は、そうした選手に向けて木製バットを経験してほしい、と話しているのだ。

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考える習慣を身につけさせたい

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大会で使用された木製バット

 ただ木製バットを扱うのは難しい。高校球児であっても、大学へ進学する際には木製バットへの対応が壁になる。中学生であれば、より難しい課題だ。であれば、木製バットを中学生に使わせるのは避けてしまいがちだが、ポニーは違う。

 実は広澤理事長は、木製バットという課題をどのように解決するか。選手たちに考えさせることが、真の狙いだという。

 「木製バットを与えた時に、どのように対応していくか。考える習慣を与えることに、意味があると感じています。
 木製バットを技術的な方法で対応するのはもちろんですが、選手の人生に置き換えて、難しい局面にぶつかったときに、考える習慣があれば対応ができると思うんです。そのときのために、木製バットを通じて、考える習慣をつけてほしいんです」

 高校野球はもちろん、その先まで続く野球人生。自身の人生に置き換えても、先は長い。様々な課題に直面するのは間違いない。そんな課題を乗り越えていくための力を、広澤理事長は木製バットを通じて、身につけてほしいと願っている。

 目の前の試合、大会で結果を出す。もちろん選手やチームにとって最も大事なことだ。広澤理事長も「選手たちは勝利に向かって一生懸命になればいいと思うんです」と話すが、続けて、こうも話す。

 「大人が必死になりすぎてしまうのが、色んな問題を招きやすいので、運営側として選手をどう守るか。国の宝である子供の成長を見守るかが課題です」

 ポニーの指導理念10か条のなかの1つに、『手段と目的を混同してはならない』と明示されている。そのなかには、『勝敗を争うことは手段であり目的ではない』とハッキリ書かれている。この理念があるから、目先の勝利ばかり固執せず、選手たちの将来を見据えた指導ができるというわけだ。

 そんな指導の1つが、木製バットというツールを活用した人間教育であり、ポニーの思い描く選手育成だ。ポニーの選手としてだけではなく、1人の学生としても育てていく方針はポニーならではで、他にはない魅力である。だから登録選手数が増えているのだ。

 「これからもポニーの指導理念を継続して、卒業時には『ポニーを選んでよかった』と思われることが目的だと思います」と広澤理事長は話した。これからもポニーから多くの選手が誕生することを楽しみにしたい。

広澤 克実
一般社団法人 日本ポニーベースボール協会 理事長
1984年のドラフト会議でヤクルトから1位指名を受けて入団。その後、19年間で巨人、阪神と渡り歩き、1893試合出場。2018年に現在の役職に就く。

(記事:田中裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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