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第86回選抜高校野球大会の選考を振り返る【近畿、中国、四国、九州 編】

2014.01.25

第85回選抜の選考を振り返る【近畿、中国、四国、九州 編】

近畿、中国、四国、九州地区 出場校一覧

選抜大会 (参考)選手権大会
地区 区分 高校名 都道府県 出場回数 過去の戦績 出場回数 過去の戦績
近畿
(6枠)
私立 龍谷大平安 京都 2年連続38回目 32勝37敗1分け 32 59勝29敗(優勝3準優勝4)
私立 智辯和歌山 和歌山 3年ぶり11回目 21勝9敗(優勝1準優勝2) 20 35勝18敗(優勝2準優勝1)
私立 報徳学園 兵庫 2年連続20回目 29勝17敗(優勝2) 14 26勝13敗(優勝1)
私立 履正社 大阪 4年連続6回目 5勝5敗 2 1勝2敗
私立 智弁学園 奈良 2年ぶり9回目 6勝8敗 16 20勝16敗
私立 福知山成美 京都 5年ぶり2回目(夏春連続) 1勝1敗 4 4勝4敗
中国/四国
(5枠)
公立 岩国 山口 14年ぶり7回目 0勝6敗 4 4勝4敗
私立 広島新庄 広島 初出場
公立 今治西 愛媛 4年ぶり13回目 13勝12敗 12 20勝11敗
公立 徳島池田 徳島 27年ぶり8回目 21勝5敗(優勝2準優勝1) 9 20勝8敗(優勝1準優勝1)
私立 明徳義塾 高知 3年ぶり15回目(夏春連続) 22勝14敗 15 28勝14敗(優勝1)
九州
(4枠)
私立 沖縄尚学 沖縄 2年連続6回目(3季連続) 12勝3敗(優勝2) 6 5勝6敗
公立 美里工業 沖縄 初出場
私立 神村学園 鹿児島 2年ぶり4回目 5勝3敗(準優勝1) 3 2勝3敗
私立 鎮西 熊本 24年ぶり3回目 1勝2敗 4 8勝4敗
明治神宮大会枠
(1枠)
私立 創成館 長崎 2年連続2回目

0勝1敗

近畿地区 枠6・候補校16

■ 龍谷大平安
打力、守備力、投手力、機動力全ての面でレベルの高いチームとして近畿王者が最初に選出された。攻撃の中心は1番徳本健太朗。左右に打ち分ける巧打が素晴らしく、加えて足が速くて秋季大会全体で13盗塁を記録した。「チームにとってこれほど頼りになる選手はいないと思われる」という相澤孝行委員長の言葉が徳本の絶賛ぶりを伺わせる。さらに4番で主将の河合泰聖、3番の姫野大成に加え、下位打線ながら打率4割8分9厘を誇る石川拓弥もおり、打力の高さが際立った。投手では左の高橋奎二と右の中田竜次に二本柱。特に高橋は大会中の急成長が目を引いた。守備では相手チームの研究が怠りなく、外野の守備位置をこまめに変更し、ファンプレーも数多く見られた。チーム力の高さは、「甲子園での活躍は大いに期待できる」と文句なしだった。

■ 智辯和歌山
伝統の打力が健在で、公式戦12試合中10試合で二桁安打を記録。近畿大会でも4試合で計40得点を挙げて、準決勝までの3試合でコールド勝ちを決めた。打の中心は1番大畑達矢、3番山本龍河、4番長壱成、5番片山翔太、6番西山統麻と上位から下位までムラない編成。迫力十分のバッティングが相手チームに恐怖を与えた。少し不安のある投手力を打撃が補い、近畿準優勝で2番目の選出となった。

■ 履正社
激戦の大阪を1位で勝ち抜き、今年も堅実な試合運びが持ち味。エースの溝田悠人は1年生で171センチの身長からスライダーを中心にキレの良いボールを投げ、まとまっている。数少ない近畿大会での完投投手で1試合は完封だった。1回戦では21世紀枠で選出された海南相手に大苦戦したが、それを乗り越えると、本来の戦いを取り戻した。

■ 智辯学園
ベスト8ではあるが4番目の推薦となった。高校通算56本塁打の岡本和真が中心であるが、守りの面も優秀なチーム。投手力に不安があると言われているものの、エースの尾田恭平は打たれ強い投手で、守備も堅実で「甲子園での旋風を期待したい」という声が多かった。

■ 報徳学園
捕手で4番の岸田行倫がチームの大黒柱。特にピンチでは投手としてマウンドに上がる万能センスがある。ほかでは5番普久山拓海、6番で主将の福原雄大と強打者が続く。エースの中村誠報徳は、内外角を丁寧に突き、特に低めのスライダーには目を見張るものがある。甲子園で持ち前の試合巧者ぶりを発揮して頑張ってほしいという声が多かった。

■ 福知山成美
左腕エースの石原丈路は182センチの長身から、直球と変化球が良くコントロールされる将来性のある好投手と高い評価を得た。打力はやや非弱さが感じられるものの、その分、全員がコツコツと単打に徹して反対方向に飛ばすのが特徴だった。

例年選考のポイントになる近畿ラストの6校目だが、質問を受けた相澤委員長は「今回はスムーズに6校が決まった。6校目と7校目は少し差がある印象と選考委員全員の意見だった」と記者会見で語った。

補欠1位 三田松聖
補欠2位 PL学園

中国・四国地区 枠5・候補校26

試合前に士気を高める広島新庄

まずは基本数となる両地区の2校を選出した。

 岩国
優勝投手となったエースの柳川健大を「中国NO1投手」(山下智茂委員長)と評価。中国大会全4試合で完投し、そのうち2試合で完封。失点4、奪三振37と安定。ただ変化球が約7割と多いので、もっと直球を多く使えば、さらに良い投手になるという声もあった。攻撃力は100メートル11秒台で走る選手6人を揃え、センターを中心に逆方向に打ち返す打線が素晴らしい。1番川本拓歩、3番東史弥、4番二十八智大の3選手には長打力があった。守りは内外野ともに派手さはないが、基本に忠実。1年生捕手の水野大地は強肩でインサイドワークが良く、三遊間の河村凌輔木原勇人のフットワークの良さも目を引いた。部員25人と少ないものの、大型で高校生らしいチームとして最初に推すことを決めた。

 広島新庄
エースの山岡就也は、大会前に左肘を痛めていたものの、「全4試合を完投した精神力は素晴らしい」と山下委員長は話した。さらに140キロ近い直球を中心にテンポよくコースに投げ分け、大崩れしない投手。ただ、課題として良いボールと悪いボールの差が大きいことも付け加えた。

派手さはないものの、走者を置いてからの攻撃は素晴らしく、1番中林航輝、3番西島晴人、4番阪垣和也の打撃が光った。守りでもセンターラインがしっかりしている。公式戦以外で35勝3敗と勝率が高ことも評価の一つのなり、「中国地区NO1の力があるのではないかなと思います」と山下委員長は説明した。

 今治西
特徴は強い精神力を持つバッテリー。左腕エースの神野靖大は、169センチで直球130キロくらいだが、制球力が良く緩急を使った投球術は目を見張るものがあった。特にスライダーのキレが良く、膝元にくるボールは打者に取って打ち難いと評価された。さらに四国大会4試合で完投し2試合完封。防御率0.58も素晴らしかった。捕手の越智樹は、強肩で強気のリードに加えて、間の取り方も素晴らしい守りの要という声が挙がった。センターラインは夏の経験者が占め、基本に忠実な守りを見せる。打線は1番田頭寛至、3番越智、4番福原健太、5番神野としぶとい選手が多く、ワンチャンスにかける集中打が光った。総合力の高さを買われたとともに、パワーアップが今後の課題として挙げられた。

 徳島池田
エースの名西宥人が中心で、140キロ近い直球とスライダー、カーブを持つ。秋全体で55回と3分の1を投げ、防御率1,30と安定。ピッチングスタイルは強きで、スライダーは一級品という声が挙がった。徳島1位の生光学園、愛媛1位の西条と強いチームを破ったことも、高評価に繋がった。打撃は全員シャープで、4番の岡本昌也は四国大会で7割5分の打率でチームを引っ張った。かつての強打の徳島池田のイメージとは違うものの、投手を中心に守りがしっかりしていて、チャンスに強い打撃が光った。ただ、全体的な打力の向上が今後の課題として挙げられた。

残り1校を決める作業は、さらに時間をかけて行った。まずは中国地区の高川学園倉敷商を比較。地域性と次の理由から倉敷商が残った。左腕の大中優吾投手は、1年夏の甲子園で土を踏んだ経験を生かしたピッチングが特徴。完成度の高い投手ではあるが、課題として走者を背負った時にボールが甘くなりやすいことが挙げられた。チームとしても一昨年夏の甲子園経験者がいて、バランスの取れた高校生らしいきびきびしたチームだった。
次に四国地区もベスト4の明徳義塾生光学園を比較。その結果、投手力の良い明徳義塾が残った。エースの岸潤一郎は全国クラスの好投手で、145キロのキレのある直球が特徴。変化球もスライダー、カットボール、フォークを操り、1、2年生の夏に甲子園で活躍している。ただ直球だけで勝負する傾向が課題で、良い変化球も持っているので、変化球も(上手く)使ってほしいと思うと成長に期待する声が挙がった。甲子園経験者が多く、強肩で足のある選手も多い。守りでリズムを作って攻撃に繋げる印象。1番大谷勇希、3番多田桐吾、4番岸、5番尾﨑湧斗を中心に安定した打撃が光る。

■ 中国・四国地区ラスト1校の選考
最後に残った倉敷商明徳義塾をさらに詳しく比較検討され議論が交わされた。その結果、投手力とバランスの良さで上回るとされた明徳義塾を推すことが決まった。同校の敗れた試合では、今治西との準決勝で、4回裏に二死満塁から8番打者に長打を浴び1球に泣いた。投攻守のバランスでは上位2校に引けを取らないという印象が強かった。また。倉敷商との数字の比較でも、防御率と打率で上回り、9月に行った両校の練習試合で明徳義塾が2勝したことも、議論を重ねる中で参考材料の一つとなった。

中国地区補欠1位 倉敷商
補欠2位 高川学園

四国地区補欠1位 生光学園
補欠2位 坂出

九州地区 枠5・候補校16

まず、今大会は決勝が史上初となる地元沖縄県対決となり、大いに盛り上がった大会と全体を総括した。

 沖縄尚学
夏の選手権大会を経験したエース・山城大智は、130キロ台後半の直球とスライダー、フォークを武器に、全試合をほぼ一人で投げ、優勝の原動力となった。打線も主将の赤嶺謙を筆頭に、『打と走』に秀でた選手も多く、積極果敢な機動力野球は見事と評価。九州大会で課題と目されたリリーフ投手陣も、明治神宮大会で久保柊人にメドがついたのが大きな収穫。その明治神宮大会も制し、文句なしの1番目で選出された。

 美里工
守り中心のチームで、完投能力のある伊波友和長嶺飛翔の両右腕投手は、直球主体にシンカー、チェンジアップ、スライダーを混ぜて安定感の投球を披露。特に長嶺投手の内角に制球力には目を見張るものがあり、それをいかした捕手・與那嶺翔の強気なリードも見事であった。打線は4番の花城航を中心にコンパクトなスイングが徹底され、手堅く隙のない野球が見事という声が多かった。

3校目以降の選考は、2回戦と準々決勝のチームなども加えて計8校に絞って議論を交わした。
 神村学園
強力打線を誇るチームで、大会チーム打率3割2分7厘の攻撃力をいかんなく発揮しベスト4に進出。ただ、準決勝では美里工の伊波投手を攻めきれずに敗退。好投手への対策が課題という声もあった。エースの東務大は、要所を凌ぐピッチングを見せたが、九州大会の防御率が4点台で、投手陣の整備も求められる。

 鎮西
全員野球で、九州国際大付早稲田佐賀を連破。今大会を大いに盛り上げたチームだった。
ただ準決勝の沖縄尚学戦は、勝ちを意識しすぎてしまったのか、タイムリーエラーが続出したことが悔やまれる。それでもサイドスローのエース・須崎琢朗は、走者をためてかららも冷静な投球で要所を締め、6失策をしながらも4失点でとどめて、精神力の強さを見せたことは高評価となった。打線はリードオフマンの中野航汰主将を軸にしぶとく食らいつくのが特徴。課題は内野の守備力アップと二番手投手の育成ということも付け加えられた。

■ 増枠となった5校目の選考
注目の5校目は、残る6チームの戦力を分析し、創成館日章学園に絞られた。両校を総合的に比較検討した結果、投手力、守備力ともに僅差の争いとされ議論の白熱を伺わせた。最後に甲子園で少しでも安定した実力を発揮できるかを判断材料に加え、準々決勝の0対1での惜敗がポイントとなり、創成館を推すことに決まった。

日章学園が補欠1位となり、美里工戦で惜敗したが、笠谷俊介投手の好投が光った大分商が補欠2位となった。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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