第94回全国高校野球選手権大会展望 (注目選手編)
最後の夏に挑むBIG2
藤浪晋太郎(大阪桐蔭)
その年の注目選手を語る時に絶対に外せない選手のことをマスコミでは「BIG○」という枕詞を使う。今年でいえば藤浪晋太郎(大阪桐蔭)、大谷翔平(花巻東)、濱田達郎(愛工大名電)の3人がBIG3だ。彼らは十分にその枕詞に相応しい選手であろう。大谷が岩手大会決勝戦(2012年07月26日)で敗れてしまったので、今年の甲子園は、BIG2が筆頭となる。
選抜優勝投手となった藤浪晋太郎は選手権を見据え、トレーニングを重ね、さらにピッチングの幅を広げてきた。常時140キロ後半・最速153キロを誇るストレートに、多彩な変化球を操るまでに成長した藤浪。
大阪大会では30.1イニングを投げて43奪三振。奪三振率でいえば12.85と驚異的な奪三振率を誇る。ただ履正社戦の5失点もあり、防御率は2.99とやや高い数字となっている。まだ隙が見える藤浪は選手権へ向けてさらに隙のない投球を目指す。
濱田達郎は大会終盤にかけて本来のストレートが復活し始め、延長にもつれ込んだ決勝戦(2012年07月29日)の11回に最速146キロを計測。普段は淡々とした表情で投げ込む濱田。決勝戦はここぞという場面で鬼の形相で威力抜群の速球を投げ込んだ。最後の夏にかける熱い思いと甲子園が濱田のポテンシャルをさらに引き出すことは間違いない。
[page_break:BIG2に続く逸材たち]BIG2に続く逸材たち
柿澤貴裕(神村学園)
BIG2に追随する投手が神村学園・柿澤貴裕だ。選抜では主にリリーフとして登場。最速148キロの直球で力押ししていたが、緩いシンカー、鋭く曲がるスライダー、カーブを投げ分け、実戦的なピッチングを展開。防御率0.59、四死球率1.49と抜群の安定感を誇り、能力、成績面で二人を追随する存在であろう。
激戦区・神奈川を勝ち抜いた桐光学園のエース・松井裕樹。46.1回を投げて神奈川大会記録となる68奪三振を奪った。ダイナミックな投球フォームから投じる140キロ超のストレート、縦に鋭く落ちるスライダーはともに超高校級で、打ち崩すのは容易ではない。まだ2年生だが、全国トップクラスに名乗り挙がる左腕であろう。
北海道では札幌一の知久将人は昨秋から道内屈指の本格派として評判だった。ここまで準優勝続きだったが、ようやく全国の舞台に足を踏む。
東北地方では花巻東を破った実戦派左腕・出口心海、185センチの長身から振り下ろす直球が武器の近藤 卓矢(秋田商)、140キロ超の速球を投げ込む会田隆一郎(酒田南)。39イニングを投げて四死球が僅かに1の仙台育英のエース渡辺侑也、経験豊富な実戦派右腕の聖光学院・岡野祐一郎など好投手が揃う。
関東では骨太の体格から最速147キロの速球、切れのあるスライダーを武器にする東海大甲府の神原 友、春から大きく実戦力を伸ばした木更津総合の黄本 創星、最速147キロ右腕・常総学院の伊藤 侃嗣投手としての総合力を高められるかがチェックポイント。初出場の成立学園のエース谷岡 竜平はトータルバランスが高い本格派右腕。
北信越では新潟大会6試合を投げ切った竹石 智弥(新潟明訓)は182センチから振り下ろす角度ある140キロ前後の直球は球速表示以上の威力を感じさせる。最速148キロを誇る福井工大福井の菅原秀は34イニングを投げて44奪三振を奪っており、奪三振率の高さが直球の球威の非凡さを示している。
東海では初出場の松阪のエース・竹内諒はテクニックで勝負し、三重県の頂点を勝ち取った。左サイドから投じる140キロ半ばの速球、スライダーのコンビネーションで勝負する。
近畿では藤浪の二番手投手として活躍してきた澤田圭佑(大阪桐蔭)がより安定感が増し、24.2回を投げて失点2、四死球0という非凡な成績を残した。春夏連覇を狙う大阪桐蔭にとってこれほど心強い投手はいないであろう。天理では実戦派左腕・中谷 圭太、143キロ右腕・山本竜也に注目。8年連続出場の智弁和歌山は2年生左腕・吉川雄大、大型右腕・蔭地野正起と好投手揃いの代表校が多い。
中国・四国では140キロ前後の速球を投げ込む辻駒 祐太(広島工)、鳥取城北からは実績十分の平田祥真、西坂凌の二枚看板、山口県屈指の左腕・笹永 弥則、経験豊富な技巧派右腕・後藤田 崇作(鳴門)、サイドから威力ある直球が持ち味の福永智之(明徳義塾)に注目だ。
九州では佐世保実の木村隆志は入学時から実力を高めてきた実戦派左腕。52年ぶりの出場を果たした宮崎工の長友 宥樹は140キロ前後の速球とチェンジアップを武器にする左腕。
浦添商からは最速151キロを誇る剛腕・照屋 光、安定度十分の宮里 泰悠の二枚看板に注目。[page_break:スラッガー ・巧打者揃いの今年の甲子園]
スラッガー ・巧打者揃いの今年の甲子園
高橋 大樹(龍谷大平安)
続いて野手である。今年の甲子園出場する選手で最も注目を集めているのが龍谷大平安の高橋 大樹。今年の野手を語るならば外せない選手の一人だ。中村紀洋(横浜DeNAベイスターズ)ばりのフルスイングから放たれる打球は高校生離れしており、打率.545、7打点、三振1と隙なしの内容であった。そして6盗塁をしているのも見逃せないポイント。今年も豪快なホームランを描けるか注目だ。
160キロ右腕・大谷翔平から打ち崩した盛岡大付を引っ張る佐藤 廉は打率.450、3本塁打を放ち、守備力の高さが光る大型外野手。大谷からホームランを打った二橋 大地も、気持ち良いフルスイングを見せる。
今大会屈指の大型捕手・下妻 貴寛もプロから注目を浴びる。仙台育英の主軸を打つ上林 誠和は打率.333ながら潜在能力の高さが光る左の巧打者。
作新学院の石井 一成は高度な打撃技術を誇り打率.520をマークしたショートストップ。群馬大会2本塁打の両角 拓哉、投打で高い才能を示す浦和学院の佐藤拓也、優勝を決める逆転打を放った日大三の金子凌也、木更津総合の三國和磨は難しい球をいとも簡単にヒットにするミートセンスの高さが光る。桐光学園からは大型二塁手・鈴木 拓夢。走攻守三拍子揃った渡辺 諒(東海大甲府)は来年のドラフト候補として注目が集まる。
愛工大名電の佐藤 大将、中野良紀の三遊間コンビはともに巧打・俊足・堅守のコンビは春から成長を見せるか。富山大会で圧倒的な打力で勝ち上がった富山工を引っ張る荒城英治も注目。
春夏連覇を目指す大阪桐蔭は攻守で高いセンスを見せる森 友哉、怪我から復活したスラッガー・田端 良基。智弁和歌山の巧打者・嶌 直広。広島工・宇佐美塁大は広島大会で3ホーマーを放ちプロ注目の大型三塁手。打率.600を誇る大型外野手・木村 達也(鳥取城北)も見逃せない。
甲子園という大舞台は、選手の眠っていた才能を引き出す場だ。高校生はちょっとしたきっかけで素晴らしい選手に化けてしまう。甲子園を戦う上で、いろいろな怖さはあるが、選手を良い意味で変えてしまう魔力は常にあり続けてほしい。間もなく始まる甲子園。
今年は期待以上のパフォーマンスを披露する選手が一人でも多く現れることを期待したい。
(文・編集部)