Column

英明高等学校(香川)

2015.03.21

時間を惜しみ、効果を直結させ、夏も見据えた強化へ

 昨秋は香川県大会で2年ぶり2度目の優勝。続く四国大会でも安定感漂う戦いぶりで初の四国王者に輝き、今回センバツに初出場する英明。が、英明センバツも含め、今後は香川県高校野球のジンクスとも闘う英明の現状を追いたい。

英明に立ちはだかる香川県高校野球のジンクスとは?

バッティング練習の合間にトレーニングに取り組む英明・田中 寛大投手(3年)(英明高校)

 まずは香川県勢のセンバツ連敗。2002年・2勝をあげベスト8に進出した尽誠学園が準々決勝で関西(岡山)に敗れて以後、2005年には高松三本松2011年には香川西が跳ね返された(試合レポート)初戦。英明は現在57勝56敗の県勢通算センバツ成績「5割以上キープ」という命題と共に、13年ぶりの県勢センバツ勝利へ挑んでいく。

 もう1つのジンクスも英明を待ち受ける。これも2002年の尽誠学園以来ない「春夏連続甲子園出場」だ。2005年高松は1回戦・第2シードの三本松は3回戦で甲子園出場を果たした丸亀城西の前に涙を呑み、2011年・センバツ後の春季四国大会でも初優勝し第1シードに推された香川西高松一に初戦敗退。

 加えてセンバツ出場校と春季県大会4強以上に権利がある「夏の香川大会シード」からの甲子園も、2009年の藤井学園寒川(第1シードで甲子園初出場)以来5年間なし。すでに第2シード以上が決まっている彼らにとって、難易度は増すばかりだ。

 では、英明はどうやってこれらの「ジンクス」を乗り越えようとしているのか?センバツ出発直前の練習と練習試合から現状をお伝えしていきたい。

時間を惜しみ、効果を直結する練習

 3月7日・土曜日。讃岐七富士の1つ「御厨富士」が見守る高松市郊外の国分寺町。英明グラウンドで選手たちは、前回の学校紹介でも紹介した名物・縦長グラウンドでのバッティング練習を行っていた。

 この日は今季の練習試合初戦・香川中央戦を翌日に控えているため、ピッチングマシンは使わず、バッティング投手による5か所フリーバッティングが中心。ただ、そのバッティングゲージの片隅には、一見何の関係もない器具が置かれていた。メディシンボール・バベールなどなど。その使用法が明らかになったのは、ゲージ移動などで少し時間が空いた時である。

 選手たちはおもむろにメディシンボールや、バーベルを上げ始めた。約2分程度行った後に、再びバッティング練習に入った打球音は、より甲高いものとなり、鋭い打球が飛んでいく。

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[page_break:外野ノックを選手に打たせる理由]

「合間に身体の使い方を意識したトレーニングを入れることで、すぐにバッティングへつなげるために、昨年の秋を終えてから、この方法を採るようになったんです」

観音寺中央高で父・香川 智彦監督から指導を受け、現在は英明で親子鷹で選手たちを指導する香川 純平コーチが教えてくれた。

 その両側にも工夫が。投手から左側ではゲージの後ろをめがけてのティー打撃や、素振り。その横では「投球や打撃の体重移動を意識している」原 啓人(2年)が何度もメディシンボールを叩きつける。一方、右側では投手に近い脚をブロックに乗せてのティー打撃。

「突っ込みを防ぐ効果があります。これをしたことで強い打球が打てるようになりました」と、昨秋公式戦では10試合で42打数19安打1本塁打8打点。センバツでもリードオフマン濃厚の酒井 勇志(2年・中堅手)も効果を如実に感じている。

 ところで、センバツメンバー外の控え選手は……。ゲージ後ろのテニスコートで、様々な大きさのボールを使ったロングティー。そして投手陣は全員が「投球練習も兼ねた」(香川コーチ)打撃投手と化していた。

時間を惜しんでいる様が一目で判る。全く無駄がない。感心しながら練習を見つめていると、香川監督がもう1つ指摘してくれた。

「ウチはティー打撃でも投げる側が座って投げることはさせません。そうすると、投手の投げるタイミングと違ってしまいますから。速いタイミングで、打者と正対して、真横から投げる。そういうことをしています」

練習から実戦を近づけた状況を作りだす。これも英明練習の大きなポイントだ。

外野ノックを選手に打たせる理由

バッティング練習も兼ねた外野ノックを打つ英明・坂本 翔馬外野手(3年)(英明高校)

 打撃練習の次はノック。が、ダイヤモンド程度しか幅がない国分寺グラウンドではノック形式は変則にならざるを得ない。内野はそのままグラウンドで、外野は敷地内にある300m陸上トラック内にある芝生スペースで。
今回は外野ノックを重点的に見ることにした。

「5球しかないんやぞ!」

 高松西高では大型捕手・主将として活躍。駒澤大時代はオリックス・海田 智行賀茂高<広島>~駒澤大~日本生命)のボールも受け続けてきた大下 大地コーチから檄が飛ぶ。カットマンまでの距離を意識した40mキャッチボール。ここから勝負は始まっている様がよく判る。

 そして実際のノックでは右打者の大下コーチと共に、177センチ100キロの左打者でノッカーを務めた坂本 翔馬。昨秋公式戦・センバツはベンチを外れたが練習試合では本塁打を放つなど長打力には定評がある2年生だ。彼のノックはラインドライブを伴って逃げる打球となり、外野手たちを大いに悩ませた。

「外野手には実戦に即した打球に対応できるように、坂本の打力を伸ばす意味も込めて打たせています。夏にはベンチ入りもあると思いますよ」

 大下コーチはそう話して、ちょっとだけ笑顔を見せた。

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[page_break:夏を勝ち抜くための「戦略」「筋力トレーニング」と「食」]

夏を勝ち抜くための「戦略」「筋力トレーニング」と「食」

「[stadium]甲子園[/stadium]は(浜風があるので)レフトが鬼門なんですよね。正直、悩んでいます。それと例年は春の県大会後に鍛える時期に入るんですが、恐らくここも調整になる。あとはセンバツに出たことによって、選手たちの鼻が高くなることが心配やね」

 今回のテーマ「夏を見据えたチーム作り」を問われ、香川監督の第一声は恒例のボヤキから(笑)。が、一転。このメンバー選考には明確なチーム作りがあることも話してくれた。

「今回のメンバー選考条件はまず真面目な選手であること。そして控え選手には1年生を多めに入れました。センバツの後には新入生も入ってくるわけですから、ここで刺激を与えないといけません。例年はゴールデンウイーク明けに新入生を使って刺激を与えることもしていますね。また、投手陣は軸を作っておいて、そこに投手を加えていく感じです。

それと夏に大事なのは組み合わせ。第3シード・第4シードのゾーンだと雨での順延になると連戦の可能性が高いですから、そこは正直避けたいところですね」

 昨夏の英明香川大会第2シードで初戦敗退。反面、2010・2011年の甲子園出場はいずれも第1シード・第2シードのゾーンからノーシードで勝ち上がっている。となれば、今回も第2シード以上が決まっていることは、決して悪くない条件だ。

筋力トレーニングに取り組む英明の選手たち(英明高校)

 そして夏を勝ち抜くために必須の身体づくりも。センバツを前にしても彼らは学校での筋力トレーニングのペースを落とすことはない。

 今季、英明の筋力トレーニングテーマは「キレを出す」であったが、「2日に1回、朝のウエイトトレーニングで自分のMAX重量の70%~80%を上げることを続けていた」酒井は入学時55㎏だったベンチプレスが現在115㎏を上げられるように。一方、関西(岡山)から転校時の一昨年秋には167cm91㎏だった強打の4番・湊 亮将(2年・三塁手)は、「今は79㎏まで減りました」と話す。

 さらに、英明は食の部分でも手厚いサポートを受けている。昨夏からは大下コーチが高松西高時代にお世話になっていた定食屋「サンタ ローザ」で寮生と自宅生希望者が食事をとれるように。取材日の昼食にはご飯がいっぱいに詰まった特製オムライスが振る舞われた。事実、主将の冨田 勝貴(2年・一塁手)は入学時には170cm70㎏・昨秋も72㎏だったのが、現在は76㎏。「一冬越えて、打球の飛距離や速さが出てきた」一因に「サンタ ローザ」効果があるのは間違いない。

センバツ、その先を見据えた練習試合での抜擢

 3月8日、香川中央との練習試合。1番から4番までは昨秋四国大会と同じメンバーが並び、先発マウンドにはエース・田中 寛大(2年)が並ぶ中、香川監督が懸念していたレフト、そして5番には久々の名前が記された。

中野 公貴(2年)。1年秋には二塁手を務め、チームの四国大会8強に貢献するも、その後は壁を破り切れず。この冬からは外野手に転じた右打者である。

 そして中野は4打数3安打2得点。「結果を出してきているし、いいレギュラー争いをしてほしい」香川監督の期待に応える活躍。3対1で勝利した第1試合の中で、最も輝いたのは彼であった。

 そういえば、冨田主将は前日、こんな話もしてくれた。
「暑い中でも、疲れていてもキープできる体力を付けることも、選手間ミーティングで話をしてきました。チーム状況もよくなっているので、明日が楽しみです」

 もちろん試合は相手があってのこと。彼らの努力が必ずセンバツ、夏に結びつくとは限らない。ただ、センバツばかりでなく夏を見据えた英明の取り組みが、チーム内に闘志を引き出す化学作用を起こしていることは確か。その過程は大会第4日第1試合・大曲工業との一戦。聖地のグラウンド内で必ず見られるはずだ。

(取材/文・寺下 友徳

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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