試合レポート

東大阪大柏原vs履正社

2011.05.06

東大阪大柏原vs履正社 | 高校野球ドットコム

勝利の瞬間、石川慎吾主将

乗り越えたカベ!勇気をもらった檄!

思わず、思わず、大きなガッツポーズが出た。9回裏2死、履正社7番の坂本誠志郎(3年)をファーストゴロに打ち取った瞬間の東大阪大柏原石川慎吾主将(3年)だ。
「楽しみで、しようがなかった」とこの日のゲームに臨んだ心境を話してくれた石川主将。

相手は選抜大会4強の履正社
この春の大阪府予選も4試合連続コールドでしかも全て無失点で勝ち上がってきた。エース飯塚孝史(3年)だけでなく、渡邊真也(3年)、原将太(3年)、鈴木佳佑(2年)と4人が投げての無失点という事実がどれだけ安定感があるかを物語っている。

この履正社に対し、柏原が点をどうやって取りにいくのか?
これが、このゲームの大きなポイントだった。

そして1回表、柏原最初の攻撃でいきなりその場面が訪れる。
柏原は1番泉駿吾(3年)、2番末武雄貴(2年)が凡退し2死。打席には3番の石川慎吾。高校通算49本塁打の最も警戒すべき打者を打席に迎えた履正社先発の原と坂本のバッテリーはやや慎重な攻めになった。

1球、1球、ミットの位置を変える坂本。それは『どんな球を狙ってくるのか?どんな見逃し方をするのか?』を探っているようにも思えるシーンでもあった。
結局フルカウントから石川慎吾は四球選ぶ。この四球がバッテリーにどんな心理を与えたのかはわからないが、続く4番西田尚寛(3年)が初球をライト前に放ち1、3塁となった。

 先取点の大きなチャンスを迎えて、打席は5番の山﨑利起(3年)。2ボール1ストライクからの4球目、「イチかバチか勝負をかけた」という柏原・田中秀昌監督の取った策は一塁走者のエンドラン。スタートを切った西田を見たショートの石井元(3年)がやや二遊間よりに動いた時、山﨑の振り切った打球が三遊間へ転がった。反応した石井は打球を処理するが、やや遅れた分だけ一塁は内野安打となり、石川慎吾が本塁ベースを踏んだ。策が当たった柏原に、もたらされた1点。これがマスクを被る石川慎吾、そして先発の白根一樹(3年)に取ってはかりしれないくらい大きな1点だった。


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5回からリリーフ登板した飯塚(履正社)

 その白根は、4回まで履正社打線に5安打。特に、2、3、4回と連続して先頭打者に痛打された。その先頭打者をきっちりと二塁に送って得点パターンを作る履正社。しかしその度に白根と石川慎吾はバックを信じて耐え抜いた。この3イニングが第二のポイントになる。
4回の攻撃で履正社はチャンスで廻ってきた9番原に代打を送り、5回からはエース飯塚を投入した。この時点で履正社サイドの『勝負して何とか流れを変えたい。そして何としても勝ちたい』という意思が見える。
5回、初めて三者凡退に打ち取った白根。しかし6回にはまたも先頭打者を出した。ここもきっちり初球で送った履正社は6番の原田涼平(2年)がヒットを放って1、3塁とした。
〝どう1点を取りにいくか履正社
〝どう凌ぐか柏原
打席には7番坂本。その初球、坂本はスクイズを仕掛けた。履正社の十八番が見事に決まり試合は振り出しに。ただ、白根は残ったピンチを凌いで、逆転までは許さなかった。

7回表、同点に追いついた履正社に守りのミスが出る。2番末武のサードゴロ、3番石川慎吾のショートゴロをエラーしてしまった履正社
「チャンスを作りながら得点できなかったイライラが、ひょっとすると残っていたのかもしれませんね」と敵将である田中監督はこの場面での相手を思いやった。これが前述した第二のポイントである。


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大声をはり味方を鼓舞する安達マネージャー

歯車が狂った履正社バッテリーから4番西田がライト前へタイムリーを放つ。そして生還した末武と交錯した、坂本のミットを弾いた球は、カバーに回った飯塚と反対方向へ転がった。その間に石川慎吾も生還し、2点をものにした柏原。さらに5番山﨑、7番石川司(2年)が二塁打を放ってこのイニング4得点。

その裏、やや球威がなくなった白根を攻め、1番海部大斗(3年)から4連打で2点を返すと、5番大西晃平の犠牲フライで1点差。さらに6番原田もヒットを放って2死1、2塁と一気に逆転まで狙える場面となった。

これが選抜大会4強、履正社の底力か!?
打席には投手心理と配球を読む技術に長ける坂本。
苦しい白根と石川慎吾のバッテリー。
この場面で、苦しむバッテリーに檄が飛ぶ。

「強気や強気、バッテリー!」

声の主はベンチ最前列の安達翔平マネージャー(3年)。

昨年のチームから記録員としてベンチに入る彼の試合中に発する声は、選手ばかりでなくスタンドのファンも引きつけられるくらいのインパクトがある。

ここで安達マネージャーが発した檄が、バッテリーにとって大きな勇気となった。
坂本に対し変化球を中心に攻めるバッテリー。直球でさえ、微妙な変化が加わっていた。坂本も粘ったが、8球目についにバットが空を切った。
安達マネージャーの言葉に強気で攻めることを徹底できたバッテリー。
「安達の声は良く聞こえました。1年の時から一緒にベンチに入ってきて、彼の声はなくてはならない存在。感謝です」と話してくれた石川慎吾主将。
8回からは園田祐大(2年)がリリーフ。その園田に対し安達マネージャーは「魂を込めろ」と励まし続けた。結局、ピンチを招きながらも踏ん張って1点差を凌ぎ切った東大阪大柏原。
ベンチ裏に飛び出してきた主将の「しびれた!」という声が、この一戦をものにした興奮度を物語っていた。

 

一方で競り負けた履正社
一皮剥けてきた打線、安定した投手陣と着実に力をつけている姿を見ることができたが、あらためて夏の大阪を勝ち抜く厳しさも味わったのではないだろか。
春夏連続出場、甲子園での上位進出をするだけの戦力は備わっている。でもここから2カ月の過ごし方、春の敗戦をどう反省して生かすがで、夏の運命も左右されてくるだろう。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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