伝統の大型エース、スターも不在。和歌山東を変えた智辯和歌山との一戦【前編】
秋の近畿大会で準優勝を果たし、春夏通じて初の甲子園出場を確実にした和歌山東。軟式から硬式に移行してから今年で12年の月日が経った。和歌山大会で夏の甲子園を制した智辯和歌山を下すと、近畿大会でも夏の甲子園4強の京都国際などの強豪校を次々と撃破。今回は躍進を続けた秋の振り返り、そしてセンバツでの目標を語ってもらった。
魂の野球で掴んだ智弁和歌山からの勝利
ランニングをする和歌山東の選手たち
今年の夏は和歌山大会で智辯和歌山に敗れて準決勝敗退。この時に下級生で唯一のレギュラーだった此上 平羅(2年)が主将となり、新チームが始動した。
和歌山東といえば、津森 宥紀投手(ソフトバンク)や落合 秀市投手(元06ブルズ)といった好投手が育つイメージが強い。今年は彼らのような本格派投手はいないが、ツーシームを武器とする麻田一誠(2年)や技巧派左腕の山田健吾、石野涼、田村 拓翔(いずれも2年)とバラエティーに富んでおり、「誰か一人を際立たせるというよりも投手陣みんなで抑えていくという感じでやっています」と創部当初から指揮を執る米原 寿秀監督は話す。
今年のチームは12年間の中で比較しても能力的には「真ん中より少し下くらい」と米原監督が言うように決して力のある世代ではなかった。新チーム最初の公式戦となる新人戦では3回戦で智辯和歌山と対戦したが、0対11の5回コールド負けを喫している。
これで自信をなくしてもおかしくはなかったが、米原監督は「この1ヶ月で絶対に変われる」と選手を励ましたという。秋の大会では順調に勝ち上がり、準決勝で智辯和歌山と再び対戦。勝った方が近畿大会の出場が決まる大一番を前に指揮官は「魂の野球」という言葉を選手たちに授けた。その真意について米原監督はこう語ってくれた。
「成功体験の少ない子が多くて、今まで生きてきた中で簡単に諦めてしまったり、これくらいで良いだろうとか、そういう感じで今まできている子が多かった。『みんなの持っている魂はそんなもんじゃないよ』ということで、智辯和歌山戦の前にそういう話をして、魂を呼び起こせという話をしました」
米原監督の言葉に奮起した選手は気迫を前面に出して、真っ向からぶつかった。4回表までに4点のリードを奪うと、3投手の細かな継投で逃げ切り、5対4で勝利。「実感が湧かないくらい嬉しかったです」(此上)と選手たちは喜びを爆発させた。
[page_break:勢いで近畿大会も勝ち上がり、甲子園を確実なものに]勢いで近畿大会も勝ち上がり、甲子園を確実なものに
京都国際戦に勝利した瞬間、喜びを表現する和歌山東ナイン
大きな成功体験を得た彼らは確かな自信を掴んだ。近畿大会1回戦で八幡商(滋賀)と対戦する前のミーティングでは「全員が同じ気持ちになって、熱いことを言っていましたので、本当に成長したなと思いました」と米原監督を感心させるほど、精神面での成長が見られたという。
特に智辯和歌山戦で自信を深めたのがエースの麻田だ。「自分でも勝負ができるんだと自信を持って、落ち着いて投げられるようになりました」と近畿大会でも好投を披露。八幡商戦では1失点完投勝利を収めた。
勝てばセンバツ出場が濃厚となる準々決勝は京都国際との対戦となった。昨秋の近畿大会でも1回戦で対戦しており、3対4で逆転負けを喫している。1年前のリベンジに燃える和歌山東ナインは、この試合でも「魂の野球」を見せつけた。
立ち上がりに2点を先制すると、先発の田村が5回途中1失点と好投。リリーフした麻田も気合いの入った投球を見せた。9回裏にはソロ本塁打で1点差に迫られ、なおも二死二塁と一打同点のピンチを迎えたが、最後の打者をショートゴロに打ち取り、3対2で勝利。最後の守りは智辯和歌山戦の経験が大きかったと米原監督は話す。
「智辯和歌山戦を乗り越えたことで、最後までバタバタしない野球ができるようになりました。守備に関してもエラーはほとんどありませんでしたし、最後の二死二塁の場面でのショートゴロもそんな簡単な当たりではなかったのですが、落ち着いてさばいているのを見て、本当に成長したなと思いました」
創部12年目にして、初の甲子園出場を確実なものにした和歌山東。「OBはもちろんそうですし、後援会の方、また学校関係者の方、本当に色んな人の力でここまできましたので、その感謝の気持ちというのが最初に浮かんできました」と米原監督はこれまで携わってきた人たちへの想いが頭に浮かんだという。
(取材:馬場 遼)