Column

夏の大会・トレーニングの長期コンディショニング対策について

2015.08.14

 6月に、四国アイランドリーグで選抜したチームでアメリカ・カナダの独立リーグの公式戦17連戦とオープン戦1試合という1ヶ月の戦いに代表トレーナーとして帯同をした。
そこで今回は、この長い移動の疲労とコンディショニングについて対策を書こうと思う。

オーバーワークになりやすい原因とは?

オーバーワークになりやすい原因は?

 まず日程だが、6月6日に四国を出発してアメリカ(ニュージャージー州)に渡り、そこで約1週間、練習や各イベント、オープン戦をこなして北米とカナダの6チームの独立リーグ(キャンナムリーグ)で17連戦を行い、カナダ~ニューヨークにバスで戻り(約12時間)、そこから7月1日の帰国まで、ニューヨーク~シカゴ~成田~羽田~四国と約30時間の移動をするという過密な日程であった。

 今回のトレーナーとしての仕事だが、オールスターチームで各チームから選手が集まってきている為、コンディショニングを整えることが中心となった。

 過密日程によるオーバーワーク症候群に対して、体重・体温や血圧でチェックする等は道具の関係上できないので、口頭質問や日々の動きを見ながらメニューの量を調整することにした。

■オーバーワークになりやすい原因

1)体力を使い切ってしまう
2)体調不良(風邪気味である等)
3)ハードトレーニング
4)不必要なガンバリズム(努力至上主義)
5)栄養の偏りや不足
6)不十分な体力回復(リカバリー不足)
7)精神的ストレスの多い環境・生活
8)高すぎる目標

 以上の8つが挙げられるが、今回のオールスターチームの使命は高く、8つ全てが入っており、トレーナー的にはオーバーワーク症候群にならないようにする事を第一にした。
これは高校野球の夏の大会や練習、合宿にも言える事である。


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[page_break:オーバーワーク時の身体に起きていること]

オーバーワーク時の身体に起きていること

オーバーワーク時の身体に起きていること

 次に細胞レベル等で何が起こっているのかを見てみよう。

1)筋細胞・肝細胞
エネルギー生産系の不全・グリコーゲン再合成の遅れ・ミトコンドリアの障害・酵素の活性低下・チトクローム系酵素などの不全・ミネラル不全

2)筋繊維レベル
代謝の不活性化・水分の貯留(浮腫)・神経の発火に対する反応低下・AT・LTの低下・マイクロトラウマ(微小障害)の回復の遅れ

3)神経レベル
生理的抑制の昇進・即通現象の低下・ビタミンB群の不足・意欲の低下・自律神経の機能失調・過度の緊張

4)ホルモン、内分泌レベル(視床下部・下垂体等)
ストレス耐性の低下・ホルモンバランスの乱れ・性ホルモン低下・ホメオスタシス維持機能低下

 この4つが挙げられ、これらのものに対症していくのがポイントになっていく。

■オーバーワーク症候群のタイプ別について

1)交感神経タイプ
・休息時血圧、心拍数上昇
・運動後の血圧の休息時レベルの回復の遅れ
・パフォーマンス成果の低下
・食欲低下
・体重の低下
・運動からの回復の遅れ
・敏感さと情動的不安定の増加
・睡眠障害
・トレーニング、競争への意欲低下
・傷の範囲拡大
・OBLAレベル低下
・最大筋力低下

2)副交感神経タイプ
・パフォーマンス成果の減少
・休息時の低い脈圧
・運動時心拍の早い回復
・運動中の低血糖
・無気力な行動
・運動中の最大血しょう、乳酸レベルの低下

 このように自律神経にも異常が出てくる。


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[page_break:チェックの大切さとその活用]

チェックの大切さとその活用

 私はトレーナーとして選手コンディショニングを簡単に把握するために一定のチェックをしている。

 まずはグラウンドに出てきた時の選手の表情、顔つきを見たり、疲労が見える選手には声をかけて体調を聞いてみる。次にウォームアップ時のジョグでの足取り、姿勢、ダイナミックでの動き、声の出し方をみていく。

 これは経験的になるが、チームに長く関わるとその雰囲気というか、オーラのようなものでチーム全体の疲労感がわかるようになってくる。
このような場合、リカバリーを増やしながら臨機応変にウォームアップの量を減らしたりなどして、運動量を減らしていく。また、ピッチャーに関しては、その日のランニングのタイムでスピードが低下した場合は球数を減らしてリカバリーメニューの指示を出していく。

■筋パフォーマンスについてと障害予防

 ゲームや練習の後は筋に微細損傷が起きている。オーバーワーク症候群になると、このマイクロトラウマの回復が遅れて大きな障害に繋がりやすい。私は「痛み」に対し、練習前・練習中・練習後のいつ起きているのか確認をとり、その予兆を見ていくことにしている。

 運動痛を引き起こす前に筋は短くなり、関節は硬くなり、筋の硬結(ゴリゴリ感)や圧痛がでてくる。また最大筋力が低下してきたら注意が必要で、ピッチャーの球速が落ちていたら、障害予防のための降板のひとつの目安にもなる。このためにアメリカでは投球制限を厳しく行っているし、日々の練習として全力投球する練習をするならばスピードを測り、落ちてきていたら障害予防の為に辞めるべきと判断する。またこの球速を落ちにくくする為に、ピッチャーはストレングストレーニングと日々のセルフコンディショニングを徹底するべきであろう。

 選手は日々のストレッチで可動域の低下を意識してストレッチを行い、またストレッチポールを使い可動の低下がある筋の硬結と圧痛を探して、筋・筋膜リリースを各自で行うべきである。これはきちんと各チームの指導者が選手に説明して行わせる責任がある。リカバリーの徹底が予防の最大方法である。

まとめ

 今回は四国アイランドリーグオールスターチームの長期遠征におけるコンディショニングの実践例を取り上げて、高校野球の夏のコンディショニング対策としての基本となり、オーバートレーニング、オーバーワーク症候群についての対策と説明を行った。

 選手は日々のセルフチェックが大切であり、内科的な部分である起床時の心拍数、体重、体調(食欲、睡眠時間)、疲労度と、整形外科的な部分であるストレッチ時の可動域、ランニング時の脚の重さ、スプリントでの筋力、痛み(箇所・時間)、ピッチャーの場合は球速のチェックを行い、予防することが大切である。

 一度オーバーワーク症候群になるとオーバーホールが必要で『トレーニング負荷を一切避ける』ことになり、そうなると長期離脱になってしまう。こうなる前に、指導者はただ成績の落ちている選手を練習不足ととらえて、ガンバリズム、努力至上主義に走り、練習量をあげてトレーニングのみに答えを出すのではなく、よくチームの状況を確認しなければならない。

 特に夏場や合宿、長期のリーグ戦、トーナメント戦の場合は基本的にはオーバーワークがほとんどである。パフォーマンス低下がトレーニング不足か疲労によるものかを確認する為に、選手には日々のセルフチェックを行わせて、コンディショニングに問題がなければ、トレーニング強度をあげ、コンディショニングチェックに不良が出たらリカバリーを行う事を徹底して、まずは選手を教育してセルフコンディショニングに対して責任を持たせる事が大切である。

 そして選手は、自分の身体に対して責任をもって管理することはアスリートとして当然の行為だと確認して、己の責任で体調を管理するべきである。


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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