「伝統校」の誇りと歴史を胸に戦う──100年以上の歴史を築きあげている高校野球。その中には幾度も甲子園の土を踏んだが、ここ数年は遠ざかり”古豪”と呼ばれる学校も多く存在する。
昨年から導入された低反発バットや夏の甲子園二部制など、高校野球にも変革の時期が訪れようとしている。時代の変遷とともに変わりゆく中で、かつて聖地を沸かせた強豪校はどんな道を歩んでいるのか。『高校野球ドットコム』では名門復活を期す学校を取材し、チームの取り組みや夏に向けた意気込みに迫った。
40年離れた聖地・甲子園
21世紀になってから埼玉県の公立校は一度も甲子園の地に足を踏み入れていない。最後に出場したのは1998年夏の滑川。05年から滑川と吉見が統合し、現在は滑川総合として出場している西部地区の学校である。
花咲徳栄、浦和学院を筆頭に県内を牽引する強豪私学の壁は高いが、もちろん公立校も黙ってはいない。県内では一時代を築いた上尾が名の知れた存在だが、同じく県北の地から復活を期す学校がある。創立79年目を迎える伝統校・熊谷商だ。
過去には甲子園で幾度か激闘を演じている。70年夏には2回戦で平安(現・龍谷大平安)と両校合わせて40安打の乱打戦の末、13対12で劇的サヨナラ勝利を飾った。81年夏にも下関商と12対11と点の取り合いを制し、平安戦同様にサヨナラ勝ちを収めたこともあった。
熊谷商工時代を含め夏5度、春1度の甲子園出場経験を持つ古豪だが、1985年春を最後に聖地から遠ざかっている。同校野球部出身の人気お笑い芸人・ゴルゴ松本氏が出場した年でもある。さらには県北の地としても本庄第一が出場した2010年夏以降、甲子園に届いていない。自身も熊谷商OBの新井 茂監督は、こうした現状にもどかしさを感じている。
「県北の地としても、また公立校という目で見ても、甲子園から遠ざかっていますし、なんとか諦めないでやっていかなければならないです。チームとしては甲子園に出ていた時代は常に県北大会でも優勝していましたし、そういった部分でもしっかり戦わないといけないと県のチャンピオンにはなれないです」
昨年は春の埼玉大会で中村 謙吾投手(現・国学院大)を擁して39年ぶりにベスト8に入ったが、夏は初戦で完封負けを喫した。秋も北部地区予選で敗れ、立て直しを図った春も県大会初戦で久喜北陽に敗れている。苦戦を強いられているだけに、チーム一丸となって今夏のリベンジに情熱を注いでいる。
「地元から甲子園に出たい」熊商復活のカギを握る熱き主将
△守備練習に励む竹内主将
灼熱の街・熊谷。2018年には気象庁の観測史上最高となる(現在は静岡・浜松と並ぶ)41.1度を記録したことでも知られている。取材に訪れた5月下旬でさえも汗がしたたり落ちるほどの暑さだったが、選手たちは黙々と練習に励んでいた。そんな熊谷市民の応援は人一倍熱く、どこよりも熱気を帯びている。
「電車の中や自転車で帰る生徒、また大会で足を運んでくださる方々など色んな生徒に声をかけてくださいます。学校から一歩出た時に周りの方が声をかけてくださる様子を見ると、私も『伝統校で野球をしているんだ』と感じることがあります」(新井監督)
最後の甲子園出場から40年経った今でも、地元球場の「おふろcafeハレニワスタジアム熊谷(ハレニワ熊谷)」で熊谷商が試合を行えば、スタンドは観客で埋め尽くされる。それだけ野球部が熊谷市民に愛されている証拠である。熱烈なファンの声援に新井監督も「応援して下さる方の中には『死ぬ前にもう一度(甲子園に)連れて行って』といった声もあります。地域の応援も凄いですし、支援をしていただいているので、熊谷市のためにも盛り上げたいです」と感謝を口にしている。
そんな同校で今季主将を務めるのは昨年からチームの主軸を任されていた主砲・竹内 一真内野手(3年)。熊谷商野球部に誰よりも憧れ、強いプライドを持っている熱きキャプテンだ。
「少年野球の指導者が熊商OBで、中学は熊谷シニアでプレーしていました。その中で『地元から甲子園に出たい、地元の人に応援されたい』という思いがありました。恩返しをできるようにと思って熊商を選びました。”KUMASHO”の文字がどこよりも輝いて見えて、それを追いかけながらやってきました。初めてユニフォームを着た時は率直に嬉しかったです。家族に見せた時も『熊商かっこいいね』と言われたことを覚えています」
上級生になった今でも「熊商の『3』を背負う重みと誇りがある」と伝統校の名に恥じぬ活躍を誓っている。
今の3年生は、学校の入試制度が変わった年度だったため、学年全体で入学する生徒も少なかった。その影響もあり、例年20人程度が入部する野球部員も7人と少人数である。新井監督も「今までに経験したことのない少なさ」と話すが、竹下は「自分の学年は人数も少ないですが、強みは一つのチームになれるところです。他の学年以上に壁はなく、7人全員が仲の良いですし、チームが一つにまとまる力を持ってやっていきたいです」と前を向いている。
「夏の熊商」の意地
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