山梨学院vs二松学舎大附
山梨学院がセンバツ出場校対決制す 136キロ右腕がエース負傷降板のピンチ救う
山梨学院 3番手・武藤 大地
<春季関東地区高校野球大会:山梨学院8-4二松学舎大附>◇21日◇2回戦◇宇都宮清原
ともに2022年のセンバツに出場した山梨学院と二松学舎大附(東京)。センバツではともに初戦敗退とはなったものの、全国区の実力を持つ両チームが初戦で激突した。この試合、二松学舎大附を下した山梨学院にとっては価値ある1勝になった。
先発したエース・榎谷礼央投手(3年)は、120キロ台で鋭く沈む自慢の球種であるカットボールで強力・二松学舎大附打線を機能させなかった。ただ、真っすぐが140キロまでマークして7奪三振を記録したが、少し制球に苦しんでいた。さらに5回には右足首付近に打球が直撃。その後、マウンドに上がったが、状態が回復せず、6回で降板した。
7回から2番手・山田悠希投手(3年)が登板するも、状態が悪く1回投げて降板。吉田監督も期待する2本柱を使い、山梨学院としては苦しい事態に陥ったが、そこで結果を残したのが3番手・武藤大地投手(3年)だった。
身長175センチ、体重67キロで手足の長いシルエットが特徴的な武藤は、腕を上手く畳むなど体全身を大きく使って投げ込む。縦回転のフォームから角度のある直球が130キロ前半、大きく曲がるスライダーが110キロ台を計測し、追撃ムードの二松学舎大附打線の勢いを止めることに成功した。
武藤は「自信をつけることができました」と好投できたことで、自身の投球に手ごたえをつかんだ。指揮官の吉田監督も「この試合で一番の収穫でした」と話しつつ、武藤がいなければ、追いつかれていたかもしれないとまで語り、チームのピンチを救ったことは間違いない。
秋の段階では最速132キロを計測していたが、ベンチにも入ることができなかった。横回転の投球フォームで、右打者の方向へ球が抜けてしまうなど、制球に課題を抱えていた。
冬場はトレーニングなどを重ねてきたが、センバツを終えるころに転機を迎える。エース・榎谷の飛躍につながった縦回転の投球フォーム習得のためのドリルを実践し、フォーム改善に取り組んだ。
そのおかげで制球力はもちろん、オリックス・山岡泰輔投手(瀬戸内出身)を参考に中学時代に覚えたという縦のスライダーの切れ味も向上。さらに、直球の最速も136キロまでアップすることに成功した。
またエース・榎谷の存在も大きい。秋、そしてセンバツとエースに頼ってきた山梨学院にとって、2番手以降の投手を整備することは夏を勝ち抜くには必要不可欠だった。武藤をはじめとした投手陣も十分に理解して、「みんなで支えあって、試合を作れるようにしよう」とエースと肩を並べられるように練習を重ねてきた。その成果が、この試合での好投につながった。
3回戦は前橋育英(群馬)が相手となるが、エースの状態は何とも言えない。その中で投手陣が結果を残すことができれば、夏に向けての大きな収穫になることは間違いない。
試合は山梨学院が初回に4番・高橋海翔内野手(2年)のタイムリーで先制すると、4回にも追加点を挙げて3対0で前半を折り返す。6回には、3点を加えて6対1とすると、7回には4番・高橋が、今度はレフトスタンドへ運ぶホームランでダメ押し。8対4で二松学舎大附を下した。
日本代表経験の超大型ルーキーなど、公式戦デビューを果たした二松学舎大附の1年生は驚異的存在
五十嵐将斗
春季関東地区高校野球大会初戦で、二松学舎大附(東京)は山梨学院とのセンバツ出場校対決に敗れた。ただ、東京都大会ではあわやコールド負けというピンチから、都大会準優勝し、関東大会まで勝ち進んだことは、センバツ出場校としてのプライドを示したといっていいだろう。
小林幸男主将は「まだまだ成長できていない」と厳しい評価をすると、市原監督は、「夏に向けて埋まってきた部分と、そうでないところがまだあるので、1か月半でやっていきたい」と、既に夏の大会に目を向けていた。
その夏に向けて期待したい新戦力3人が、関東大会でデビューを飾った。
五十嵐将斗(4番・一塁手)
片井海斗(7番・三塁手)
神谷虎之介(6番・中堅手)
岡部 雄大(2番・遊撃手)
ベンチに4人の1年生が入り、全員が山梨学院戦でスタメンに抜擢された。市原監督は「守備の時は不安を感じながら見ています」と落ち着かない心境でベンチから見守っているようだが、「監督を26年やってきて、ここまで力のある選手が揃ったのは初めてです」と言わしめるだけのポテンシャルがある証拠だろう。
主将である小林も「今年の1年生は驚異的な存在です」と危機感を募らせていた。競争意識も必然的に急上昇。夏に向けては良い環境になりつつあるようだ。
期待の4選手の中でも4番に起用された五十嵐は、小学生の時にリトルリーグの日本代表に選出された。中学通算も20本塁打をマークして、シニア日本代表にも召集された。期待値は当然大きくなる。
180センチ、105キロと、背番号5が小さく見えるほどの恵まれた体格で打席に立つと、ややオープンスタンス気味で構える。しっかりと投手が見えるような立ち方から、右肩を上げるような形でテークバックを取ってタイミングを測る。同時に足を少し上げて軸足に体重を乗せてから、バットを振り出していく。
大きいスイングが印象的で、ジャストミートできれば長打が飛ばせる打撃フォームだが、山梨学院・榎谷礼央投手(3年)のカットボールや高めの真っすぐに手が出てしまうことがあり、見極めの部分には課題を残した。ポテンシャルが高いのは間違いないが、実戦を通じて学ぶべきことは多い。
五十嵐のみならず、4人とも山梨学院投手陣の前にヒットを放つことができず、ほろ苦い公式戦デビューに終わった。しかし、4人の高校野球は始まったばかり。いつの日か、この経験が生かされ、チームを代表する主力選手に成長するに違いない。
(記事:田中 裕毅)