試合レポート

拓大紅陵vs市原中央

2021.10.02

拓大紅陵vs市原中央 | 高校野球ドットコムこの試合のプレー写真は、記事の最終ページの下部に表示されています

魅惑の191センチの高校生サブマリン、準決勝敗退も 千葉ロッテで活躍した指揮官も絶賛

拓大紅陵vs市原中央 | 高校野球ドットコム
先発・松平快聖(市原中央)

 密かに注目を浴びていた逸材は日増しに注目度が高まっている。

 それが市原中央の191センチのサブマリン・松平 快聖だ。
 3試合で19回を投げて、19奪三振、3失点、防御率1.89と抜群の安定感を誇る。対する拓大紅陵は、好投手・伊東 賢生千葉黎明)を攻略して勝ち上がっており、チーム打率は準々決勝を終えて.353とその打線の実力は県内随一だ。そんな相手にも快投を見せた。

 191センチ83キロと恵まれた体格を誇る松平。この試合で初めて松平の存在について覚えた方に説明すると、これほど体躯を持つ松平がアンダースローとなったのは、市原シニア時代のこと。オーバーでは制球が定まらず、腰が横回転気味だったこと、チームに変則投手がいない事情から現在の投法となった。

 では実際に投球はどうなのか。アンダースローのため球速は下がるが、それでもストレートは120キロ〜126キロを計測。最速130キロという触れ込みだが、前評判通りのストレートを投げ込んでくれた。

 高校生の右下手としてはかなり速く、だいたい110キロ〜115キロで、よくて120キロ。常時120キロ中盤を叩き出すサブマリンはあまりいない。体感速度的には140キロ前後はありそうで、拓大紅陵の打者がことごとく差し込まれているのだ。拓大紅陵の3番・中村 瑠斗は「本当に伸びていきます。あと190センチなのに、あんな低いところからリリースされるので、本当に打ちにくいです」

 松平はいかにコーナーで勝負するか求める。右打者へ外角いっぱいにストレート、100キロ台のスライダーを投げる。これがギリギリに決まるのだ。さらに中村はこう続ける。
 「外角ギリギリに決まるのですが、遠く感じるのでバットがなかなか出てこないんです…」

 さらにストレートを速く見せているのは80キロ〜90キロ台のカーブ。これが厄介で、鋭角な曲がりを見せるわけではないのだが、少し浮きながら曲がっていく。これが想像以上に打ちにくい。打者が想像できにくい、対応しにくい軌道なのだ。近年、プロ野球の投手が抜け気味のカットボール、スライダーを使って三振を奪う「抜けカット」と同じ使い方だと思っていいだろう。


 初回も満塁のピンチを連続三振に奪い、切り抜ける。松平自身、変化球の使い分けについてこう語る。
 「自分は変化球を投げるときに、下から上に浮き上がるような軌道で投げることをイメージしています。抜けたように見えますが、自分として意図通りの軌道です」

 2回裏、市原中央は相手のエラーから1点を先制。その後も松平は快調な投球。フルスイングを許さない。対戦相手の拓大紅陵の和田 孝志監督は元千葉ロッテの投手として活躍していたが、「松平くんは本当に素晴らしい投手。190センチのサブマリンはなかなかいないですし、どのステップに進むかはわかりませんが、プロを狙える投手だと思います」と高く評価する。松平の素晴らしさを知っているからこそ、「完封負けを覚悟しました。練習試合もやっていますが、打てなかったですから。やはり良い投手でした」

 7回まで8奪三振の快投を見せていたが、拓大紅陵がついにチャンスを作る。8回、四球、バント安打で無死一、二塁のチャンスを作り、一死二、三塁とチャンスを広げ、ここで拓大紅陵は3番・中村 瑠斗を迎え。中村は左中間へ鋭い打球を放ち、レフト、センターともに捕球できず、外野へ抜け、中継プレーがもたつく間に中村も生還。記録はランニングホームランとなり、土壇場でひっくり返された。

 1対3で破れ、191センチのサブマリンの快進撃は準決勝で止まった。松平は「終盤にミスからピンチを作り、コントロールが甘くなってしまいました」と悔やんだが、それでも強打の拓大紅陵相手に9回、3失点、9奪三振は文句なしの内容だった。

 冬へ向けて松平は「ストレートはアベレージで120キロ後半にして、そして、最速は137キロ、8キロ。そして変化球にも磨きをかけていきたいです」

 松平が目指す投手像が具現化出来た時、高校生レベルでは打ち崩せない投手になるのではないか? 右オーバーの速球派にひけをとらないぐらいの特異の球質、変化球を持っているので、ぜひその道を極めてほしい。


 拓大紅陵は2年ぶりの関東大会出場となった。これで17年、19年、21年と直近の奇数年は関東大会出場という安定感の高い戦いぶりを見せている。

 ただ新チームでは、練習試合5連敗もあり、かなりスタートは苦労した。一次予選では市立船橋に4対3で敗れ、敗者復活戦に臨むと、いきなり中央学院と対戦し、4対1で競り勝って、一戦ずつ力をつけてきた。

 投打ともに実力が高いチームに感じるが、和田監督からは守備、打撃ともに力不足と現状を語る。

実際にノックを見ると、まだ完成度が低いように感じる。悪くないが、送球の強さなどはこれからのように見えた。和田監督は対戦相手の市原中央のノックを見て、選手に伝えたことはカットマンまで鋭いボールを投げていることについて。

「投げる距離は短いのですが、しっかりとカットマンに投げているんです。こういった基本動作を市原中央さんはしっかりとやられていた。そこにうちとの差を感じたんです」

 市原中央松平快聖相手に守備のミスからの失点は命取り。しかし新チームがスタートして2ヶ月ほど。まだ盤石とも言えない守備力に不安要素はあった。その不安が的中する形となり、2回裏に2つのミスから先制を許す。和田監督は「完封負け」を覚悟したという。

 点が取れそうもない好投手相手にこの失点の仕方は重くのしかかり、走者を出しても要所を締める松平の投球の前に1点も挙げられなかったが、ついにチャンスは8回表に訪れる。

 先頭打者に四球。さらにバントヒットの形で無死一、二塁のチャンスを作る。ここで拓大紅陵の2番・薬師神将哉がしっかりとバントを決め、一死二、三塁。ここで頼みの3番・中村瑠斗が打席に立つ。和田監督は2番薬師寺のバントを評価した。

「完封負けの試合展開で、勝利を持ち込めたのはこのプレーが大きかったです。もし三塁封殺でしたら、完封負けだったかもしれません。中村はうちの打線の中で技術も高く犠牲フライも期待できる打者でした」

 中村は期待通り、左中間へ鋭いあたりを放ち、逆転を呼び込むランニングホームランとなった。

 拓大紅陵のエース・小堺心温は120キロ後半〜130キロ前半の直球、スライダー、カーブを投げ分けて打たせて取る。夏の八千代松陰戦では「力いっぱいに投げてしまい打ち込まれたので、そこからコーナーへ、スピンがかかった直球を投げて打たせて取ることを心がけました」と言葉通り、小堺の投球は余計な力みが抜け、打者を打ち取ることに集中できている。突出とした速球を投げるわけではないが、勝つ投球ができるようになった。和田監督もエースの投球を高く評価しており、ここまでの勝ち上がりは小堺の投球なしではなし得なかったと考えている。

 決勝は同地区の強豪・木更津総合と対戦する。
「千葉の王者ともいえる木更津総合さん。とにかくぶつかっていて、勉強をしていきたい。どんなスコアになっても、そこで得たことを糧にして成長していきたいですね」
 決勝戦へ向けての意気込みを語った。この試合出た課題も成長の糧として全力で木更津総合にぶつかっていく。

(記事=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.04.30

【春季栃木県大会】夏への布石が着々と成果を挙げた! 文星芸大附が堅い守備で完封勝利!ドラフト候補・堀江は最速146キロをマーク

2024.04.30

大阪大などに卒業生を輩出する進学校・三国丘  文武両道を地で行く公立校は打倒・強豪私学へ「何かしてやりたい」

2024.04.30

【北海道】昨秋優勝の旭川実と春季連覇中の旭川明成が初戦で激突!<春季全道大会支部予選組み合わせ>

2024.04.30

【岩手】宮古、高田、久慈、久慈東が県大会出場へ<春季地区予選>

2024.04.30

【春季愛知県大会】享栄がまとまりの良さを見せて、豊川に完封勝利で決勝進出

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.26

今週末に慶應vs.横浜など好カード目白押し!春季神奈川大会準々決勝 「絶対見逃せない注目選手たち」!

2024.04.26

古豪・仙台商が41年ぶりの聖地目指す! 「仙台育英撃破」を見て入部した”黄金世代”が最上級生に【野球部訪問】

2024.04.28

【広島】広陵、崇徳、尾道、山陽などが8強入りし夏のシード獲得、広島商は夏ノーシード<春季県大会>

2024.04.28

【岡山】関西が創志学園に0封勝ちして4強入り<春季県大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける