試合レポート

智辯和歌山vs近江

2021.08.28

智辯和歌山エース中西が併殺にも助けられ完投、近江は黄金期到来を予感

智辯和歌山vs近江 | 高校野球ドットコム
中西 聖輝(智辯和歌山)

◆序盤で山田陽翔を攻略できるか

 19年ぶりの決勝戦を目指す智弁和歌山。20年ぶりの決勝を狙う近江。この一戦でポイントとして考えたかったのは、序盤の攻防だ。

 近江の先発は、ここまで全試合に登板している山田 陽翔だった。ここまで近江は山田ー岩佐 直哉の必勝パターンで勝ち上がっているが、基本路線は7回からの継投が多い。智弁和歌山としては、そのタイミングを早められるような試合展開に持ち込めると、優位に進められることが考えられる。

 一方で山田はこれまで通り粘りの投球で中盤までリードしている状態で岩佐へバトンタッチ。これまで通りの投球で20年ぶりの決勝への道を切り開きたいところだ。

◆勝負を分けた5回の攻防

 試合は初回、智弁和歌山が3番・角井 翔一朗と5番・岡西 佑弥のタイムリーで智弁和歌山が2点を先取したところから始まる。

 初回から2点のリードをもらった先発・中西 聖輝は、3回に二死一、三塁で3番・山田にタイムリーを許して1点を失った。だがこの日も、ストレートを中心に変化球でもカウントを取っていくテンポいい投球で、近江打線からアウトを重ねていく。

 援護をしたい打線だが、2回以降も毎回ランナーを出しながら近江・山田の前にホームを踏ませてもらえなかった。しかし、5回には先頭の宮坂 厚希のヒットや相手のエラーなどで一死満塁を作った。

 ここで中押しをして、試合の主導権を完全につかみたかったが、5番・岡西 佑弥は三振。続く6番・渡部 海はファーストファールフライ。近江・山田の気迫あふれる投球の前に、満塁のチャンスを活かしきれなかった。

 すると直後の守備で、一死から近江1番・井口 遥希にレフト前を許す。2番・西山 嵐大は迷わずバントの構え。近江得意のバントで3番・山田に得点圏で回されそうになる。だが、ここでキャッチャー・渡部が素早くバントを処理して併殺で切り抜けた。

 勢いに乗った智弁和歌山は6回に2番・大仲 勝海のタイムリー。さらに8回に相手バッテリーのミスで5対1とした智辯和歌山近江を下して決勝へ進出した。


◆一瞬のプレーに見えた智弁和歌山の強さ

 戦前に考えられていた序盤勝負は、智弁和歌山が初回から2点を奪って試合の主導権を握り、終始リードをしたまま試合展開をできたことが大きかった。その中でターニングポイントになったのは、5回の攻防だ。

 智弁和歌山は5回に一死満塁と、絶好のチャンスだった。しかし、近江の山田の前に無得点と嫌な流れがチームには流れた。

 直後の守備でも一死から1番・井口にヒットを許すなど、少しずつ流れが近江に傾きつつある状況で、この試合最大の山場だった。

 中西はここで135キロの真っすぐを外角へ投じると、打球は勢いなくキャッチャー前に転がった。これを渡部が素早く処理し、二塁へ正確にスローイングをしてゲッツーを成立させた。

 何気ない投内連携だったが、渡部の送球の正確さ、ショート・大西 拓磨の握り替えの速さ。そしてファースト・岡西のベースへの戻りの速さなど、正確かつ滑らかにプレーを完結させた。どのチームでも練習で取り組む内容だが、これをきちんと出来るチームほどやはり強い。

 一瞬のプレーだったが、この連携がピンチになりつつあった雰囲気から、一転してチャンスへ繋ぎ、智弁和歌山の19年ぶりの決勝進出を後押しした。

◆指揮官もエースも称賛の声を送る

 「渡部がしっかりと備えていたからだと思います」

 指揮官の中谷監督も正捕手の好プレーに称賛の声を送った。

 また、エース・中西も5回のダブルプレーで大きく変わったことを感じていた。
 「渡部は本当に成長しましたし、信頼している捕手です。その渡部が併殺に抑えてくれたので、自分の中でもいい流れが来たと思います」

 中西は追加点を奪った直後の守備で、二者連続三振を奪うなど三人で抑える好投を見せた。2年生の渡部であるが、二塁送球はこの試合で2.02秒を計測するなど、キャッチャーとしての能力は一定以上あるといっていい。

 来年も楽しみではあるが、まずは明日の決勝戦。智弁和歌山の扇の要が投手陣含め、守備を引っ張り、優勝に導けるか注目したい。


◆先輩の思い背負い、日本一誓う

 近江は準決勝まで快進撃を続けてきたが、智弁和歌山の前に力が及ばなかった。「初回、そして6回に2点を失ったことが重たかったです」と多賀監督は準決勝を振り返った。

 実は、エース・岩佐は準々決勝での激闘を終えて肘の炎症が発覚し、投げられる状態ではなかったという。そのため、この一戦は「山田に託した」という思いで2年生右腕をマウンドに送っていた。

 その山田の5回の投球を多賀監督は最大限の称賛をした。
 「5回の一死満塁は、今年のチームを凝縮したような投球で意地を見せてくれました。あれを見て、『これはいける』と思わせてくれました。ベンチで見ていて感動しましたし、震えました」

 その山田が試合後に涙した時には「借りを返すのは甲子園しかないんや」と前を向けるような声をかけたという。その声を聞いた山田は、「チームを勢いに乗れるような打撃、ピッチングをして、先輩たちの思いを背負って優勝したいです」と真っすぐな目で、次の選抜での優勝を考えていた。

◆黄金時代再来となるか

 今年の近江は、春季県大会3回戦敗退という悔しい負けから、夏は1回戦から激闘を勝ち抜き甲子園に出場。そして大阪桐蔭盛岡大附神戸国際大附と強敵たちを次々に倒しての、20年ぶりの準決勝だった。

 そんな大躍進の中心となった3年生たちに「どん底から這い上がった底力が甲子園での4勝に繋がったと思います。選手たちには感謝の気持ちです」と改めてねぎらいの言葉を贈った。

 先輩たちの春からの成長を見てきた後輩たちが、これを新チームにどうやって生かしていくのか。近江の黄金時代が再び築かれるかどうかは、これからの戦いにかかっている。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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