智辯和歌山vs近江
智辯和歌山エース中西が併殺にも助けられ完投、近江は黄金期到来を予感
中西 聖輝(智辯和歌山)
◆序盤で山田陽翔を攻略できるか
19年ぶりの決勝戦を目指す智弁和歌山。20年ぶりの決勝を狙う近江。この一戦でポイントとして考えたかったのは、序盤の攻防だ。
近江の先発は、ここまで全試合に登板している山田 陽翔だった。ここまで近江は山田ー岩佐 直哉の必勝パターンで勝ち上がっているが、基本路線は7回からの継投が多い。智弁和歌山としては、そのタイミングを早められるような試合展開に持ち込めると、優位に進められることが考えられる。
一方で山田はこれまで通り粘りの投球で中盤までリードしている状態で岩佐へバトンタッチ。これまで通りの投球で20年ぶりの決勝への道を切り開きたいところだ。
◆勝負を分けた5回の攻防
試合は初回、智弁和歌山が3番・角井 翔一朗と5番・岡西 佑弥のタイムリーで智弁和歌山が2点を先取したところから始まる。
初回から2点のリードをもらった先発・中西 聖輝は、3回に二死一、三塁で3番・山田にタイムリーを許して1点を失った。だがこの日も、ストレートを中心に変化球でもカウントを取っていくテンポいい投球で、近江打線からアウトを重ねていく。
援護をしたい打線だが、2回以降も毎回ランナーを出しながら近江・山田の前にホームを踏ませてもらえなかった。しかし、5回には先頭の宮坂 厚希のヒットや相手のエラーなどで一死満塁を作った。
ここで中押しをして、試合の主導権を完全につかみたかったが、5番・岡西 佑弥は三振。続く6番・渡部 海はファーストファールフライ。近江・山田の気迫あふれる投球の前に、満塁のチャンスを活かしきれなかった。
すると直後の守備で、一死から近江1番・井口 遥希にレフト前を許す。2番・西山 嵐大は迷わずバントの構え。近江得意のバントで3番・山田に得点圏で回されそうになる。だが、ここでキャッチャー・渡部が素早くバントを処理して併殺で切り抜けた。
勢いに乗った智弁和歌山は6回に2番・大仲 勝海のタイムリー。さらに8回に相手バッテリーのミスで5対1とした智辯和歌山が近江を下して決勝へ進出した。
◆一瞬のプレーに見えた智弁和歌山の強さ
戦前に考えられていた序盤勝負は、智弁和歌山が初回から2点を奪って試合の主導権を握り、終始リードをしたまま試合展開をできたことが大きかった。その中でターニングポイントになったのは、5回の攻防だ。
智弁和歌山は5回に一死満塁と、絶好のチャンスだった。しかし、近江の山田の前に無得点と嫌な流れがチームには流れた。
直後の守備でも一死から1番・井口にヒットを許すなど、少しずつ流れが近江に傾きつつある状況で、この試合最大の山場だった。
中西はここで135キロの真っすぐを外角へ投じると、打球は勢いなくキャッチャー前に転がった。これを渡部が素早く処理し、二塁へ正確にスローイングをしてゲッツーを成立させた。
何気ない投内連携だったが、渡部の送球の正確さ、ショート・大西 拓磨の握り替えの速さ。そしてファースト・岡西のベースへの戻りの速さなど、正確かつ滑らかにプレーを完結させた。どのチームでも練習で取り組む内容だが、これをきちんと出来るチームほどやはり強い。
一瞬のプレーだったが、この連携がピンチになりつつあった雰囲気から、一転してチャンスへ繋ぎ、智弁和歌山の19年ぶりの決勝進出を後押しした。
◆指揮官もエースも称賛の声を送る
「渡部がしっかりと備えていたからだと思います」
指揮官の中谷監督も正捕手の好プレーに称賛の声を送った。
また、エース・中西も5回のダブルプレーで大きく変わったことを感じていた。
「渡部は本当に成長しましたし、信頼している捕手です。その渡部が併殺に抑えてくれたので、自分の中でもいい流れが来たと思います」
中西は追加点を奪った直後の守備で、二者連続三振を奪うなど三人で抑える好投を見せた。2年生の渡部であるが、二塁送球はこの試合で2.02秒を計測するなど、キャッチャーとしての能力は一定以上あるといっていい。
来年も楽しみではあるが、まずは明日の決勝戦。智弁和歌山の扇の要が投手陣含め、守備を引っ張り、優勝に導けるか注目したい。
◆先輩の思い背負い、日本一誓う
近江は準決勝まで快進撃を続けてきたが、智弁和歌山の前に力が及ばなかった。「初回、そして6回に2点を失ったことが重たかったです」と多賀監督は準決勝を振り返った。
実は、エース・岩佐は準々決勝での激闘を終えて肘の炎症が発覚し、投げられる状態ではなかったという。そのため、この一戦は「山田に託した」という思いで2年生右腕をマウンドに送っていた。
その山田の5回の投球を多賀監督は最大限の称賛をした。
「5回の一死満塁は、今年のチームを凝縮したような投球で意地を見せてくれました。あれを見て、『これはいける』と思わせてくれました。ベンチで見ていて感動しましたし、震えました」
その山田が試合後に涙した時には「借りを返すのは甲子園しかないんや」と前を向けるような声をかけたという。その声を聞いた山田は、「チームを勢いに乗れるような打撃、ピッチングをして、先輩たちの思いを背負って優勝したいです」と真っすぐな目で、次の選抜での優勝を考えていた。
◆黄金時代再来となるか
今年の近江は、春季県大会3回戦敗退という悔しい負けから、夏は1回戦から激闘を勝ち抜き甲子園に出場。そして大阪桐蔭、盛岡大附、神戸国際大附と強敵たちを次々に倒しての、20年ぶりの準決勝だった。
そんな大躍進の中心となった3年生たちに「どん底から這い上がった底力が甲子園での4勝に繋がったと思います。選手たちには感謝の気持ちです」と改めてねぎらいの言葉を贈った。
先輩たちの春からの成長を見てきた後輩たちが、これを新チームにどうやって生かしていくのか。近江の黄金時代が再び築かれるかどうかは、これからの戦いにかかっている。
(記事:田中 裕毅)