都立片倉vs淑徳巣鴨
足も絡めながら、持ち前の破壊力を発揮した都立片倉が都大会へ
マウンドに集まる片倉ナイン
西東京でも屈指の実力を持つ都立片倉。旧チームはスラッガー・柳本康希を擁して西東京大会4回戦まで勝ち進んだ。そして新チームが都大会進出をかけて淑徳巣鴨と激突した。
グランドコンディションの関係でサイドノックとなってしまったが、野手それぞれの動きは機敏で肩も強い。また試合中でも、難しい態勢から肩の強さを生かしてランニングスローでアウトを演出する。身体を切り返してもしっかり投げられるボディーバランスも併せ持つ、選手たちのポテンシャルは都内でも屈指だろう。
その都立片倉、守備より驚いたのは攻撃面の方だ。
初回、1番・根津が差し込まれながらも押し込んでレフトへ二塁打。送りバントで得点圏に運び、3番・松永のレフト前で先制。絵にかいたような理想的な攻撃で先取点を奪うと、続く2回、3回にも1点ずつ奪い主導権を奪った。
ここで1つ取り上げたいのが2点目のシーン。7番・小林のレフト前と8番・矢口のエンドランの成功で無死一、三塁から9番・大西はセカンドゴロ。ここで淑徳巣鴨がゲッツーを選択するのを見てから、三塁ランナー・小林は本塁へ突入。結果的に相手のミスで点数を奪ったが、公式戦で冷静に判断してスタートを切れた点は、しっかりと反復練習を重ねて試合に向けて準備してきたのではないかと想像できた。
他にもディレードスチールを試みたりと、細かな部分をこの時期にしっかり詰めてこれるところは、チームとしてある程度基礎的な部分ができているからこそ。こうしたところから、都立片倉がチームとして土台をしっかり作り、チームとして仕上げてきたことを確信できた。
宮本監督も走塁に関しては「夏休み中にスタートの切り方や、打球判断など細かなところをしっかりやってきました」と自信を持っている部分。今年の都立片倉は足でも要注意といったところだ。
さらに打者のスイングが鋭く強い。なかでも2本のヒットをそれぞれ放った3番・松永と4番・清水の中軸コンビは要注意だろう。
3番・松永は胸のあたりでバットを回すようにタイミングを計りつつ、ピッチャーが重心移動を始めたと同時にバットを耳元まで上げてトップを作る。足はそこまで上げずに巻き込むようにして軸足にタメを作って、軸を崩すことなく鋭くバットを振り抜く。ここまで通算4本塁打だそうだが、好調な要因は先輩・柳本の存在が大きかった。
「元々テイクバックの取り方には課題があって、色々模索していたのですが、柳本さんとティーバッティングとかやりながら参考にしました」
旧チームまでは肩を入れないようにしたが、新チームになってからは肩を入れるようにテイクバックをとり間を作った。さらに柳本のテイクバックを参考にしたことで、リラックスした状態でボールを迎えられるようになっただけではなく、タメができるようになった。その結果タイミングを外されても押っ付けるバッティングができるようになった。
またサードの守備では、旧チームの捕手ではあったが、遠投100メートルを超える強肩ぶりを見せつけており、攻守でチームを牽引する中心選手だ。
4番・清水は生粋のスラッガーのスイングを見せる
そして4番・清水はまさにスラッガータイプの選手。高校通算20本塁打を超えるスラッガーは一切の迷いのなく、大きなフォローを取る思い切りのいいスイング。対峙するバッテリーにとっては鋭いスイングに恐怖を感じるだろう。
その清水は先に自分からタイミングを取って、ピッチャーを待ち構える。足を小さく上げて、上半身の仕掛けも最低限にとどめて無駄が少ない。そこからポイントまで引き寄せてバットをかち上げるように振り抜く。8回に二塁打を放ったときもドライブ回転がかかっていたが、もしかかっていなければと思うような打球を飛ばしていた。ただ、まだミート率が低いのは課題ではないだろうか。
そんな強力打線に3点リードをもらった都立片倉の先発はエース・大西。体の線はまだ細いが、足をゆったり上げつつ右腕を使って壁を作り、開きを抑えた投球フォーム。着地をすると低く沈み込んでしっかり下半身を使い、ボールを引っ搔くように左腕を振り抜く。
ストレートや縦のカーブ、タイミングを外すチェンジアップと、横幅と奥行きを使って打たせて取る投球が信条となっている。ただ、下半身の踏ん張りが鍵となる分、踏み出す右足の膝が時々割れてしまい力が逃げてしまっているのは、今後の改善点であり、伸びしろだと考える。
その大西は淑徳巣鴨に中盤以降、ランナーを背負うことが増えてきたが、低めにボールを集める丁寧な投球。こういった投手の攻略方法は逆方向を意識で、甘く入ったボールを引っ張ること。だが、それを許さない大西の落ち着いたピッチング。宮本監督も、「これまで強打者相手に何だかんだ抑えてきたんです」と粘り強さこそが大西らしさであることを話してくれた。
8回に淑徳巣鴨に2点返されるも、4対2で都立片倉が都大会の切符を掴んだ。
新チームになり、走塁に力を入れて練習を重ねてきた都立片倉。その成果が遺憾なく発揮されたが、ただやるのではなく「練習中は選手同士がしっかり考えて取り組んできた」と松永は語る。ポテンシャルだけではなく、思考も伴った都立片倉が都大会でどんな野球を見せてくれるのか、注目だ。
(文=田中 裕毅)