試合レポート

大宮東vs上尾

2019.07.24

1球の大切さ、難しさ、そして野球の怖さ

 “野球は9回二死から“、”1球の怖さ “使い古された言葉であるが、それを改めて痛感させられる試合となった。

 エース左腕の寺山大智(3年)を中心とし、打線も勝負強いDシード・上尾対主砲・島村大樹(3年)の満塁本塁打2発などでCシード・埼玉栄との打撃戦を制し勢いに乗るノーシード大宮東との一戦、上尾はこの日5番に上野竣平(2年)、6番に佐藤弘教(2年)が入る。

 先発は上尾がエース左腕の寺山、一方の大宮東はエース島村ではなく、背番号11の右腕・杉山拓己(3年)が登板し試合が始まる。

 試合は初回から動く。

 上尾は初回、杉山の立ち上がりを攻め、先頭の二階堂北斗(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁する。続く須川善樹(3年)の犠打は失敗に終わるが、3番・泉大地(3年)の所で上尾ベンチはエンドランを仕掛ける。泉は期待に応え、ライト前ヒットを放ち一死一、三塁とチャンスを広げると、続く小林陸人(3年)のカウントがフルカウントとなった所で、今度は一塁走者とのエンドランを仕掛ける。ここで小林も期待に応えセンター前タイムリーを放ち、1点を先制し、さらに一死一、三塁とチャンスは続く。6番・上野もレフト前タイムリーで続くなど上尾が見事な速攻を見せ、幸先良く2点を先制する。

 上尾・寺山が見事な立ち上がりを見せたのに対し、杉山は2回以降も苦しい投球が続く。

 2回表、上尾はこの回先頭の大澤俊輔(3年)がセカンドゴロエラーで出塁すると、続く進藤舜司(3年)に犠打を決められ一死二塁とされる。さらに、1番・二階堂に四球を与え一死一、二塁となった所で、大宮東ベンチは早くも先発・杉山を諦め、左腕・澤田凌太郎(3年)へスイッチする。澤田は期待に応え、続く須川を併殺に打ち取り追加点を与えない。

 上尾は3回表にも、この回先頭の泉が死球で出塁すると、続く小林がきっちりと送り一死二塁とする。二死後、6番・佐藤も四球を選び、二死一、二塁とチャンスを広げると、続く寺山がレフト前ヒットを放つ。だがここは、レフトの好返球で二走・泉が本塁憤死し追加点を奪えない。

大宮東

 さらに、上尾は4回表、この回先頭の大澤俊が死球で出塁。その後、9番・進藤がきっちりと送り一死二塁とするが、後続が倒れ無得点に終わる。

 大宮東・澤田はその後も持ち味である緩急で、上尾打線をノラリクラリとかわし追加点を許さない。

 一方、上尾・寺山は初回から右打者の外角へのツーシームと、内角への曲がりの大きなスライダーにカーブ、チェンジアップを交える。このコンビネーションが冴えわたり、強打の大宮東打線を完全に抑え込む。

 大宮東初めてチャンスは6回裏であった。


 二死から1番・佐藤亮太(2年)がこの試合初安打となるセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く増田晟也(2年)もショートへの内野安打を放ち二死一、二塁とチャンスを広げるが後続が倒れ無得点に終わる。

 なお、大宮東は6回裏に代打を送ったこともあり、7回表から満を持してエース島村がマウンドへ上がる。

 上尾は島村の立ち上がりを攻め、この回先頭の進藤がレフト前ヒットを放つが、牽制で刺されてしまう。それでも続く二階堂がセンター前ヒットを放ち再度チャンスメイクすると、2番・須川がきっちりと送り二死二塁とする。だが、後続が倒れ上尾もなかなか追加点を奪えない。

 一方の上尾・寺山はその後もきっちりと大宮東打線を封じ、試合は2対0のまま最終回を迎える。

 このままでは終われない大宮東は9回裏、一死から代打・大久保篤(3年)がセンター前ヒットを放ち出塁するが、続く小河原はサードゴロに倒れ二死となり、5番・島村を迎える。島村もカウントで追い込まれ、万事休すかと思われた。だがここで配球ミスが生まれる。強気のバッテリーはインコースへツーシーム系のボールを選択するが、これが甘く入る。島村はこのボールを見逃さずフルスイングすると、打球は右中間へのタイムリー二塁打となり1点を返す。

 なお、二死二塁の場面で上尾ベンチが動く。センターに藤原良太(3年)を守備固めで入れるとこの采配がピタリと当たる。

 息を吹き返した大宮東は続く尾島翔也(3年)もセンター前ヒットを放つ。二走・島村は当然本塁を狙うがセンターからストライク返球が返ってくる。だが、バウンドがハーフバウンドであり、タイミングは微妙であったが、この返球をキャッチャーは後ろに逸らしてしまう。ついに大宮東が2対2の同点に追いつき、エース寺山をマウンドから引きずり降ろす。

 こうなると、もう圧倒的に裏攻めが有利である。大宮東はさらに代わった2番手・松山幸之樹(3年)を攻めたて、二死二塁から7番・鈴木琉がレフト前ヒットを放ち二死一、三塁とチャンスを広げる。最後は途中出場の小関駿介(3年)がセカンドベースに当たるサヨナラタイムリーを放つ。結局大宮東は9回二死から4連打を放ち、3対2と劇的な逆転サヨナラで上尾に勝利しベスト8へ駒を進めた。

 まず大宮東だが、敗戦濃厚の中誰一人諦めていなかった。球に逆らわず、徹底したセンター返しを最後の最後に見せた驚異の粘りは称賛に値する。これ以上失点できない中、流れを止めた2番手・澤田のピッチングも見事であった。そして、サヨナラのきっかけを作ったのはやはり島村のバットであった。一回死んだ状況からのこの勝ち方は勢いに乗れるであろう。最高の状態でベスト8を戦うこととなるが、相手は同じくAシード・浦和実業を破り、勢いに乗っている市立川越との対戦だ。どちらの勢いが本物か好勝負は必至である。

 一方、あと1球の状況からよもやの大逆転負けを喫した上尾だが、その予兆はあった。4回戦の狭山ヶ丘戦ででも8回突如寺山が乱れ、6対1と楽勝ムードから一転4失点を喫し1点差に追い上げられている。その時は、寺山が後続を切り、9回は松山が抑え事なきを得たが、寺山は一旦乱れるとなかなか立て直せない所がある。この日は寺山が良かっただけに、継投タイミングは非常に難しかった。同点まで待つのも悪くない判断だったと言える。だが今回は頼みの松山も勢いを止められなかった。

 とにかく、島村の所での配球ミスが悔やまれる。この日島村は外角の変化球にタイミングが合っていなかった。とはいえ、前の試合満塁本塁打2本を打っている強打者である。外角の変化球を選んでいれば大怪我はしなかったであろう。同点のランナーとなってしまうが、続く尾島もこの試合タイミングが合っていなかっただけに、最悪歩かせてしまってもいいぐらいバッテリーに慎重さがあれば、おそらく、この結果は生まれなかったであろう。確かに受けに回った後はそんな余裕もなかったであろうが、その後何度も一塁が空いている状況がありながら、やや投げ急いでしまった印象を受ける。まさに痛恨の敗戦である。

 とにかく、1球の大切さ、難しさ、そして野球の怖さを改めて痛感させられる試合となった。

(文=南 英博

2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会
■開催期間:2019年7月10~7月28日(予定)
■組み合わせ表【2019年 第101回全国高等学校野球選手権大会埼玉大会】
■展望コラム【今年の埼玉は大混戦!シード校の戦力とシードを脅かすノーシードを徹底紹介!】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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