川越東vs市立川越
ピンチを救った2年生
勝つのは強力な打撃を売りにして勝ち上がってきた川越東の矛か、それとも堅固な守備力と太賀龍丈(3年)、和田光(2年)の左右二枚看板の強力な投手力を売りに勝ち上がってきた市立川越の盾か。当然だがハイスコアなら川越東に、ロースコアなら市立川越に分があるということである。
Cシード・市立川越対川越東の一戦、つまり川越ダービーがベスト8で実現した。春や秋などは良く当たっているのだが、私の記憶が確かならば意外にも夏の両者の対戦は20年前の第80回記念大会西埼玉大会準決勝での対戦以来となる。
川越東は前の試合に続きエース小笠原海大(3年)、一方の市立川越はエース太賀ではなく、昨秋強打の浦和学院打線を完封したことが記憶に新しい2年生左腕・和田の先発で試合が始まる。
ゲーム序盤はやや静かな立ち上がりだった。つまり総じて市立川越ペースであったということだ。
まず初回市立川越・和田の立ち上がりを攻め、先頭の山本修平(3年)がセカンドゴロエラーで出塁すると、続く高波寛生(3年)が犠打を狙うがサードに二塁封殺される。それでも3番・浪江がセンター前ヒットを放ち再度一死一、二塁とチャンスメイクするが、後続が相手セカンドの攻守に阻まれるなど無得点に終わる。
市立川越も2回裏、この回先頭の原田洸斗(2年)がセンター前ヒットを放ち出塁すると、続く瀬良潤平(2年)の所でベンチがエンドランを仕掛ける。結果はピッチャーゴロとなるが走者を進め一死二塁とすると、ここで6番・島田悠椰(3年)がライト前ヒットを放つ。二走・原田がホームを突くが、ライト吉藤のストライク返球によりアウトとなるなど後続も倒れこちらも無得点で終わる。
先制したのは市立川越であった。3回裏、この回先頭の太賀がライト前ヒットを放ち出塁すると、続く岡本直希(3年)がきっちりと送り一死二塁とする。さらに、1番・羽田飛翔(3年)がライト前ヒットを放ち一死一、三塁とチャンスを広げると、続く小菅亮(3年)がセーフティースクイズを決め市立川越が1点を先制する。
だが、中盤を迎え川越東打線が和田を捉え始める。4回表、一死から7番・吉藤夢来(3年)がレフトフェンス直撃の二塁打を放ち出塁すると、続く中島優作(2年)もセンター越え二塁打を放ちまず同点、二死後、1番・山本がライト越えタイムリー三塁打を放ち一気に2対1と逆転に成功する。さらに続く高波が死球を選び二死一、三塁とチャンスを広げると、ここでクラッチヒッター3番・浪江麟太郎(2年)がセンター前タイムリーを放ち2点差をつける。
一度火の付いた川越東打線は止まらない。
5回表、この回先頭の加藤が死球で出塁すると、続く吉藤がレフト線へ二塁打を放ち無死二、三塁とする。ここで8番・中島が犠飛を放ち1点を追加すると、さらに二死後1番・山本がライト線へタイムリー二塁打を放ち5対1とする。さらに続く高波の四球がワイルドピッチとなる間に高波が一気に二塁を陥れる好走塁を見せ二死二、三塁とすると、3番・浪江の所で和田はさらにワイルドピッチを放り6対1となった所で市立川越ベンチは和田を諦め、太賀にスイッチする。
太賀はこのピンチを凌ぐと、その後も毎回のようにピンチこそ招くが追加点を与えない。
一方、5回まで川越東・小笠原の前にセーフティースクイズの1点に抑えられていた市立川越打線が、得意の機動力を絡めながら相手のミスに乗じ反撃を開始する。
6回裏、この回先頭の高橋がセーフティーバントを決め出塁すると、すぐに盗塁を試みる。これがキャッチャー中島の悪送球を呼び一気に三塁を陥れ、無死三塁とする。続く原田がレフト前タイムリー(サードが正面に入れば止められた打球であったが)を放ち1点を返すと、すぐに二盗を決め無死二塁とする。一死後、6番・島田のショートゴロをショートが一塁へ悪送球を放り6対3となる。さらに、続く河野泰誠(3年)が四球を選び一死一、二塁とチャンスを広げると、二死後9番・岡本がセンター前タイムリーを放ち2点差とする。続く羽田もライト前タイムリーを放ち市立川越が6対5まで追い上げる。
ここで、川越東ベンチはたまらず2番手・宮崎元気(2年)をマウンドへ送る。宮崎はなおも続く二死一、三塁のピンチを切り抜けると、その後もストライク先行で2年生とは思えない落ち着いた投球を見せ、試合を落ち着かせることに成功する。
次の1点が勝敗を決めるという展開の中、次の1点を奪ったのは川越東であった。
8回表、二死後、6番・加藤蓮(3年)がレフト前ヒットを放ち出塁すると、続く吉藤がこの日3本目の長打となる、ライトフェンス直撃のタイムリー3塁打を放ち7対5とする。
一方、このままでは終われない市立川越の反撃は最終回であった。一死から2番・小菅がライト前ヒットを放ち出塁すると、二死後4番・原田がライト前へポトリと落ちるヒットを放ち二死一、三塁とする。だが、後続が倒れ万事休す。川越東が市立川越を7対5で下し準決勝へ駒を進めた。
まず市立川越だが、追い込まれてから打線の粘りは凄まじかったが、如何せん中盤の失点が重かった。この試合左打者はうまく抑えていた和田だが、代わった太賀は4回1/3を1失点と安定した投球を見せただけに、やや引っ張り過ぎた印象を受けた。とはいえ、この日先発の和田とクリーンアップは全員2年生であり、新チームも注目すべきチームであることに間違いはない。是非この日の悔しさを秋以降にぶつけてもらいたい。
一方の川越東だが、この日一時5点差をつけ自分達の流れに持ってきておきながら、6回裏はやや緊張感のないプレーが続き流れを手放してしまったのは反省すべき点であろう。とにかくこの試合は流れを失った展開から登板した宮崎が良く投げた。とはいえ長い大会でこういう試合は必ずある。強豪シード2校を破り、最激戦ブロックを突破したことは大きい。これで甲子園まであと二勝となったが、まずは準決勝までに空く2日間を有効に使い、やや大振りになっている打者のスイング修正と、今一度内野守備の整備などを再確認することに費やしてもらいたい。とにかく今日のような隙を見せてしまうと、準決勝以降は厳しい展開となってしまうであろう。
(文=南 英博)