東亜学園vs修徳
ミラクル東亜学園、9回二死から一挙9点!6点リードをひっくり返す
「野球は9回二死」からとよく言われる。実際には9回二死からのドラマは、そう多くないが、この試合はまさに、9回二死から試合がまさかの展開になった。
試合が始まるとまず目についたのが東亜学園のベンチに、この春監督を退任した上田滋が、助監督として武田朝彦を補佐していることだ。その存在感は、やはり抜群である。
東亜学園の先発である藤下凌也は、昨夏の準優勝メンバーであり、修徳の先発・坂本大起は、この春急成長し、阿保暢彦監督が期待する2年生投手。5回を終わり、修徳が2点、東亜学園が1点を取っているものの、両投手がテンポよく投げ、静かな展開だ。
試合が大きく動き出したのは、6回裏修徳の攻撃。この回修徳は、7番・加藤比呂の3ランなどで5点を挙げ、6点差のリード。あと1点でコールドゲームという展開であった。7、8回には無死から走者を出しながら、東亜学園の2番手、やはり昨夏の準優勝メンバーである福田拓海が踏ん張り、本塁を踏むことができない。そのことが、結果として9回の逆転劇を呼ぶことになった。
問題の9回表は、4番の土岐大聖がセンターオーバーの二塁打で出塁する。しかし続く、代打の友田祥平、6番の岩本翼が倒れ二死。6点差だけに、勝負ありかと思われた。ところが、続く代打の上西拓真の左前安打で1点を返すと、ここから怒涛の攻撃が始まる。
8番・竹松拓海の二塁打、続く代打・島田一輝の四球で満塁。1番・佐藤文哉の四球で押し出し。続く2番・御代川弘哉の打球は二塁手の後方。中堅手と右翼手の間に落ちて2人が還り2点差。風雲急を告げ始める。といって、あとアウト1つで試合終了だけに、先発の坂本をなかなか代えづらい。続く3番・橋本翔琉が二塁打を放ち1人が還り1点差。ベンチに入っている上田マジックなのか、東亜学園の攻撃が勢いを増す。
打者一巡となり4番・土岐のこの回だけで2打席連続となる二塁打で東亜学園がついに逆転した。
ここで修徳は坂本に代えて、5回戦で好投した鈴木大吉を投入。流れを何としても止めようとしたが、続く前の打席で代打に出ながら二飛に倒れた友田が、今度はレフトスタンドに本塁打を放ち、この回9点。東亜学園が3点をリードした。
ただし東亜学園はリードしたとはいえ、投手の福田に代打を送り、マウンドには1年生の細野春希を送る。捕手も正捕手の遠藤真人に代わり、7回裏からマスクをかぶっていた中谷凛太朗にも代打を出したので、中堅手の御代川が捕手を務めるなど、何が起きるか、分からない状況になっていた。それでも、押している側の強みか、細野が修徳の攻撃を3人で抑え東亜学園が奇跡の逆転、10対7で勝利した。
修徳は昨夏の準々決勝でも、関東一に9回に2発を食らいサヨナラ負けを喫している。2年連続でまさかのゲーム展開により、夏の大会を去った。しかし奮投した坂本は2年生。この経験を、新チームに生かしてほしい。もちろんショックは残るだろうが、修徳野球部にとっても、敗れた3年生1人1人にとっても、後年「あの負けがあったから」と、いい意味での教訓として肯定的に語れる日が来てほしいものだ。
東亜学園は3年前も9回裏に2点差をひっくり返したことがある、まさにミラクルチームである。昨夏の準優勝メンバーが多く残るとはいえ、春季都大会で八王子に0対15の5回コールドで敗れている。チームを鍛え直して掴んだ準決勝進出である。準決勝では同じくノーシードから勝ち上がってきた東海大高輪台と対戦する。戦力充実の東海大高輪台に勢いのある東亜学園がどう戦うか。好ゲームを期待したい。
(文=大島 裕史)