試合レポート

中越vs日本文理

2015.07.27

昨秋から県内負けなし!王者・中越、盤石の試合で甲子園へ!

 準決勝が行われた前日に続き、この日も快晴。午前中から気温もぐんぐん上がる中、試合開始3時間前の10時の開場前から多くのファンが券売所に長蛇の列を作り、開放された内野席はほぼ満席。新潟の高校野球界をリードしてきた私学が決勝でぶつかるという好カードへの期待を伺わせた。

 中越高井 涼(3年)、日本文理藤塚 光二郎(2年)という共に背番号1ではないものの、ここまで主戦として投げてきた両投手の先発で始まったこの試合。
初回、日本文理は先頭の星 兼太(3年)がライト前へ弾き返し出塁。その後二死一、三塁とチャンスを広げる。バッターはこの日、5番に入った荒木 陵太(2年)。カウント1ボール、2ストライクから荒木が、センターへ抜けようかという打球を放つが、中越セカンドの井口(3年)がこれを好捕。二塁フォースアウトとなり、日本文理は先制のチャンスを逃してしまう。

 その裏、今度は中越にチャンスが訪れる、四球と、3番・小林 史弥(3年)のツーベースで一死二、三塁のチャンスを迎えると、4番・波方 凌(3年)がライトの頭上を超える大きな当たりを放ち、2者が生還するタイムリースリーベース。なおも続くチャンスに、5番・治田 丈(3年)がライトへきっちり犠牲フライ。日本文理・藤塚の立ち上がりを攻め、3点を先制する。中越は2回にも、7番・関川(3年)のヒットと犠打で一死二塁のチャンスを作ると、9番・井口が右中間へタイムリーツーベースを放ち、1点を追加。リードを4点に広げる。

 反撃したい日本文理だが、中越・高井の130キロ台のストレートと、キレのいいスライダーの前にランナーを出せない。4回、5番・荒木がツーベースで出塁するも後続が倒れ、得点できない。

 3回以降、立ち直ったかに見えた日本文理先発の藤塚だったが、5回、二死一塁から、四球とヒットで満塁にピンチを広げられ、8番・高井にフルカウントから痛恨の押し出し四球。続く井口にセンターへ運ばれ、2者が生還。3点を追加し、リードを7点に広げる。

 6回から日本文理は、稲垣優(2年)、稲垣豪(1年)と継投でつなぎ、中越打線を抑える。だが、打線が高井を打ち崩せない。

 7回、日本文理は相手エラーに乗じて1点を返し、8回にも2番・山口 尚輝(3年)、3番・戸嶋(3年)の2本の内野安打と、相手エラーで1点を返し5点差に詰め寄る。その後一死一、三塁と反撃のチャンスを作るが、後続が倒れ5点差のまま最終回を迎える。

 迎えた9回、一死から途中出場の海津 裕太(3年)がヒットで出塁するも、1番・星が初球を叩きセカンドゴロ。2番・山口がフルカウントからショートゴロでゲームセット。
大量リードに守られた高井が9回を138球で投げ抜き、7対2で中越が勝利。12年ぶり9回目の甲子園出場を決めた。


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第97回全国高等学校野球選手権大会

エキサイティングプレイヤー 波方 凌(中越・3年・捕手)

 6月末、昨秋の新チーム発足から4番を打ち続けてきた主将・齋藤 颯(3年)が疲労骨折で離脱。その齋藤の後を打っていた波方 凌に、4番という大役が回ってきた。投手陣をリードする扇の要であると同時に、打線の核となる重責。

 捕手として、タイプの異なる投手陣をうまくリードし、機動力が自慢のチーム相手にもその強肩で存在感を示した。だが、打者としては、相手校の厳しいマークにもあい、この試合の前まで、思うようなバッティングをさせてもらえなかった。

 迎えた初回、日本文理の先制のチャンスをセカンド・井口の好守で阻むと、その裏、チャンスで波方 凌に回ってきた。じっくり相手投手の球筋を見極め、フルカウントからバットを出した。ライトを襲った打球はぐんぐん伸び、今大会の注目選手である日本文理星 兼太の頭上を越えた。セカンドを回った波方は、スピードをゆるめることなく三塁へ到達。三塁ベース上で、拳を突き上げた。

 この打席で吹っ切れたのか、3回、5回にも安打を放つ猛打賞。序盤から飛ばし、終盤疲れが見えた先発の高井 涼にも、ピンチの場面で駆け寄り、叱咤激励した。

 思えば今大会こんなシーンを多く見かけた。投手陣がランナーの出塁を許し、ピンチを招くと中越ファンとみられる観客からこんな声が飛んだ。
「波方~頼んだぞ~」
打者に対峙すべく、投手ではなく、その投手をリードする波方への声援。強豪・中越において、2年から試合に出場し続けてきた波方への信頼を物語っていた。

 昨秋の新チーム発足から、県内公式戦では一度も負けることなく甲子園に乗り込む。打者として、捕手として、大きく成長した姿を、甲子園で思う存分発揮して欲しい。


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第97回全国高等学校野球選手権大会

エキサイティングプレイヤー 藤塚 光二郎(日本文理・2年・投手)

 試合終了後の整列が終わり、応援してくれたスタンド前に整列した。主将の太田(3年)の掛け声で頭を下げ、スタンドからは温かい拍手が送られる。ベンチに戻ろうとした藤塚は、途中その歩みを止めた。こみ上げてくる思いを抑えることができず、立ち止まる。
帽子とユニフォームで顔を隠すが、止めどなく溢れてくる涙を抑えることができなかった。

 昨年の夏の大会前、日本文理のBチームの練習試合を見に行った。レギュラーではない、下級生を中心に明日の日本文理を担う原石たちが必死にプレーしていた。
「あのピッチャー面白いでしょ?」
指揮を執る鈴木コーチが、そう話してくれたピッチャーが、当時入学間もない藤塚だった。華奢な体格から、テンポよく相手打者に投じる。制球も良く、8回まで四死球は0。9回、スタミナ切れからか、連打を浴び4点を失うものの、5失点で完投勝利を上げた。

 昨秋、新チームが発足し、あの練習試合に出場していた選手もメンバー入りを果たした。その中に藤塚もいた。投手として出場する一方、代打やセカンドとしても出場。その野球センスが花開くかに見えたが、今春はベンチを外れた。

 迎えた今大会。背番号20をつけながら、主にリリーフでチームで一番イニング数を投げてきた。体つきも一回り大きくなり、持ち前の制球力は球威とともに増し、日本文理のブルペン陣を支える存在になった。

 だが、前日炎天下の中、リリーフで4イニングあまりを投げ、試合終了から24時間も経たないうちに決勝を迎えた藤塚は、疲労感を隠せなかった。

 猛打中越に連打を浴び、2回までに4失点。5回にも3点を取られたが、日本文理・大井監督はイニング途中で藤塚を交代させなかった。3失点直後、1番・入澤 武弘(3年)をレフトフライに打ち取った。5回104球、7失点でマウンドを下りた。

 試合後、泣き崩れる藤塚に1人の選手が駆け寄った。背番号6、福田(3年)だった。福田もまた、ベンチ入りを逃しながら、最後の夏に背番号6を奪取した苦労人だった。
藤塚にどんな声を掛けたのか、スタンドからはわからないが、グラウンドに最後まで残る藤塚を励まし、ベンチの方向へ促した。だが藤塚がベンチの裏へ姿を消すと、今度は福田が立てなくなった。こみ上げてくるものがあったのだろう。涙を止めることができなかった。

 大井監督が続投を決め、5回の最後の打者を抑えたアウトの意味。それらは、負けた瞬間から始まる新チームでの藤塚への期待を意味している。
福田をはじめとする三年生が流した涙、思い。
それらを背負った藤塚の最後の1年が今、幕を開けた。

(文=町井敬史


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第97回全国高等学校野球選手権大会

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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