九州国際大付vs福岡工大城東
プロスカウト注目の一戦!九州国際大付vs福岡工大城東
試合が始まる頃になるとバックネット裏には見知った顔が並んでいた。
見知った顔とは首都圏の球場でよく顔を合わすプロ野球のスカウト氏たちだ。スカウトは担当した地区を中心に動くのが常だが、逸材が現れれば1人の判断より大勢の判断で実力を見極めようとするので、この日のように担当外のスカウトがぞろぞろ集結することになる。
この日のカードは第1試合がこれから紹介する九州国際大付対福岡工大城東、第2試合が東海大五対西日本短大付。どういう選手がいるのか名前を挙げよう。
◇九州国際大付
清水優心(3年・捕手・右投右打・185cm/88kg)
古澤勝吾(3年・遊撃手・右投右打・178cm/80kg)
山本武白志(2年・三塁手・右投右打・187cm/87kg)
◇福岡工大城東
山川晃司(3年・捕手・右投右打・183cm/80kg)
江良佑介(2年・遊撃手・右投右打・推定175cm/70kg)
江良はなぜかパンフレット(販売されている選手名簿)に名前がないので、身長/体重は推定値である。
第2試合にも西日本短大付の快速球右腕・小野郁(3年・投手)が登板予定とあってはスカウトのみならず高校野球ファンが駆けつけたくなるのは当たり前。ということで試合前にして狭い[stadium]筑豊緑地野球場[/stadium]は人で溢れることになった。
1回表、3番古澤の三塁打で九州国際大付が先制すると、その裏、福岡工大城東は1番江良の二塁打など同点に追いつきスリリングな展開を予感させた。しかし、そんな予断を笑い飛ばすように九州国際大付は3回に5点、4回に3点入れ、6回に2点入れて力で福岡工大城東を圧倒した。
試合展開を追っても仕方ないので選手の個人技に話を移す。
ストップウォッチの部分で傑出したのは福岡工大城東の捕手・山川だ。イニング間の二塁送球での最速は1.85秒。思わず声が出る速さだ。しかし、次のイニング前はもっと凄かった。残念なことに私はストップウォッチを押していないが、隣り合ったスポーツライター・西尾典文の計測は1.77秒。西尾さんは「速すぎるかな」と首をひねるが、前にいたヤクルトスカウト・岡林洋一氏のストップウォッチは1.74秒を示していた。超高校級の強肩と言っていいだろう。
ただ、捕球するとき体勢を大きく左(右打者が立つ方向)に移し、さらにベース前から投げるのでタイムは幾らか“水増し”になっている。今年の中日の新人、桂依央利も大阪商業大時代にやっていた癖だが、実戦ではこういう態勢はほとんど作れないので、早めにノーマルなものに直してほしい。
九州国際大付の捕手・清水の前評判は山川以上に高かったが、実際のプレーを見るとかなり荒削りだ。イニング間の二塁送球タイムは最速で1.98秒。十分速いが、全力で投げると高めに抜ける気配があり、本人もそれを恐れているのか腕の振りが硬い。ワンバウンド送球も少なからずあり、この部分では山川に軍配が上がった。
打撃は山川が変化球打ちに課題を残し、清水はタイミングをどう取ったらいいのか迷いの中にいるように見えた。清水を見て真っ先に思い出したのが原俊介(元巨人)で、大田泰示(巨人)の名前もすぐ続いた。体の素質は申し分ないが、技術的な部分での迷いが深い未完の大器。ここをどう克服していくのかまことに興味深い。
遊撃手2人は好対照だった。江良はなぜ名簿に名前がないのか首をひねった。シートノックのときから動きのよさが際立ち、西尾さんと「あのショートいいね」と言い合った。まだ2年生なので見る機会はまだありそうだ。
九州国際大付の古澤は気持ちが表に100パーセント出るガッツマンで、4打数4安打5打点とチームを牽引した。第1打席の三塁打はスライダーの落ち際(三塁到達11.89秒)、第2打席の左前打は中に甘く入ってくるカーブ(送球間に二進と好走塁も)、第3打席の3ランは抜けた内角ストレート、第4打席の中前打は高めストレートと緩急に強いところを見せた。課題は特徴のない遊撃守備だけだ。
彼ら以外では九州国際大付の山本の打撃が出色だった。父親が元巨人などでプレーして、ロッテ監督を5年務めた山本功児氏と一部スポーツ紙で紹介されているので、ああ、と頷かれる方もいるだろう。
父親が左の巧打者なら、息子・武白志(むさしと読む)は右打席からの強打に特徴がある。2死二、三塁の場面で打席に立った第2打席は、フルカウントからストライクを取りにきた甘いカーブを振り抜いて高々とした軌道でレフトスタンド向うの崖に放り込んだ。来年は江良ととともに騒がれる存在になっているだろう。
(文=小関順二)