仙台育英vs仙台商
上林の2ランで先制(仙台育英)
「打」の仙台育英復活のきっかけになるか
仙台育英にとっては、自信を取り戻すゲームになったのではないだろうか。
初回に上林誠知(3年)の2ランで先制。ベンチから「毎回得点いこう!」と声があがったように、5回以外はこまめに得点を重ねた。6回には長谷川寛(3年)のライトポール直撃の3ランも飛び出し、9対0の7回コールドで5大会連続の東北大会出場と決勝進出を決めた。そんなこと、仙台育英にとって当たり前?いや、そんなことはなく、ここまでの歩みは苦しいものだった。
イメージ、というものはなかなか払拭できないもので、昨秋、打って打って勝利を手にしてきた仙台育英は「打」のチームと見られる。そうでなくても、個々の打力を見れば、そういう見方が最適ではある。
それが、センバツのちょっと前くらいから、どうも攻撃に元気がない。多くのチームが一冬で成長し、選手個々の体格や技量も変わるため、秋と比べるのはよくないのかもしれないが、それにしても攻撃の歯車がかみ合った試合というのは練習試合を含めて少なかった。
その上、上林誠知(3年)を欠いた。元々、違和感があったという左足首付近が、中部地区大会期間中の4月27日の練習中に三塁打を打った際、悲鳴を上げた。
MRIでは異常なし。炎症とみられ、整骨院に通って治療に専念し、県大会前には走れないためエアロバイクをこいだり、1年生と一緒に体幹メニューや室内練習場の綱のぼりをするなどして再度、体作りに励んだ。
すると、5月の約2週間で体重は5キロアップして80キロになり、飛距離がグンと伸びた。仙台育英のグラウンドはセンターが125メートル。そのさらに5メートル先にバックスクリーンがあるが、それを打球が越えて行ったという。佐々木順一朗監督が「(ライト後方の)テニスコートはあるけど、バックスクリーンは歴代でも、そういないよね」と驚くほど。
県大会初戦の富谷戦には、8回に代打で登場。1ストライクからの2球目は、それまでよりワンランク成長した質の高い“生きた打球”で特大ファウルを打っていた。まだ100%ではないが、スタメン復帰した準々決勝では、顔の高さのボールを叩いて二塁打にした。
こういった伏線があって、この日の初回である。打球は広いKスタ宮城のライトスタンドに入った。
試合を見守る仙台商ベンチ
大黒柱の復活アーチを皮切りに、2回には内野ゴロの間に1点、3回には二死一塁から6番・佐藤聖也(2年)の三塁打で1点、4回には2番・菊名裕貴(3年)のタイムリーと暴投で2点を加えた。そして、6回に長谷川が3ランを放ってコールドとなった。
仙台商とは中部地区のブロック決勝で対戦し、6対0から6対6に追い上げられ、9回に勝ち越して1点差で勝利していた。
「(この日)6対0になっても、みんな(地区大会のことが)脳裏にあったと思います」と佐々木監督。地区大会で完投した馬場皐輔(3年)ではなく、鈴木天斗(3年)が先発して6回を無安打に抑え、7回には小林勇太(1年)が二死から1四球を出したが、フィールディングよく落ち着いた投球を見せたことで失点はなかったが、最後まで「1点でも多く取りに行く」という姿勢を見せた。
8回の先頭には代打で小野寺俊之介(3年)を出し、サード強襲ヒットで出塁すると、手堅く鈴木が犠打で送っている。つまり、最後まで攻めた。
中部地区決勝の東北戦で好機を逃した仙台育英は、2対0の9回に試合をひっくり返され、3対2でサヨナラ負けを喫している。県大会も初戦の2回戦を3対0、準々決勝を2対1で勝ち上がった。
得点では勝(まさ)っても、試合に負けたような感覚に襲われ、「こんなはずじゃない」と秋の残像があったのは、観ている者よりもプレーヤーだった。仙台育英のネームバリューに加え、昨秋は明治神宮大会を優勝し、センバツでは8強入り。周りは、そう見る。
「うちがもし、センバツベスト8のチームと試合をやるとなると120%でいく。逆を考えれば、相手は120%で(戦いに)きている。その上をいかないといけない」と佐々木監督。その力が今はないという。
そんな現状で、仙台商が前日の準々決勝の名取北戦(7対0、8回コールド)で完封したエース・武山祐太(3年)を投げさせなかったことを差し引いても、この日、もがいていた仙台育英ナインにとって「攻撃」の感覚を取り戻せたのは大きな収穫。この試合がさらなる進化を遂げるきっかけかどうかは、この後の戦い方にかかっている。
(文=高橋昌江)