京都共栄vs宮津
1番・市田(京都共栄学園)
ごく普通の公立が近年力をつけてきた私立に挑む
地元の子がそのまま進学し、勉強も部活も頑張るというイメージ通りの高校生活を送るのが宮津高校。ただ数年前から学校として学業に力を入れ始め、平日は7時間授業、19時完全下校、テスト1週間前から部活停止となっている。部活の時間は準備・片付けを除けば実質毎日が90分1本勝負だ。
グラウンドは他のクラブと併用のため外野ノックは制限される。推薦制度も無いためスーパー1年生の出現にも期待できない。
野球は上手いが勉強は苦手というような“やんちゃ”な子は入試を通らないこともしばしば。
基本に忠実なプレー、全員野球での勝利を目指す。スタメン9人のままで試合が終わることはまず無いという。
宮津高校は創立100年を超える歴史を持つ伝統校で、昭和46年には選手権京都府大会で優勝している。しかし甲子園出場経験は無い。当時は全ての都道府県が出場できるわけではなかった。京滋代表決定戦で滋賀県優勝の比叡山高校に挑み、そして敗れた。スコアは0対2。宮津高校が最も甲子園に近づいた夏だった。
この頃が全盛期で昭和35年から50年の16年間に優勝1回、準優勝3回、ベスト8には10回残っている。
ただ残念なことに熱心な指導で知られた優勝時の監督、山添千吉郎さんは代表決定戦で敗れた約1ヶ月後、急死した。
「夏の府大会で優勝できたら、死んでもいい」が口ぐせで京都大会優勝後に休んだのは1日だけ。春のセンバツ出場を目指し、亡くなる前日も選手と共に白球を追っていたという。
あと一歩、わずかに2点及ばなかった夢舞台、その後は山添監督の無念さを目の当たりにした生徒の奮闘も及ばず、昭和50年の準優勝を最後にベスト8からも遠ざかっている。
宮津高校にとって近年急激に力をつけて来た京都共栄との一戦は、今の実力を測る上では絶好の舞台。しかしいきなり三振連続三振を喫してしまう。
一方、京都共栄は鮮やかな先制攻撃を見せる。1番・市田がセンター前に弾き返すと2番・大宅がきっちり送る。3番・小西が四球を選び一死一、二塁で打席にはエースで4番の村田が入る。試合後に「たまたまです」と謙遜した当たりはライトフェンス直撃のタイムリー二塁打。幸先良く1点を先制すると、なおも一死二、三塁と続くチャンスに沢田がライトへ犠牲フライを放ち1点追加。上位打線がかみ合い優位に立つ。
投手・奥田(宮津)
2回表、宮津は4番・中村のレフトオーバー二塁打を足がかりに一死一、三塁のチャンスを作る。一気に同点を狙いたい場面、ベンチの指示は「アウトコースを狙え」だった。しかし、5番・小西はインコースの球に手を出してしまう。結果は相手バッテリーの狙い通り詰まった当たりのピッチャーゴロ。1ー6ー3と渡りダブルプレーが完成した。
試合後、多々野監督はこの場面を真っ先に反省点に挙げた。
「ベンチの思惑と合致してない。あそこはアウトコースのストレートを張りなさい、と指示出していたのに打ったのはインコースの球。想定してちゃんと準備できているのかと」
大きなチャンスを潰した宮津だが5回に8番・岸本のスクイズで1点を返す。岸本は捕手としても先発・奥田を好リード。ボール球を巧みに使い内、外の揺さぶりで京都共栄打線に的を絞らせなかった。また、ダブルプレーを狙った一塁送球が大きく逸れたことがあったがこれをしっかりカバー。ただ何となくカバーに走るのではなく、本当に暴投が来ると思って走らないと間に合わない。目立ちはしないが隠れた好プレーだった。
得点圏にランナーを進めてもあと1本が出ない京都共栄、追加点が奪えない中で目を引いたのが6番・菅田だった。1年生ながら3番を打つこともあるらしく、今日は会心の当たりこそ無かったがノーサインを思わせる盗塁を2つ決め、野球センスの高さをうかがわせた。
そしてもう1人、背番号20の酒井。一塁のランナーコーチとしてよく声を出していた。ランナーが二塁に進んでも「まだ1アウトやぞ。外野の守備位置見ろ」と声をかける。
アウトカウントと守備位置の確認、少年野球で習う基本中の基本だがスタンドまで響く大きな声で徹底できるのが素晴らしい。
投手・村田(京都共栄学園)
試合は1点差のまま後半戦へ。
最小失点で何とかしのぎ終盤のワンチャンスに賭ける、地力に勝る京都共栄に勝つにはこれしかないという展開の中、ついに宮津がそのチャンスをつかむ。
8回、一死から代打・宮崎がレフト前ヒットを放つと1番・井上もセンター前ヒットで続く。ランナーが2人溜まりキャプテン・細見に打席が回る。一打同点が期待されたが、センター返しした打球は二塁寄りの守備位置を取っていたセカンドのほぼ正面。一塁へのヘッドスライディングも及ばずこの試合2つ目の併殺を喫した。
そしてその裏、今度は京都共栄がチャンスをつかむ。先頭の3番・小西がライト前ヒットを放つと宮津は先発・奥田から永濱にスイッチ。
多々野監督は「6回、7回ぐらいから疲れが見え始めていた。ランナーが出たら代えるつもりだった」と迷いなく送り出したが結果的には裏目に出る。京都共栄の勢いが勝り決定的な3点が8回裏に刻まれた。
9回表にランナーは出したが後続を抑え、京都共栄がそのまま逃げ切った。
1失点で完投した村田は「キレが悪くて今日は打たせて取るピッチングでした」と言いながらも9奪三振。夏へ向けては「球速もあるんですけど打たせて取ることですね。それと7、8回ぐらいに危なくなることあるのでそれを修正したいですね」と現状を見つめた。
敗れた宮津の多々野監督は「エラーばっかりだった春先に比べたら全体的には成長している。あとはどれだけ実戦を積めるか」と夏までのさらなる成長を見据えた。
この試合ではまだ力を出し切っていない京都共栄と伸びしろの多い宮津。どちらも3ヶ月後には全く別のチームに化ける可能性を秘めている。
(文=編集部)