高知vs仙台育英
高知のチーム力を分析する
投手陣が高知勝利の立役者である。とくによかったのが先発の酒井祐弥(2年)。初戦の関西戦でもよく見えたが、そのときにくらべボールに力強さが加わった。具体的には139キロのストレートが常葉菊川戦ではたびたび140キロを超えるようになり、この仙台育英戦では141キロまで伸びた。
安楽智大(済美2年)の最速152キロが示すように、酒井の141キロは数字として飛び抜けていない。一級品なのは投球フォームとボールの低めへの伸びである。
投球フォームは体の近くで腕が振れ、さらに真上から腕が振れるところが素晴らしく、高校生にありがちな左肩の早い開きもない。最初に見た印象では平井諒(東京ヤクルト)に似ていると思った。有名選手では前田健太(広島)に近いセンスだと思う。
110キロ前後で縦に曲がり落ちるカーブの角度とキレ味が見事で、これに縦割れのチェンジアップ、斜め変化のスライダーと130キロ前後のカットボールを交え打者を翻弄する。前田健太がそうであるように、投球フォームがいい選手は変化球の精度が高い。この変化球に力強さを増しているストレートが加わり、酒井は試合ごとに安定感を深めている。
この酒井が5回まで投げて、6回以降坂本優太(3年)が締めるというのが高知の勝利の方程式だ。坂本優のストレートは酒井同様、130キロ台後半が多く、変化球は酒井が高低の変化で攻めるのに対し、坂本優は鋭く変化するスライダー、チェンジアップを軸に横の変化で攻める。2年生酒井が無用なプレッシャーに囚われず投げられるのは、坂本優の安定感があるからこそ、と言っても過言ではない。
投手陣にくらべ、打線は低調だ。初戦の関西戦が7安打、5得点、3回戦の常葉菊川戦が6安打、3得点、そしてこの仙台育英戦が5安打、2得点である。
クリーンアップの成績を振り返ってみよう。
3番和田 恋(3年)→11打数3安打1打点、打率.273
4番市川 豪(3年)→10打数4安打打点1、打率.400
5番股川涼有(3年)→10打数3安打2打点、打率.300
しっかり機能しているのがわかる。機能していないのは1、2番だ。
1番和田誉士人(2年)→9打数1安打、打率.111(初戦の関西戦は2番を打つ)
2番土居弘洋(2年)→9打数0安打、打率.000(関西戦は1番を打つ)
この1、2番に手を加えてみたい。下位打線では上田隼也(2年)が12打数3安打3打点(毎試合安打、打点)、杉本大紀(3年)が8打数3安打(毎試合安打)と比較的安定しているので抜擢してみる価値はある。
チャンスメーカーに重要な脚力はどうだろう。上田は常葉菊川戦の第4打席で二塁打を放ったとき、8.27秒で二塁ベースに到達している。杉本も同じ常葉菊川戦の第1打席で内野安打を放ったとき、4.25秒で一塁ベースを駆け抜けている。ともに「俊足」という表現を使っていい好タイムである。剛腕、安楽を攻略する切り札になるかもしれない。
敗れた仙台育英は、まさか優勝への色気が心身を金縛りにしたわけではないだろうが、まったく打てる気配がなかった。得点源の4番上林誠知(3年)が4打席中、2回も先頭打者として打席に立ったのはベンチにとって誤算だっただろう。それでも2打数1安打2四球で3回出塁しているのは立派である。
9回はこの上林が先頭打者としてセンター前ヒットで出塁し、5番水間俊樹(3年)が死球で出塁して、無死一、二塁のチャンスを迎える。ここで足の遅い水間に代走を出して高知バッテリーにプレッシャーをかける作戦はなかっただろうか。しかしベンチは動かず、後続の小林遼(3年)がライトフライ、阿部涼平(2年)がショートゴロ併殺でゲームセット。東北球界が待望して止まない優勝旗の“白河の関越え”はこの春も叶わなかった。
(文=小関順二)