北条vs南宇和
北条の4番・スイッチヒッターの島田佳人(2年)
「野球を学ぶ」意識で分かれた勝敗
僕も試合は見ていたんだけどねえ・・・」と試合後、センバツにおける済美の戦いぶりについて話し始めたのは北条・澤田勝彦監督である。詳細については割愛するが、内容は野球の理解度についての話。松山商業監督時代には、あまりにも有名な1996年(平成8年)夏の第78回大会決勝戦「奇跡のバックホーム」含め、実力差を適材適所の戦術や選手起用で凌駕した名将の話だけに、その言葉は説得力と含蓄に満ちていた。
そんな澤田監督の信念はこの4月で4シーズン目に突入しようとしている北条でも全く変わらない。この試合でもそれを象徴するシーンがあった。
1回表に3番・鶴岡錦之介(3年)の右犠飛で先制した直後、南宇和の攻撃。無死一塁で2番・高川侑也(2年)の場面。1球目のバントの構えで「ランナーの動きが見えた」澤田監督は、すかさず2球目のウエストを指示。しかもそれはファースト・サードがバントチャージを掛け、空いた一塁ベースに二塁手が入り、そこへ捕手がすかさず送球するトリックプレーであった。
これにより北条は3回表・2年生スイッチヒッターの4番・島田佳人の適時打など2得点への流れを作り、序盤の主導権を握ることに成功。終盤は南宇和も粘りを見せただけに「少しずつ野球がわかってきた」と名将も笑顔のビックプレーは、結果的に勝利に直結するものとなったのだ。
6回3分の1で1失点の南宇和2番手・二神伸伍(3年)
一方、「してやられました」とそのプレーを振り返った対戦相手の近藤輝幸監督。4月からは新居浜東への異動が決まり、この試合が南宇和での最後の采配となった近藤監督が悔いたのも「野球を学ぶ」ことの大切さであった。
「普段通りできることをやろうとしたが、相手投手の腕振りと球速差に騙されてしまいました」
その口ぶりは、最速135キロの重いストレートと鋭いスライダーが武器の右腕・二神伸伍、地道な鍛錬で遠投100mの地肩を手に入れた藤澤洸矢の3年生バッテリーを始め、ポテンシャルあふれるタレントを有しながら、野球の引き出しを与え切れなかった無念さにあふれていた。
ただ、彼らにはまだ夏がある。今回は勝敗は分かれたが、両チームにはこの成功事例・失敗事例を夏に活かすアプローチに期待したい。
(文=寺下友徳)