聖光学院vs鳴門
緊迫感あふれる戦いに断を下す「巧」の一発
初戦となる2回戦では板東湧梧(3年)の好投が実り、宇都宮商(栃木)に2対1と逆転勝ち。実に10年ぶりとなる四国勢3校ベスト16以上のさきがけとなった、徳島県の雄・鳴門は2年連続ベスト8を目指す。
一方、同じく2回戦では2年生左腕・石井成の3安打完封で21世紀枠出場の益田翔陽(島根)を8対0で下し、初の選抜大会ベスト8へ前途洋々の聖光学院(福島)。3季連続甲子園出場校同士による一戦は、期待に違わぬ緊迫感あふれる戦いとなった。
聖光学院は初回、板東の立ち上がりを攻め無死一、二塁から3番・八百板飛馬(3年)がセンターへ犠牲フライ。二死二塁から6番・佐藤昌平(3年)が右中間を破る三塁打を放つで2点を先制。
4回にも一死二塁から石井をリードする8番・廣瀬和光(2年)のレフト前タイムリーで追加点。4回まで多彩な「緩い球からカットボールを使いたい」目論見がはまり、初回に2安打を浴びた以降4回までは被安打なしで0を並べた石井の投球内容からして、早くも試合は決まったかと思われた。
だが5回裏、「逆方向に長打が打てるし、外から中に入ってくる変化球を踏み込んで、顔と目線を残してスイングができる。基本に忠実ですね」と試合前、敵将・斎藤智也監督が高い評価を与えた鳴門の強打線がついに牙を剥く。
一死二塁から1番・河野祐斗(3年)が内角高め直球を左中間に運び1点を返すと、二死満塁から左投手対策として5番に起用された板東の女房役・日下大輝(3年)が一、二塁間「逆方向」への2点タイムリー。これで同点に追いついた。相手の失策から劣勢を瞬時に自らへ引き寄せる集中力は、昨春の2試合連続延長サヨナラ勝ちが血となり肉となっていることを証明するものである。
その後は「向こうも球速が上がっていたが(板東湧梧は自己最速の139キロをマーク)、自分なりのピッチングをしようと冷静になれた」聖光学院・石井成、「自分の投球ができていた」鳴門・板東による一騎打ちの様相に。そんな試合に断を下したのは7回表二死から打席に立った聖光学院4番・園部聡(3年)だった。
「変化球の割合が多いことは選手同士で話をしてわかっていたが、カットボールと真っ直ぐはスピードがあまり変わらないので、そこは直球と同じ振りで打つようにした」試合中の修正により、これまでの3打席とは異なる意識で臨んだ4打席目。1ボールを挟み、6球ファウルで粘った後、内角低めの真っ直ぐに少し差し込まれながら、叩いた打球は・・・。
昨夏の甲子園2回戦・浦和学院戦(2012年08月17日)とは逆側の左サイドバックスクリーンへ。大会通算11号・自身高校通算44本目となる一発は、試合を決める値千金の決勝打ともなった。
「投げたボールは失投ではないです。内角をうまく打たれました」(日下)。
「インコース低め。悔いのないボールでしたが、相手の力が上でした」(板東)。勝負への気迫、トップフォームを示した両エース、そして相手バッテリーをも感心させる園部「巧」の一打。雨模様の残念なコンディション下のゲームではあったが、「高校野球」の醍醐味、そして「ベースボール」の醍醐味を現地で見られた12,000人の観衆は、満足して帰路に就いたに違いない。
(文=寺下友徳)