北照vs菰野
試合中の一つのプレー・瞬間のジャッジで大きく結果が変わってくるのが野球である。
今大会、松倉雄太が試合を決定づける「勝負の瞬間」を検証する。
初めて味わう走塁技術と大胆な守備
秋の公式戦チーム打率が3割9分1厘の菰野と、3割6分9厘の北照。打のチーム同士の打線との対決構図であったが、終わってみれば7対0というスコアで北照が勝利を飾った。
ゲームの中で大きなポイントとなったのが、北照の走塁技術と大胆な守備シフト。
まず走塁面で象徴的だったのが、北照が先取点を挙げた3回の攻撃。このイニングは打順が二巡り目になり、1番高山大輔(3年)からの攻撃。
その高山はファウルで粘り、8球目をレフト前へ運んだ。
この試合3本目のヒットとなる北照。塁に出るたびに、様々なリードをとることで菰野のエース左腕・山中亨悟(3年)に揺さぶりをかけた。初回に主将で3番の吉田雄人(3年)が盗塁を成功させていることも、山中にプレッシャーをかける後押しになっている。
無死一塁で2番五十嵐雄太郎(3年)。高山が山中に対して繰り出す揺さぶりを利用するかのように、五十嵐は初球をバント。だがここは読んでいた山中が思い切ってダッシュをし、セカンドへと投じた。十分に高山をアウトにできるタイミング。しかし、セカンドベースでの攻防の果てにセーフというジャッジが下された。
間一髪で二塁を陥れた高山はこの時の状況を、「ショートの選手がベースを踏めていなかった。それが見えてセーフだと思いました。間一髪で助かった」と説明する。
逆に菰野のショート・小林輝也(3年)は、「ベースの内側に入ってボールを捕って踏もうと思っていたが、その場所を相手選手に狙われて、先にベースを踏まれて(ゾーンを)潰されてしまった。初めての経験です」と悔しそうな表情で話す。
先にベースを踏んだ状態で待っていたとすれば、足を狙ってスライディングをすると守備妨害を取られかねない。だが、捕ってからベースをしっかり踏んで送球しようという選手ならば、その踏むであろう場所を狙ってベースを踏めなくするのが攻める上での定石だ。この場面ではしっかりと観察して走塁した高山が一歩上だった。
3番吉田の内野ゴロで一死一、三塁となった後、4番小畑尋規(3年)がファーストを強襲するタイムリーを放ち、先取点が北照に入った。この後5回に吉田のタイムリー二塁打、6回には相手のミスや小畑と5番富田魁斗(3年)の連続タイムリーなどで着々とリードを広げる。
エースの大串は8安打を浴びながらも、菰野打線を目覚めさせぬピッチングで完封を果たした。
さて、もう一つのポイントである北照の大胆な守備シフト。それは菰野の4番吉冨大輝(3年)が打席に立った時に見せた。
「引っ張る打者だと思っていた」というショートの富田が、極端にサードよりに移動する。二遊間はがら空きとなった。実際に吉冨の打席で富田に打球が飛んでくることはなかったが、相手の打者が『えっ』と思わせることができただけでも大胆なシフトを敷いた効果はてきめんだったと言える。
富田はこうも話してくれた。
「(シフトは)自分達で映像を見てやろうと決めました。後で(河上敬也)監督に話したが、監督も同じ気持ちだった」。
高校野球であのような大胆なシフトを、選手自身が決めて実行に移すのは相当の勇気がいると想像できる。相当な観察力があるからこそのことなのだろう。
一方で敗れた菰野。ショートの小林は、「今まで戦ったことがないタイプのチームで、かき回してくる。ランナーが出たら、相当考えさせられました」と神経を使ったことを話してくれた。完敗という内容はもちろん悔しいだろうが、大きな収穫(勉強材料)を持って三重県に帰れそうだ。
小林はこうも続ける。
「足を使ったチームと戦うことを想定して負けないように練習したい。自分達は色んな考えを言い合うことがあまりないので、これからは意見をぶつけあっていきたい」。
話してくれた最後のフレーズが非常に重要である。一つの結論を出してそれに向かうだけでなく、様々な議論をかわしてチームの成熟度を高めていく意識があれば、次にこういったチームと対戦した時でもまた違った戦い方ができるだろう。
(文=松倉雄太)