鳴門vs松山聖陵
鳴門先発・板東湧梧(2年)
鳴門の不思議エース・板東が隠し持つ曲者投球術
179センチ65キロのモデル体系に甘いマスク。ピンチにも一切表情を変えないポーカーフェイス。県大会の防御率は4点台ながら、四国大会でも前日に16安打と強打を発揮した松山聖陵相手にすらきっちり初回の「4点」に抑える妙な安定感。選抜ベスト8、春夏連続甲子園出場の後藤田崇作からエースナンバーを受け継いだ鳴門の2年生右腕・板東湧梧は実に不思議な投手である。
ストレートの最速は130キロそこそこ。徳島県高校球児の大先輩・板東英二さん(徳島商業→中日→現:野球解説者・タレント)のような剛速球がある訳でもなく、後藤田のような秀でた制球力、緩急差がある訳でもない。ところが初回に1番・国吉翔平(1年)の1イニング2安打含む先頭打者からの4連打、6安打を浴びせた松山聖陵打線は、2回以降わずか2安打。そこには何か秘密があるはずだ。
ところが試合後、森脇稔監督の板東評は「バックがよく守って併殺(2個)を取ってくれた。相手打線が中盤以降カットボールを打ってくれて助けられましたね」。福本学コーチの評価も「序盤はもっとノラリクラリでいいんですけど・・・」。どうも要領を得ない。ここは本人の言を聞くことにしよう。
「初回の4点は力んでストレートを打たれたので、そこは反省です。ただ、中盤以降はカットボールでカウントを取って、チェンジアップやフォークを決め球にする組み立てがうまくいきました」。
ほとんどのボールを110キロから120キロ台にあえて集め、打者前の微妙な変化で勝負する板東。40キロの速度差を使っていた後藤田とは真逆の思考が彼のピッチングを支えている。しかも、鳴門入学後に覚え、新チームになってから完全にマスターしたカットボールの比率は全投球数の5割。ここまで来れば吉田えり(関西独立リーグ・兵庫ブルーサンダース)が目指す「ナックルボーラー」ならぬ「カットボーラー」と言っていいだろう。
「試合でも気配がないとよく言われます。自分では気持ちを入れて投げているつもりなんですが」と笑う板東。「もっとしっかり投げて最小失点に抑えたい」と準決勝での好投を誓ったカットボーラーは、3季連続甲子園出場をかけた済美戦でも「大振りせずセンター返しに徹したい」(2年主将・河野祐斗)強力打線の援護を背に、曲者投球術に磨きをかけようとしている。
(文=寺下友徳)