試合レポート

安田学園vs早稲田実業

2012.10.28

安田学園vs早稲田実業 | 高校野球ドットコム

先制スクイズを決めた本宮(安田学園)

鉄壁の守り!安田学園 初優勝!

 決勝戦は初優勝を目指す安田学園と、2005年秋以来の優勝を目指す早稲田実業の対戦となった。小雨混じりの中、予定通り11時にプレーボール。

先制したのは安田学園だった。2回表、4番深見俊介(2年)がレフト前安打。レフトがそらして二塁へ(エラーと記録されず、二塁打)。5番小山新次郎(2年)が犠打で一死三塁。6番小山 拓哉(2年)は四球。続く7番本宮 佳汰(1年)がセーフティスクイズを成功させ、先制点を奪う。さらに、このスクイズを内野手の暴投で、本宮はセーフに。一死一、三塁と、再び得点のチャンスを作ると、三塁走者の小山拓が飛び出す。その小山拓を相手バッテリーは刺そうとするが、送球が小山拓のヘルメットに当たり、ボールはレフトへ転々と転がっていく。その間に小山拓がホームインし、2点目。早稲田実業の守りのミスが絡んで、安田学園が2点を先制した。

実はこの2点、安田学園にとっては狙い通りだった。森泉弘監督と主将の渋谷大輔(2年)が説明する。
「うちは打って点が取れる打線ではないですので、とにかくランナー三塁までに進めること。ランナー三塁からならば、守備側にプレッシャーをかけることができるし、相手のミスによって1点を奪うことができます。今日はそういう野球ができました」(森泉監督)

「こちらも守っている側からすると、三塁にランナーがいたほうがプレッシャーがかかりますし、うちは2番の百瀬、7番の本宮と、足を使える選手が多いので、足でプレッシャーをかけていく攻撃しようと思いました」(二塁手・渋谷大輔)

自分が守ってみて嫌な場面はどこか。それを考えたら一つのミスで、点が奪われるランナーを三塁に置いた場面である。安田学園は、その戦略通り、三塁にランナーを進めることにこだわった攻めで得点を奪った。


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大金真太郎(安田学園)

 ここで早稲田実業は投手交代を決断。先発の西山 諒(1年)からエース左腕・二山陽平(2年)を投入。早稲田実業は継投で流れを変えるしかなかった。二山は今大会3登板目。登板するごとに調子を上げている。力みがなく、しっかりと腕が振れ、回転の良い直球が決まっていく。安田学園は二山を捉えることができなかった。

 
一方、安田学園の先発は、準決勝で7失点のエース大金 真太郎(2年)。今日は前日とは別人のような投球を見せる。ストレート、変化球のコントロールが安定していた。

「昨日は直球、変化球ともにコントロールが甘かったので、とにかく低めへ投げることを意識した」
前回のように高めへ浮くことなく、コーナーへ直球が決まっていく。そしてスライダー、チェンジアップで打者のタイミングを狂わし、4回まで早稲田実業打線を無安打に抑えた。球速は130キロ台、変化球はスライダー、チェンジアップの右投手。突出した球速、変化球があるわけではない。捉えられそうで、捉えられない。ここが大金の魅力だ。

反撃したい早稲田実業は5回裏。利光 健作(2年)の2試合連続ホームランで1点を還す。チーム初ヒットがホームラン。バッテリーは警戒していたが、カウントを取りに行った高めのストレートを見逃さずに打ち返した利光の見事なバッティングだった。

利光は8番打者だが、打撃センスは早稲田実業の中では一番。まず打席に立った構えに力みがなくて、良い。そしてスイングもインパクトまで無駄がなく、非常にシャープ。集中力が高く、狙い球を逃さない鋭さが素晴らしい。対戦していて一番嫌な打者であろう。続いて利光は第3打席でもライトフェンス直撃のシングルヒット。バッテリーとしては利光の前に絶対にランナーを出してはいけないと思っただろう。

その後、試合は9回まで進み、逆転を狙う早稲田実業の攻撃はあと1回。
9回裏、二死。
優勝まであと一人になったところでライトへホームラン、ライトフェンス直撃のシングルヒットと一番当たっている利光に回った。
「とにかく怖くて仕方なかったが、一発が出なければいいかなと。ヒットでもシングルでとどめることを選択しました」
バッテリーはコーナーを突いて、利光を抑えに行った。しかし利光は必死に食らいつき、中前安打。二山の代打・織原葵(2年)も中前安打を放ち、二死一、二塁。簡単には終わらない。

一塁ランナーが帰ればサヨナラの状況に早稲田実業の応援ボルテージが上がる。
しかし安田学園バッテリーが、やることは変わりなかった。

『ただ低めに淡々と投げる』 (大金真太郎)

大金-小山真のバッテリーは、1番の山岡をレフトフライに打ち取り、悲願の初優勝を決めた。
選手たちはマウンド上に歓喜の輪を作った。


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優勝を決めた安田学園ナイン

 今大会、初優勝を遂げた安田学園は何がすごいのか。
それは確実にアウトに出来る守備力である。守備範囲が物凄く広いわけではない。外野手、捕手も目に留まるような強肩選手でもない。身体能力的にも平均的だ。しかし高校野球で、アウトに出来る打球をアウトにすることがどれだけ難しいか。彼らは確実にアウトに出来た。そこが安田学園の強みである。

高校生はプレッシャーがかかっていない時の守備は、とてもリズムが良い守備を見せる。よくノックは素晴らしい動きを見せるのに、実戦に入るとエラーを何度も起こすというチームもある。しかし、安田学園は、それを防ぐために実戦を想定とした守備練習を重ねていた。

決勝戦を無失策で終えたことに森泉監督も驚きだった。
「どこの学校も守備は目一杯練習していても、絶対エラーが起こるんじゃないですか。うちは本当に粘り強く守ってくれた。練習では実戦を想定していて練習をしていましたが、まさか、うちの選手たちがあそこまで堅く守ってくれるとは思いませんでした。本当によくやってくれています。今日は守り勝ちですね」

守りの要である渋谷に聞いてみた。ピンチの場面で、守るのはどういう心境か?
「本当に緊張します。でも自分たちがやってきたことを出すしかないです。自分たちがやってきたことを信じてやれたから守れたと思います」


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スタンドに向かってガッツポーズをする安田学園ナイン

特にランナーを置いてからの守備は素晴らしいものがあった。
この試合で言えば、6回裏に一死から3番戸谷 光助(2年)は一塁へ内野安打を打たれ、一死二塁。4番熊田睦(2年)は右前安打。戸谷は三塁へ狙う。ここでビッグプレーが出た。ライトの本宮が三塁へダイレクト返球。これがタッチアウトに。この回は0点に抑える。

さらに8回裏には、1番山岡 仁実(1年)は中前安打。2番岡 大起(2年)は犠打。3番戸谷はストレートで空振り三振。4番熊田は四球。5番松本 飛勇馬(1年)が打ち上げたフライはふらふらと打ち上がる。レフトへ落ちると思われたが、ショート小山拓が全速力でボールを追いかけキャッチ。同点のピンチを切り抜けた。もし落ちていれば同点になっていてもおかしくないプレーだっただけに、ビッグプレーとなった。

この2つのプレーを鉄壁の守りと呼ぶべきなのだろう。安田学園は、早稲田実業の少なくとも2点分を阻止しただろう。

自分たちの力を発揮するだけ。それをなかなかできないのが野球の難しさ。それをこの秋、自分たちの守備力を存分に発揮出来た安田学園ナインは素晴らしかった。

自分たちの出来ることをきっちりとこなす。うまくなるために一つ一つを積み重ねる。その積み重ねが優勝につながり、ついに安田学園は東京都の頂点に立ったのだ。

(文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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