伊万里農林vs鹿島実
スローボーラー
伊万里農林の2年生右腕・岡本大樹は、スローボールを駆使して今大会初完投勝利を飾った。
捕手の古川拡和との遊び感覚のキャッチボールで身に付けたという90キロにも満たない魔球である。
130キロ前後の直球を140キロにも150キロにも体感させる緩急差は、じつに40キロ以上。直球の握りでスピードを押さえた、いわゆるオーソドックスのスローボールに加え、スローカーブで軌道にアクセントを付けてくる。これは厄介だ。
そのうえ、打者の左右やカウントに関係なく使用できることから、この試合だけでも20球以上を投げた。試合終了を告げる最後の打者をショートゴロに打ち取った球も、オーソドックスのスローボールだった。
今大会は3年生エース・池田龍乃につなぐ先発投手の役割を担う岡本。
池田が春の九州大会後にヒジを故障したため、ロングイニングを投げ抜かねばならない。しかし、準々決勝の佐賀西戦では延長11回途中まで投げて1失点。耐久力も見せつけた。
試合後、この春に就任した杉原周平監督が絶賛した。
「スローボールによって打者の目線を一度浮かし、打撃そのものを崩していく。そういった投球術に磨きがかかってきました。ここへきて右打者の一塁側へのファウルが目立ってきましたね」
6回に同点に追いついた時点で、杉原監督は岡本の完投を決断した。
「マウンド上での力の入れ具合、抜きどころを覚えてきたことが大きい」と杉原監督は説明した。
スローボールを覚えたことで、岡本は最大のウイークポイントだった制球難を克服した。
夏前哨戦のNHK杯では、準優勝に貢献したものの1試合で9四死球を与えた試合もあった。ところが、スローボールを投げれば、相手打者は振ってきてくれる。しかも、芯を食われることが少ないので、早いカウントでゴロアウトを取ることができるからだ。
この日の準決勝・鹿島実戦は101球を投げて被安打3、無四球。3ボールまで行ったケースは、たったの一度もなかった。
文句のつけようがない快投といっていい。
「もちろん先発する試合はすべてひとりで投げぬくつもりです。あと1勝。何がなんでも甲子園に行きたいですね」
余力を充分に残した2年生右腕は、決勝戦が待ちきれないといった様子で汗を拭った。
打倒すべき相手は、佐賀北に決まった。
(文=加来慶祐)