鳥栖vs鹿島
エースに襲ったアクシデント
1回、エースにアクシデントが襲った。
1点を先制された直後の一死二塁。佐賀鹿島のエース高柳佑(3年)を、鳥栖の5番西依拓真(3年)が放った強烈な打球が襲う。バウンドして真っすぐ向かってきた打球は右足に当たると大きく三塁側へと転がった。
打球を受けた高柳は苦悶の表情を浮かべその場にうずくまる。立ち上がることができず、鳥栖の一塁ベースコーチに担がれながら治療のためベンチに下がるが、5分後、ベンチから痛めた右足をやや引きずりながらマウンドへ戻ると、そのまま志願の登板。
痛む足をこらえながらも3回までストレートを軸に縦のカーブで緩急をつけ鳥栖に追加点を許さない。
「まだ投げたかったが、痛みが限界だった。このまま投げたらチームに迷惑がかかる」と4回、背番号10の井手大奨(3年)に後を託し自ら降板した。
あとを受けた井手が鳥栖打線に走者を許すものの、決定打を与えない。
何としても早い回に追いつきたい佐賀鹿島だったが、鳥栖•初瀬耕輔(3年)の前に初回の満塁のチャンスを併殺で逃すと、5回まで3人ずつで攻撃が終わり、チャンスをつくれない。
鳥栖が試合の主導権を握り中盤まで進んだ。
試合の流れが変わったのは6回。グランド整備後からだった。
先頭の9番馬郡大輔(3年)がストレートの四球で歩くと、塁上で大きくリードをとり初瀬にプレッシャーをかける。1番塘優(3年)の2球目に盗塁を成功させると、二死後、2番末光勇輝(3年)の四球を挟み、4番中島達矢(3年)の2球目にダブルスチール。持ち味である積極的な走塁で初瀬のリズムを崩しにかかる。すると中島も四球を選び満塁とし、5番山口大輔(3年)が押し出しで同点に追いついた。
「グランド整備後の仕切り直し、立ち上がりの制球に不安がある初瀬君だから必ずチャンスはあるとこの6回が始まる前に声かけていた。いかに初瀬に塁上からプレッシャーをかけ神経質にさせることができるか。試合前に考えていたゲームプラン通りにやってくれた。」と狙い通りのプレーと片岡修史監督。
この同点劇で、球場のムードは一変する。
「完全にアウェーの感じだった。動揺した」と初瀬が漏らしたように、球場全体が声援が鹿島への声援と変わったと思えるほど大きくなった。
この声援に押せ押せとなった鹿島は7回には得点に結びつかなかったものの二死満塁まで初瀬を攻め立てると、続く8回には4番中島が相手のミスで出塁し、二盗、三盗。さらにスルスルとスタートを切り本盗を企図。惜しくも本塁で刺されはしたが、ここでもチームカラーである足攻をみせた。
「(本盗は)サインで走らせた。アウトにはなったが、あれがチームの点の取り方。同点の場面でのダブルスチールや本盗など塁上からプレッシャーをかけノーヒットで点をとるという練習とおりのプレーができた」と話した指揮官。
エースの降板をうけ、粘りの投球を続けた井手だったが、8回に鳥栖打線につかまった。
連打と死球で満塁とすると6番西依拓真(3年)にレフトへ犠牲フライを打たれ決勝点を奪われた。
「最後は地力の差がでた。ダメージを与えるような後一押しができなかったが、自分たちのできることを100%だしてくれた。チーム一丸でもりたててくれた」とエース降板のアクシデントがありながら、優勝候補をあと一歩のところまで追い込んだチームの粘りを称えた。
だが最後に「どういう結果でも勝たせたかった。もう一度、高柳をマウンドに立たせてやりたかった」と泣きじゃくる高柳をみやり、片岡修史監督はつぶやいた。
(文=藤吉ミチオ)