横浜vs高知
新3,4番コンビが変える横浜打線
横浜がチャンスを確実にものにして高知を退けた。今年の横浜は強い、と溜息を洩らすようなチームではない。関東大会では準々決勝で対戦した作新学院に2対6で完敗し、私はこれを当然の結果と思い、観戦しながらつけるノートには「渡辺監督は勝利の執念が薄れたのかも」と書いた。
試合運びが淡泊、と思わされたのは攻撃陣のせいだ。技術がどうこうではなく、同じようなタイプがズラッと並んでいるという印象なのだ。
たとえば今日のスタメンは1、2年生の頃から出場しているので長年見慣れた顔ばかりだ。そのくらいの経験値があれば熟練してくるのが普通だが、今年の選手たちは熟練しない。打って、投げて、走って、という行為を漫然と繰り返している。
この日の高知戦での各塁到達タイムを紹介すると――全力疾走の目安になる「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12.3秒未満」をクリアしたのは1番拝崎諒(中堅手・左投左打・181/75)、2番宍倉和磨(左翼手・右投右打・166/68)の2人(各1回)だけ。この日が特別なのではない。だいたい、このくらいの走りしか日常的にしていない。打つほうでも、守るほうでも特別目を引くような選手はいない。
くどいようだが、1、2年の頃から全国最強豪の横浜高校でベンチ入りして、何度も公式戦を経験している選手ばかりなのである。
ところがこのメンバーの中に野手として最も経験値が浅いと思われる2人が3、4番に入り、チームの印象がガラッと変わった。3番に背番号「11」の田原啓吾(右翼手・左投左打・181/84)、4番に左腕エースの期待を背負っていた山内達也(一塁手・左投左打・181/85)という、チーム内に少ない180センチ、80キロ以上の大型選手が入り、威圧感が出てきたのだ。
スタメン全員がつなぐ意識をもって、なんて当たり前のチームではない。松坂大輔(レッドソックス)がいた98年のチームのように、中軸には少なくとも大型選手を入れて、“こけおどかし”でもいいから、他校を圧倒するチームを作ろう、そんな声が聞こえてきそうな選手起用である。そして、この3、4番の起用がずばり当たった。
1回裏、1死一、二塁の局面で山内が放った先制二塁打は、フルカウントから外寄りストレートをおっつけて左中間に持っていった一打で、技術的に優れていた。
5回裏に田原が放った3点目のタイムリーは、115キロの低めスライダーに対して上体を屈めて食らいついた一打で、横浜に希薄だった執念を見せつけられた。
経験値が浅いこの2人をベンチがどれだけ辛抱して起用し続けられるか、カギを握るのは選手ではなく采配を振るう渡辺元智監督だと思う。
エース柳裕也(右投右打・179/73)は完璧だった。
この日計測したストレートの最速は136キロ。高校を卒業して大学あるいは社会人に進んで体作りが進めば145、6キロはすぐ出るだろう。今の話をすると、柳の投手としての完成度は非常に高い。カーブ、スライダー、チェンジアップ、スローカーブを駆使して緩急を作り、高低、内外の四隅を突くコントロールも正確と言うより緻密。
右打者の内角低めに腕を振ってストレートを投げ込み、踏み込めない空気を作ったあとは常套手段の外角勝負はもちろん、ボールゾーンの高めに再三ストレートを配し、空振りや凡打に打ち取って行くのである。先輩、涌井秀章(西武)を彷彿とさせる投球術とコントロールのよさで、私は柳を見て初めてカタルシスを味わった。
課題はテークバック時のヒジの低さくらいだろうか。自然と上がっていくようなバックスイングができれば高校3年の段階では言うことがない。スピードアップは高校卒業後に取り組んでもらおう。
(文=小関順二)