延岡学園vs宮崎学園
濱田晃成(延岡学園)
濱田晃成、復活
延岡学園・濱田晃成は4番打者として昨夏の甲子園を経験し、2試合で10打数5安打を記録するなど活躍。将来有望な大型野手として、九州内の高校生では早い段階から高い評価を受けていた男だ。
最上級生になってからは本格的に投手を任されるようになり、秋の県大会はエースとして優勝に大きく貢献し九州大会へ。その九州大会では、沖縄尚学に1-2で敗れセンバツ出場の望みは絶たれた。主将としてもエースとしても、4番打者としても1点差勝負をモノにするためにはさらなる精神鍛錬が必要だと悟る濱田晃。その矢先である。練習中に転倒し、左鎖骨を複雑骨折してしまう。11月のことだった。
「目標を失って、どこか緩みがあったのだと思います。それが怪我に繋がったんです」
3本に亀裂した鎖骨を繋げるため、患部にワイヤーを入れ、これを除去したのが今年3月。その後から徐々にボールを使ったメニューを再開し、キャッチボールで入念に指先とボールの感覚を一体化させていった。
キャッチボールではそれほど違和感がなかったと言うが、投球時に引き手となる左側を気にしすぎて上半身、下半身ともに開きが大きくなり、ボールが意図としないシュート回転を見せることが多かったという。
「ブルペンでは捕手と一球ごとに確認しながら、フォームを固めていきました。本当に丁寧に入念に、時間をかけて取り組みましたね」
むしろ悪影響は打撃面に顕著だった。怪我以前は圧倒的なヘッドスピードに的確なバットコントロールを併せ持つ打棒が一番の特徴で、巧打・長打を連発してきた強打者である。
しかし、左半身の力が低下したことで左手による充分な押し込みがかなわず、本来の持ち味である逆方向への強い打球が目に見えて失速していった。南九州最強とも称された濱田晃が、このことによって受ける精神的ダメージは相当なものがあった。しかし濱田晃は、その類稀な個人の能力ではなく、チームメイトの力を頼りに、この苦悩を脱却していった。
「チーム全体のレベルが上がっているので、多少は楽に構えていた部分もあるんです」
昨秋までのチームとは違い、控え選手を含めたチーム全体の打力が大幅にアップしたことが、カムバックを目指す濱田晃の焦燥感を和らげてくれたのだ。
3番を打つ長池城磨は、濱田晃を凌ぐパンチ力と飛距離が備わり、この春に入学したばかりの5番・岩重章仁は九州大会で2本塁打を放つなど機能し、打線全体で4番・濱田晃の復調を待ち続けていたというわけだ。
濱田晃成(延岡学園)
宮崎県2連覇を目指すチームは、初戦で宮崎学園と対戦。4番・濱田晃は4打数無安打に終わった。4度の凡退のうち三度は走者を得点圏に置いてのものである。まだまだ実戦の中で「生命力のあるボールを捉える」という感覚は追いついてきていないのだろうか。
であればと、濱田晃は投手としてチームの大きな戦力となった。
昨秋以来その手を離れていた「背番号1」を最後の最後に託されたことで、いよいよ大黒柱としての自覚が強くなっていったと濱田晃。143キロの直球を駆使する右の本格派投手でもある濱田晃はこの日の試合で4番・三塁手としてスタメン出場。しかし、4回二死二塁、この日先発した背番号4の森松裕次郎が2-0から1点差とされたところで、濱田晃がリリーフのマウンドへ。
「理想を言うと使いたくなかったんですけどね」
と言う重本浩司監督の期待に応えた濱田晃は、この危機をスクイズを封じての投ゴロ、一ゴロで凌ぎ、5回には1番から始まった相手の攻撃を3つの三振で切り抜けていく。縦系統のスライダーはもちろんだが、何より粘りのあるリリースから低目に突き刺さるような直球が素晴らしかった。
5回裏には注目の岩重が右前適時打を放つなど2点を挙げて突き放しに成功。濱田晃によるパワーピッチングが、味方の攻撃に流れをもたらしたのは明白だ。
最終回は春までエースナンバーを背負いチームを救ってきた門前雄大のワンポイントリリーフを仰ぐ。
「8回ぐらいから球が抜けていましたね。へばってしまいました(笑)」
しかし最後は濱田晃が再登板。重本監督から「勝っても負けても、最後にマウンドに立っているのがエース」と全幅の信頼を寄せられる濱田晃が、宮崎学園の反撃を1点に抑え逃げ切りに成功した。
初戦屈指の好カードといわれ、見どころのたくさん詰まった試合だったが、終わってみれば天才・濱田晃成の“引き出しの豊富さ”を見せ付ける試合となった。
強豪ひしめく宮崎を牽引する第1シード、延岡学園。投打の大黒柱は、大いに健在である。
(文=加来慶祐)