沼南高柳vs鎌ヶ谷西
沼南高柳・橋場
19年ぶりの勝利
船橋市民球場の第1試合は鎌ヶ谷西と沼南高柳の対決である。
お互い近隣校同士。
分かりやすい例えをすれば、沼南高柳の最寄り駅は東武野田線・高柳駅。鎌ヶ谷西の最寄り駅は東武野田線六実(むつみ)駅である。
僅か一駅でいけるぐらい近いのである。
一番練習試合と合同練習を組むほど両校の関係は密接している。両校の背景を覗いていくとなかなか面白い対決であることがうかがえる。
沼南高柳の先発・橋場は1回の表から飛ばしていった。1番、2番を連続三振に取り、三番は歩かせたが、4番小山を空振り三振に取り、アウトをすべて三振に取る快調なスタート。初回から飛ばしていた理由を橋場に聞くと「自分は後半になってから力を入れていくのですが、最後の夏ですし、出し惜しみをしたくなかった」と明かしてくれた。
鎌ヶ谷西の先発・森はスライダー、カーブ、チェンジアップを投げ分ける技巧派左腕。こちらも初回を無失点に抑える。先に捉えたのは沼南高柳。2回の裏に5番乙部の初ヒットが飛び出ると、6番菊池も連続ヒットで続き、ワンアウト1,2塁のチャンスを作ったが、7番鈴木がサードゴロ。5-5-3の併殺に倒れチャンスを潰す。
3回の裏、9番高坂が左中間を破るヒット。当たりが浅かったためシングルと思ったが、高坂は一塁を蹴って二塁へ。ベース手前でアウト。明らかな暴走であった。勝ちに行きたい気持ちが強すぎたのかもしれない。その後、2本ヒットが飛び出るが無得点。ここまでヒット6本を記録しながらも得点につながらない。
鎌ヶ谷西・森
得点につながらないチグハグな攻撃の後はたいがいピンチを迎える。ワンアウトを取った後、4番小山に痛烈なセンター前ヒットを許し、5番森藤にはサードのエラーによりワンアウト1,2塁のピンチ。鎌ヶ谷西にとっては絶好のチャンスを迎えたのだが、ミスにより点を逃す。6番高山のレフト前ヒットを打ち、チャンスを拡げたと思ったが、二塁ランナーが三塁で止まり、一塁ランナーは三塁近くまで走っていた。走塁ミスにより二塁ランナーがアウト。結局無得点となり、鎌ヶ谷西は先制のチャンスを逃した。
4回の裏、沼南高柳は一死から5番乙部のセンター前ヒットで出塁すると、6番菊池の左中間を破る二塁打。一塁ランナーの乙部は全力疾走。一塁から一気にホームインし、均衡を破った。さらに7番鈴木もレフトへテキサスヒット。レフトが打球をジャッグル。その間に二塁ランナーがホームインし、2対0とした。
7回の表、二死から9番新田が三遊間へ打球を転がす。お互いが処理しようとしたが、強引にサードが捕って送球したが、暴投。二死二塁とチャンスを作る。1番大畠のライト線へヒットを放つ。二塁走者の新田は一気にホームへ。
これで1点を返す。ライトはバックホームをするかと思われたが、カットマンの一塁手へ送球。大畠の進塁を防いだ。得点圏にランナーを出すことなく、橋場が2番今村をセンターフライに打ち取りピンチを切り抜けた。
8回の裏、鎌ヶ谷西はセカンドの新田心一郎が登板。
彼は3月まで福島の双葉翔陽に在学。しかし福島第一原発の事故により避難を余儀なくされ、鎌ヶ谷西に入学した選手である。
新田は三者凡退に抑えるとスタンドから歓声が上がった。
試合は9回の表。沼南高柳が勝利まであとアウト3つ。まず高山をショートゴロ。9番小林を空振り三振。8番千代木をファーストフライに打ち取りゲームセット。
沼南高柳が平成4年(1992年)以来となる19年ぶりの夏勝利となった。勝利の瞬間、橋場は一塁ベンチ近くまで走り大きく喜びを露わにした。
沼南高柳・橋場
沼南高柳と聞いた時、千葉県の高校野球ファンはどんな印象を持つだろう。私にとって沼南高柳は大差で負けることが多く、決して強い印象はない。
第三者から見てもそういう印象しかなかったので当事者からすれば相当暗い時代を送ってきたのだろうと想像できる。
その沼南高柳に転機が訪れたのは櫛田基喜監督が就任してからだ。基本忠実に行う野球で着実に強化。スコアの差も縮まってきた。
今年は昨年からエースの橋場が残り、腰を据えてしっかりと強化してきた。
今年でちょうど5年目。節目となる年で掴んだ勝利であった。実に長い勝利であった。
試合展開は櫛田監督の予想していた展開になった。
「うち(沼南高柳)はそれほど打てるチームではないので、いかにして少ない点を守りぬく野球ができるか。今日はそれができた試合だったと思います」
エース橋場を中心に守り勝つ野球。
今日も1点差に迫られながらも粘り強い野球ができていた。2失策したものの、要所でよい守備が見られた。
まずひとつ目は2回の表に8番千代木がレフト線へ当たり。悠々と二塁打かと思われたが、素早い連係プレーでアウトにした。
レフト→ショート→セカンドまで無駄のないすばらしい連係プレーであった。二つ目は7回の裏にタイムリーヒットが許した後、バッターランナーの進塁を防いだことだ。もし二塁に行かせていれば得点にさせられる確率は高まり、試合内容は変わっていたかもしれない。一番大きなプレーであった。
抜群に守備が上手いというわけではない。強豪校の選手たちと比べると打球の反応、守備範囲、肩の強さはどうしても劣る。でも自分の力量を把握できた身の丈にあったプレーをしている。
櫛田監督によると「うちの選手たちにできることは限られています。だからいかに無駄な動きをしないで、正確なプレ-ができるか。2,7回のプレーはそれができたと思います」と評価した。
とはいっても粘り強い守りを生み出したのはエース橋場の好投であったことは間違いない。
163センチ60キロの小柄なエース。
投手らしい垢ぬけたフォームをしているわけではなく、地肩の強さを活かした野手投げのようなフォーム。
速球は恐らく125キロ前後~120キロ後半ぐらいだろう。ただ体重がぐっと乗った時のストレートは目に留まるものがあり、鎌ヶ谷西の打者が圧倒されていた。
打者に向かっていく気迫も良い。そういった気持ちの強さが好守備を生んだのだろう。守ってやらなければならないという気持ちがあった。
橋場は打っても一番を打つ。そして主将も務める。まさにチームの中心だ。
一番負担のかかるポジションだが、何もいわず堂々とチームを引っ張る163センチの背中が大きく見えた。
(文=編集部:河嶋宗一)