PL学園vs堺
前野幹博(PL学園)
3年生の雰囲気作り
「帰ってすぐ練習や」。PL学園・深瀬猛コーチが試合後の選手たちに発した言葉。河野有道監督も「全然ダメ」といつになく厳しい表情を見せた。
結果は5対0の完封。スコアだけなら完勝と言えるが、この日のPL学園ナインには、いつになく硬さが見られた。その最たるものが、試合前のシートノック。
フライは捕れない。それに大暴投。見ていて思わず「大丈夫か?」と口にしたほど、選手たちの動きは最悪なものだった。
考えてみれば、昨夏の大阪大会でベンチ入りしていた選手は、深海翼主将をはじめ3人だけで、ほとんどゲームには出ていない。いわば初めての夏。
河野監督も「緊張はあったと思います」とその辺りは感じ取れていた。
普段は夏を意識して練習に取り組んできていても、やはり3年生にとっては最後の大会。初戦のプレッシャーは味わったことがないものだったと推測できる。
試合は、初回に1番三好宏紀(3年)の二塁打を足がかりに、相手のミスもついて先制。その後も得点は細かい隙をついてのものだった。
先発した2年生左腕・松浦淳史(2年)は安定しないピッチングながらも、相手打線をうまくかわして、無失点を続けた。
見せ場となったのは8回。5番で起用された1年生の前野幹博がライトへホームラン。これが5点目となって、流れの上ではとどめを刺した。
三塁ベースコーチの山本龍之介
この日は前野をはじめ、3番ショートで中山悠輝、8回から2番手投手として南一輝と1年生が合わせて3人がデビューした。
指揮官は、「(1年生は)思い切りバットを振ればいい」と話す。
そこで大事なのが、上級生。
立ち上がり3番の中山が打席に立つと、「なかやまっ!」と声が飛んだ。
その主は三塁ベースコーチの山本龍之介(3年)。声の瞬間、中山の表情が一瞬緩んだ。
最初の打席で結果は伴わなかったが、3年生の一声が、硬さを少しでも和らげたのは間違いない。
前野に対しても、「思い切りいけ」と深海主将をはじめ多くの3年生が声をかけた。こういった積み重ねが、8回の試合を決める一発を生んだと思われる。当たり前かもしれないが、これこそが大事な要素。
上級生にも硬さが見られ、内容では決して良いとは言えないものの、1年生をノビノビやらせたいという3年生の雰囲気作り。その意図だけは十分に感じ取れた試合であった。
2戦、3戦とどう雰囲気を作り上げていくかみものである。